100Gbps回線時代いよいよ到来! ─Interop Tokyo 2010を振り返る

今年のInteropは、技術的な視点で見ると、例年と同じく最新技術の展示とともに、各種製品がさまざまな現場での活用を見すえてより実用的な技術へと技術革新している方向性を感じました。傾向としては、最新技術はShowNetで展示され、各出展社ブースでは最新技術とともに各種現場を見据えた実用的な新提案も見ることができました。

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ShowNetのみどころ

Interopは、未発売の最新機器などを使って構築するライブネットワークであるShowNet上で、各種ネットワーク実験を行う実験場という側面を持っています。このShowNetで今回最も派手だったのが、100Gbpsの広帯域回線による対外線です。さらに、クラウドサーバネットワークゾーンでの仮想化サーバ、Ether OAMによる運用などもありました。

2つの100Gbps対外線

今回のInterop ShowNetでは、2種類の100Gbps回線が対外線として利用されました。

NTTコミュニケーションズ、インフィネラジャパン、イクシアコミュニケーションズの3社が共同で実現した100GBASE-LR4(25Gbps 4波)による100Gbpsと、ソフトバンクテレコムとアルカテルルーセントが共同で実現したコヒーレント変調による100Gbps 1波の100Gbpsです。

100GBASE-LR4

100GBASE-LR4などの100ギガビットイーサネット(100GbE)などの100Gbpsクラスの回線は、これから実用化されていく技術です。

2002年ごろに製品として登場し始めた10GbEは、現在バックボーンネットワークで一般的に利用される通信インターフェースとしては最速です。10GbEを複数束ねるリンクアグリーゲーション機能を活用して、仮想的に40Gbpsの通信インターフェースとする運用はさまざまな場所で使われていますが、単一の通信インターフェースで10GbEよりも広帯域の通信インターフェースはありませんでした。

NTTコミュニケーションズ、インフィネラジャパン、イクシアコミュニケーションズの3社が「今回のInterop Tokyo 2010のShowNetでの運用が『世界初⁠⁠」と共同発表していることからもわかるように、100GbEは「まだこれから」の技術と言えます。実際には100GbE規格の標準化は完了しておらず、まだ製品化前の状態です。100GbEの標準化が開始したのは2005年ですが、2010年6月(今月)やっと標準化が完了すると言われています。このように、100GbEの規格であるIEEE 802.3baが、まだ標準化完了前のP802.3baということもあり、100GbE-LR4による実トラフィックを活用した実運用は世界初という形になっています。

ShowNetで行われている100GbE-LR4運用は、幕張と大手町の間で接続されています。間の伝送装置としてはInfinera DTNが利用されています。Infinera DTNのDWDMモジュールからは10Gbps 10波として伝送されます。100GbE-LR4は、シングルモードファイバ内に25Gbps 4波として伝送されるので、今回のShowNetでの100GbE-LR4まわりを光の波という視点で見ると図1のようになります。

図1 Interop Tokyo 2010のShowNet 100GbE-LR4構成
図1 Interop Tokyo 2010のShowNet 100GbE-LR4構成

ShowNetで行われた世界初の100GbE-LR4運用は、展示としては2ヵ所で行われています。1つはShowNet NOCブースのラック内で、もう1つはNTTコミュニケーションズブース内です。ShowNet NOCブースにCRS-3が設置されており、CRS-3からNTTコミュニケーションズブースのInfinera DTNまで100GbEで接続され、Infinera DTNが幕張から大手町への伝送を担っています。

図2 100GbE-LR4運用構成
図2 100GbE-LR4運用構成

CRS-3はバックプレーン容量が140Gbpsであることが大きな特徴ですが、100GbEをワイヤースピードで運用するためには、バックプレーンが 40GbpsであるCRS-1ではバックプレーン容量が足りないため、ShowNetではCRS-3が利用されています。

Cisco CRS-3
Cisco CRS-3
Infinera DTN
Infinera DTN

100Gbps 1波伝送

昨年と比べた今年のInterop対外線の大きな特徴の1つとして、ソフトバンクテレコムのULTINA Data Servicesによる対外線コントリビューションがあります。

ULTINA Data Servicesを利用した100Gbps伝送は、ソフトバンクテレコムとアルカテルルーセントが共同で実現しています。光の干渉効果を用いた新変調方式であるコヒーレント変調を利用して、幕張と池袋間を100Gbps 1波で実現しているものです。今回使用されたアルカテルルーセントの1830 PSS-32(Photonic Service Switch)は、この100Gbpsを88波まとめることができるDWDM装置なので、機器としては8.8Tbpsを実現可能です。

ShowNet NOCブースに設置してあるアルカテルルーセント1830 PSS-32に入っている銀色のカードが100Gbps伝送用のカードです。製品化前なので、表面塗装が行われていない銀色のカードとなっています。

この100Gbps 1波伝送の中を流れていたのが、10GbE 3本です。各10GbEリンクを利用して、Yahoo! BB、ODN、mpls ASSOCIOの3ヵ所とBGPによるピアリングが行われました。図3の「ULTINA Data Services」となっている部分が、ソフトバンクテレコムによるコントリビューションです。

図3 対外線図(Interop Tokyo公式サイトより)
図3 対外線図(Interop Tokyo公式サイトより)

各10GbEは、幕張会場でアルカテルルーセント1830 PSS-32へと接続され、1830 PSS-32が100Gbps 1波としてまとめたものを池袋まで運ぶという形です。

ShowNetサーバ仮想化デモ

クラウドサーバネットワークゾーンで、VMwareによる仮想化サーバが運用されていました。VM上で動作している主なサービスとしては、Interop内で利用するDNSキャッシュサーバ、ShowNet用トラブルチケットシステム、その他各種実験用のOSインスタンスなどが挙げられます。

クラウドサーバネットワークゾーンでは、複数のベンダや複数の仕組みを組み合わせた混在環境でのサーバ仮想化を実現しています。サーバ仮想化の概念は図4のようになります。

図4 マルチベンダによるサーバ仮想化の概念
図4 マルチベンダによるサーバ仮想化の概念

図4では、クラウドサーバネットワークゾーンの構成はVMが下位の機器構成に依存せずに仮想化されています。真ん中のレイヤは物理的なサーバを表しています。今回のデモでは、Cisco UCS(Unified Computing System)と2UのIBM x3650が物理サーバとして利用されています。

Cisco UCS
Cisco UCS

これらの物理サーバに対するストレージとして、今回のデモではiSCSI、FC(Fiber Channel⁠⁠、FCoE(Fiber Channel over Ethernet)の3種類が同時に利用されています。

この物理サーバとストレージを包括的に使えるように仮想化を行っているのがVMwareです。VMwareによって、各VMは下位のハードウェアの差異を意識せずに使えます。

ライブマイグレーション

このような複数ベンダによる混在環境で、VMが物理サーバ間を移動する「ライブマイグレーション」も可能です。

ライブマイグレーションの利点としては、ハードウェアの交換を無停止でできることや、ハードウェアの負荷が上昇してきたらいくつかのVMだけを別VMへと移動させることで負荷分散が可能といった点が挙げられます。今回の環境においても、仮想マシンのCPUやメモリ負荷が上昇すると自動的にリソースが空いている物理サーバにマイグレーションするVMwareの機能を利用しています。

配線を極限まで削減しつつ冗長化

このクラウドサーバネットワークゾーンでおもしろいのは、ケーブルの数が圧倒的に少ない点です。Extreme Summitが4台構成のスタックとして1台に、Cisco Nexus5010が2台構成のスタックとして1台に見えるように、それぞれ設定されていて、物理的に複数台のスイッチが仮想的に1台になっています。これにより、裏にあるスタック用10Gbpsケーブルによる冗長構成が実現しています。

Cisco ASA 5580とExtreme Summit
Cisco ASA 5580とExtreme Summit

さらに、サーバ仮想化とVLANなどによるネットワーク仮想化を組み合わせて、物理ケーブル2本で冗長構成まで実現している部分もあります。まず、シャーシ型ブレードサーバであるCisco UCSによって複数台サーバの電源管理などをまとめつつ、物理ケーブル接続数も減らせています。

FCoEを処理するBrocade 8000 & Cisco Nexus 5010
FCoEを処理するBrocade 800

FCoEとFCを扱っているのは、Brocade 8000とCisco Nexus 5010です。FCoEとFCを両方とも同じスイッチに接続して扱えるというのが、これらのスイッチの強みです。1つのスイッチからFCoEとFC両方への接続をまとめたうえで、Cisco UCSとIBM x3650への接続が行われるため、ストレージと物理サーバ間の配線がシンプルになります。

Ether OAM

昨年に続き行われたEther OAMですが、今年は富士通九州ネットワークテクノロジーズによる可視化システムも作成され、Ether OAMが実運用へと大きく近づいたことを実感できました。

富士通九州ネットワークテクノロジーズのNXS-SPは、ShowNet内にあるEhter OAM対応機器のマップを表示し、到達性のある場所を示しつつ、到達性が失われた場所を赤く表示します。このネットワークトポロジ図は、自動的に作成されるものではありませんが、この図を眺めていると、どこかに不具合があってもL2レベルで把握が行いやすかったとのことでした。

図5 NXS-SP
図5 NXS-SP

資料ダウンロード

今年のInterop構成に関しては、公式Webサイトで公開されています。

この公開ページでShowNetに関しては、以下の資料とともにテクニカルビデオが公開されています。

  • クラウドコンピューティング@Interop2010
  • IPv4枯渇、IPv6移行ソリューション
  • IPv4アドレス枯渇対策/IPv6への円滑な移行
  • マネージャブルな仮想化
  • ShowNet相互接続実験検証結果レポート

今年からは、ShowNetトポロジ図をPCの壁紙にしたものも配布されています。

図6 ShowNetトポロジ図
図6 ShowNetトポロジ図

マイナス10度~50度のAlaxlaルータ

出展社による展示品の中にもいろいろ注目すべきものありました。

現場を見据えてより実用的な方向性へと技術革新している方向性を感じた製品として、Alaxla AX1250Sが挙げられます。ほこりが非常に多くて冷却用のファンがあることが好ましく無い、工場・鉄道・道路などの環境を想定したスイッチです。

Alaxla AX1250S
Alaxla AX1250S

非常に地味な特徴ですが、性能や機能での競争が多い通信機器の中で異色の存在を放っていました。

おまけ

NICTブースで展示してあった萌絵バージョンの攻撃検知ソフトです。萌絵部分は開発者が自費で知人絵師に描いてもらったそうです。

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昨今、米や醤油や梅酒などさまざまなものが萌絵化していますが、セキュリティソフトにも萌絵の波が来る時代を先取りしているのでしょうか?

最後に

幕張メッセ全てを貸し切っていた数年前と比べると明らかに規模が縮小しているInteropですが、今年もいろいろとおもしろいものがありました。

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