drikinが見たGoogle I/O 2010[1]初日基調講演

2010年5月19、20日の2日間、2008年から「Google I/O」と呼ばれるようになり恒例行事となりつつあるGoogle主催の技術カンファレンスが、今年もサンフランシスコのモスコーンセンターで行われた。Google I/Oは、当初はWeb技術にフォーカスしたカンファレンスだったが、今ではWeb技術だけでなく、Android、Google Chrome、Google API、GWT、App Engineなど、Googleのさまざまなテクノロジーをカバーするカンファレンスに成長した。

会場となったモスコーンセンターウェストの入り口には巨大なGoogleマップのピンオブジェクトが登場。
会場となったモスコーンセンターウェストの入り口には巨大なGoogleマップのピンオブジェクトが登場。

今回縁あって(twitterで依頼されて⁠⁠、このカンファレンスの様子を初日、2日目の基調講演を中心にお伝えすることとなった。いくつかの個別レポートという形で、一エンジニアから見たGoogle I/Oという技術的な観点から、僕なりの感想をレポートして行きたいと思う。

まずはレポート第1弾として、初日の基調講演から紹介しよう。

基調講演の行われる会場3Fのメインフロア会場に設置された巨大ワイドスクリーン
基調講演の行われる会場3Fのメインフロア会場に設置された巨大ワイドスクリーン

いよいよ実用段階に入ったHTML5

朝9時、技術担当副社長Vic Gundotra氏の挨拶から始まったGoogle I/O 2010初日の基調講演。同氏は早々に挨拶を終えるといきなり「明日の基調講演は今日よりも30分早い、8時30分から開催されるけど、サプライズがあるから見逃さないように!」と明日の基調講演について発表。⁠皆さんデベロッパなので朝早いのが辛いのはわかるけど、頑張って来てね」と笑いを取るあたり、やっぱりエンジニアの夜型生活は世界共通なんだなと思いながら、カンファレンスはスタートした。

Google技術担当副社長Vic Gundotra氏による挨拶
Google技術担当副社長Vic Gundotra氏による挨拶

初日の基調講演はWebテクノロジーがテーマ。WebアプリケーションとHTML5を中心に、Googleの考えるHTML5の現状と今後についての展望が語られた。

HTML5の状況については、今年の年末にはGoogle Chrome/FireFox/Safari/Opera/IEなど主要ブラウザがHTML5の一通りの機能を実装完了するだろうというロードマップを提示。ただし一通りと言いつつ、IEだけが一部の機能しか実装していないグラフを見せて聴衆からは笑いが…。

その後、最近機能が追加され話題になったGoogle ChromeとGmailによるドラッグ&ドロップによる添付ファイルの追加機能や、メールの新着を通知してくれるNotification機能のデモ、MugTugやClickrなど最新のWebアプリケーションによりHTML5のテクノロジーが紹介された。

さらに、最近Googleが買収して話題となっていたビデオ圧縮技術On2テクノロジーのオープンソース化とロイヤリティフリー化によるWebMプロジェクトを発表。すでにFireFoxやOperaなどではWebM対応ビルドが動作しているとのことで、コーデックのライセンス問題で実装状況が異なるためなかなか対応が難しいHTML5のvideoタグ普及の切り札になることが期待される。 2004年のAjaxの登場から6年、ついに本格的なWebアプリケーションを実現するために必要となるHTML5技術の実装がほぼ完了し、いよいよ本格的Webアプリケーション時代が到来することを強くアピールしていた。

実際、去年までのGoogle I/Oでは、あるデモではGoogle Chromeを、別のデモではSafariやFireFoxを利用するなど、コンテンツが必要とするHTML5機能の実装状況に合わせてデモのたびに異なったブラウザを利用していたが、今年のGoogle I/Oでは、全体を通して基本的にGoogle Chromeだけでデモを行っていて、完成度の高さをアピールしていた。

朝一番で会場入りし、基調講演会場に向かう人々の様子
朝一番で会場入りし、基調講演会場に向かう人々の様子

次に、最近Flash対応問題で話題に事欠かないAdobeからCTOのKevin Lynch氏が登場。AdobeによるHTML5についての取り組み状況についての説明とデモが行われた。

ただし、この場ではFlashについては特に言及はなく、DreamweaverやIllustratorなど、先日発売された最新版のAdobe CS5シリーズでHTML5のオーサリングにも対応したことを紹介。Adobeとしてはある意味Flashのライバル技術とも捉えることができるHTML5機能に対して、オーサリングツールとしてきちんと対応してきたことは正しい対応であり、Webアプリケーション時代でもAdobeのアプリケーションが有用であることをアピールした形だ。

基調講演の開場を待つ人々
基調講演の開場を待つ人々

HTML5普及の鍵を握るか?─Chrome Web Store

いよいよ基調講演も佳境に突入。HTML5の実装が完了し、多くのWebアプリケーションが登場すると、HTML5対応のWebアプリケーションを探すのが難しくなってくる。そこでこの問題を解決すべく、GoogleからChrome Web Storeが発表された。これは、ChromeおよびChrome OS上で実現されたストアで、Android MarketやiPhoneにおけるAppStoreのWebアプリケーション版と言える。

Chrome Web Storeは単にWebアプリケーションのポータルというだけでなく、有料のWebアプリケーションの販売もサポートされる。AndroidやiPhoneの登場で、モバイルアプリケーションについては有料アプリの配信も一般的になったが、PCアプリケーションのダウンロード販売は未だにプラットフォームが確立されてない現状で、先にWebアプリケーションが売れる時代になるというのは感慨深いものがあった。

また配信アプリケーションの一例として、EA社が開発したPlayStation3などのゲーム機で人気のあるゲーム「レゴスターウォーズ」のHTML5版が紹介された。Google Chrome上でゲーム機と遜色のない3Dグラフィクスのゲームがサクサク動いている様子は、Webアプリケーションがゲーム市場でも十分実用になることをアピールしていた。

ここ数年、Googleは自社製のブラウザ開発を行い、HTML5の標準化を積極的に牽引し、ブラウザ上でネイティブアプリケーション並みに3Dグラフィクスを扱えるWebGL技術の開発にまで手広く注力してきた。一見すると手当たり次第取り組んでいるように見えるGoogleのさまざまなプロジェクトが、高度なWebアプリケーションの実現というゴールに向けた活動であり、これらがChrome Web Storeで集約され、リッチなWebアプリケーションの実現につながるという壮大なシナリオと、それを実現する力に改めてGoogleの凄さを実感した。

初日の基調講演のスライドのテーマとなっていたサーキット風なバックグラウンド。常にアニメーションしていた。
初日の基調講演のスライドのテーマとなっていたサーキット風なバックグラウンド。常にアニメーションしていた。

基調講演最後のテーマはHTML5の将来について。Google Waveについては、今がカンバックのタイミング、二度目のトライをして欲しいとさりげなくアピールしつつ、サーバやWebアプリケーションを開発するために必要なツールの話へと移った。

サーバについては、VMWareと協力して「Sprint Roo」というプロジェクトを発表。詳細についてはあまり把握できなかったが、印象としてはJava/Google Web ToolKit(GWT)版のRuby on Railsという感じ。簡単にJavaとGWTを使って、リッチなWebアプリケーションが作れる環境が提供される。

また、エンタープライズ分野では、Google App Engine for Businessを発表。SSLやSQL Schemeの対応などを追加しつつ、月額8ドルからの実用的な価格設定で提供されることがアナウンスされた。

基調講演会場待ちの間に提供された朝食の様子
基調講演会場待ちの間に提供された朝食の様子

初日のまとめ

初日の基調講演は、期待されていたAndroid2.2(Froyo)の発表などはなく、HTML5に始まりHTML5に終わるという感じで、Webアプリケーションの実現に向けたGoogleのさまざまな取り組みと実現状況の紹介が主だった。HTML5の実現については昨年のGoogle I/Oでも強くアピールしていたが、今年のGoogle I/Oではいよいよ準備が完了し、Google Chromeの成熟やChrome Web Storeの登場により、本格的なWebアプリケーション時代の到来が現実化することを予期させるに十分な説得力があった。

Webアプリケーションの実現については、Appleの初代iPhone発表当初、ユーザによるiPhoneアプリケーション開発はWebアプリケーションのみという制限の下、促進が期待されたが、ご存じのようにAppleは早々に方向を転換し、iPhoneではネイティブアプリケーション中心にシフトした。しかし、Googleはその後も着実に歩みを続け、いよいよGoogle ChromeやChrome OS上でWebアプリケーション全盛時代を築き上げることができるのか、非常に興味深い。

Google I/O 2010ホームページ
URL:http://code.google.com/intl/ja/events/io/2010/
Google I/O公式Twitterアカウント
URL:http://twitter.com/googleio
GoogleDevelopers YouTube channel
URL:http://www.youtube.com/googledevelopers

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