レポート

「WACATE 2009 冬」レポート─魔法のテスティングワークショップWACATEの秘密を探る

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

4.現場とのつながり

一番のカギとなる演習3は,GQMテンプレートを使いメトリクスの目的を表現するものでした。

“配られた回答シート(GQMテンプレート)を記入して,メトリクスを取ることの重要性及び必要性を説明すること。説明相手は,自分の上司や経営者を想定し,今後の「コメント率」メトリクスの測定活動の予算を確保することがねらいです⁠この説明に思わず身震いをしました。これはまさに現場で直面することです。

たとえばメトリクスを取るために,設計部門に協力してもらわなければならないことがあります。設計は,余計な仕事を嫌がります。これは,お金の問題よりも厄介です。どうやったらモチベーションを持たせることができるでしょうか。納得させる説明が必要になります。この演習は,こうした一番大切なアクションに対する稽古でした。

昨年開催されたJaSST'09 Tokaiの基調講演において,電気通信大学の西先生が,効果的なテストに必要な考え方の1つに説明責任があると述べておられました。まさにこのWACATEの演習で考えて,発表していくことがその説明責任であり,まさに実践に即したお仕事のエクササイズです。

図6 簡易GQMテンプレートへの記入例

図6 簡易GQMテンプレートへの記入例

5.チームの形成と時間の使い方

WACATE参加者が鍛えられるもうひとつの要素がチーム形成と時間管理です。

1日を過ごしてグループが形成できたとしても,演習時はひとつの解を模索していくチームとして振る舞わねばなりません。演習ではリーダーを決め,段取りを考え,担当者をアサインし,議論や作業を成果物としてまとめていくということを行っていきますが。このプロセスの中で,役割分担,協力,コミュニケーション,傾聴,論理的思考といった要素がグループの中でぐるぐると回っていきます。いかに有機的なチームを作り上げ,チームを成功に導くかは,ここまで挙げたような要素に取り組めたが鍵となります。このとき各自は,チームにおいてどのような責務を負うかをしっかりと認識する状況把握の能力が求められます。

また,決められた演習時間に成果物を作り上げるのは時間を意識しなければなりません。普段,誰かが決定したスケジュールどおりに業務を行うことが多い若手にとって,全体の段取りスケジュールと個別作業のスケジュールやそのタイムキープと遅延した場合の挽回策の立案と実行など,今後の成長に向けた良い訓練となります。

図7 コミュニケーションを軸に進められるチーム演習

図7 コミュニケーションを軸に進められるチーム演習

6.演習の最後は発表

最後の難関は発表です。若い20代の人で行うことが条件でした。普段会社ではなかなか発表の機会がない若手には,絶好の発表の訓練の場です。声を出し,多数の人を前に説明するのは緊張します。グループ全員で前に出て発表者をバックアップします。また,経験が少ない若手がスムーズに発表できるようなアドバイスも行います。発表者以外も「発表の指導を行う」という訓練を行うことができます。

いずれにせよ失敗した者勝ち。場数を踏むことが上達の早道です。終わったら全員で思いっきり拍手します。⁠良かったよ,お疲れさまでした」と声を掛け合って相手に敬意をはらい,達成感を分かち合います。これは他の演習でも同様です。このような分かち合いを2日間やっていくうちに,グループやWACATEという場がどんどん盛り上がっていくのです。

図8 発表の様子1

図8 発表の様子1

図9 発表の様子2

図9 発表の様子2

7.できそうでできない

WACATEに参加すると,このようなワークショップが簡単にできそうな錯覚を起こしますが,この学習空間を作り上げるのは実は非常に難しいことです。試しに社内でやってみようとしますが,なかなかうまくいきません。まずは,ワークショップというと人が集まりません。演習がいや,失敗がいやなのです。座学を聞いて終わらせたいと思うのですね。そして人前で発表するのをいやがります。恥ずかしいと引いてしまいます。

でも,WACATEを味わっている者にとって,これこそが重要なことに気づいています。ワークショップにおける気づきは非常に学習効果が高いものです。それを支えるのはソフトウェアテストに対する共通の思い,ソフトウェア品質に対する共通の価値観です。お互いに学びあい助け合い認めあう心,それに触れたときに皆WACATEのとりことなってしまいます。

8.教育の本質

振り返ると,⁠怒涛のごとく⁠という言葉がふさわしい2時間でした。このワークショップでの気づきをまとめると,なんといっても,何のためにこのメトリクスを測るか,メトリクスを測る意義と目的を考えることがまず重要なことです。それを考える上で,その解析,結果をイメージして,その効果を表現していく説明責任が大切なこと,品質を語るには,このスキルを磨かなければと強く思いました。

さて,今回はメトリクスの演習を取り上げましたが,グループ学習において,実に巧みなファシリテーションが行われていることがわかります。そしてすごいのが,そのファシリテーションが自然にグループから生まれてきていることです。

もちろん,原さんの講師としてのガイドがうまいこともあります。でももっと重要なのは,グループの自発的な活動です。グループの中ではベテランも少しは手伝っていますが,むしろ常連など過去にWACATEに参加した人が引っ張っていきます。1日目最初の頃の少し硬い感じが,プログラムが進むにつれほぐれていき,議論が活発になっていきます。参加者それぞれの個性を生かしながら,協力し,議論し,考え,そしてみんなで失敗します。

この取り組みの過程で,グループをまとめていく力,コミュニケーション能力,プレゼンテーション能力,実が鍛えられていくのです。しかしながら,実に多くのことに取り組んでいながらも,皆楽しく前向きに取り組んでいます。それぞれが主役であり,自ら参加している自覚を持っています。WACATEというイベント自体は実行委員が企画をしていますが,実際のWACATEをドライブしているのは参加者を含めた全員であることがわかります。

今まで述べてきたWACATEの優れた要素をマインドマップにまとめてみると次のようになります。

図10

2

この境地に到達できるワークショップを企画するというのは大変なことです。毎回,WACATE実行委員の企画力と実行力には敬服してしまいます。この「グループで協力し合いながら学んでいく」という学習形態は"Cooperative Learning"と呼ばれています。学習者自らが能動的に学んでいくといく,まさに教育の本質が感じられる活動です。いろいろな仕掛けはあるけれど,これはやはり奇跡の集まりだと思います。本稿にて興味をもたれた皆さん,ぜひ体験してみませんか? そして一緒にコラボレートしていきましょう!

図11 親睦を深める大宴会!

図11 親睦を深める大宴会!

図12 終了時に全員でパチリ!

図12 終了時に全員でパチリ!

9.終わりに

筆者が考えるWACATEの魅力を,WACATE2009冬のレポートに乗せて簡単にお伝えしました。ですが,まだまだその魅力の全ては書ききれませんし,実際に体験してみないと本当には理解できないと思います。本稿以外の情報としては,下記にあるgihyo.jpのレポートやWACATEが発行している無料情報誌をご参照ください。

いろいろレポートを読んでいくうちに,参加したくなってきた方もきっとおられることでしょう。なんでも次回のWACATE「WACATE2010 夏(仮⁠⁠」は2010年6月12日(土⁠⁠~13日(日)に開催予定だそうです。本稿で興味をお持ちになった皆さんは,ぜひ今から予定を確保してください。一緒に盛り上がりましょう。

著者プロフィール

永田敦(ながたあつし)

WACATEは5回行われたうちの4回に参加。もとは組込みソフトのエンジニアだったが,2003年ごろからテストに興味を持ち始める。2005年にHAYST法を学び始め,JaSST’08 Tokyoでベストスピーカー賞を取る。今は社内でテストプロセス改善を中心とした活動を行っている。また,テストの静的手法としてドキュメントレビューに興味を持ち,Agile Inspection Leader, Agile Inspection Process Ownerの資格をTom Gilb氏から得る。