「WACATE2010 冬」レポート─温故知新に驚きと感動と

読者の皆様、はじめまして。WACATE初参加の水野と申します。今回、⁠WACATE2010冬」⁠2010年12月18日~19日、於:マホロバ・マインズ)にてベストポジションペーパー賞を頂いたことで、この場でWACATE2010冬を紹介する機会を頂きました。今までにもWACATEは何回かレポートにて紹介されていますが、今回は初参加で感じた「驚きと感動」を交えたレポートとさせていただきます。少しの間、どうぞおつき合いください。

ベストポジションペーパー賞受賞時の筆者
ベストポジションペーパー賞受賞時の筆者

以下ワークショップの内容に沿って、振り返りレポートとさせていただきます。アフロと猫耳が登場した怪しげなオープニングから、衝撃の2日間が幕開けです。

ポジションペーパーセッション~自己紹介とアイスブレイク

ポジションペーパーは「立場表明書」です。⁠参加にあたって」の意見と「WACATEに参加して特に議論したいこと」の2点のテーマに対して記載するフォーマットとなります。参加者が実際に作成したポジションペーパーは、幕の内弁当の写真や眠々打破の画像が用いられるなど、ユーモアにあふれつつも真面目で熱い思いが込められております。WACATEに参加して学びたいこと、自分のスキルを見直してみる、ソフトウェアテストに対する熱い思いなどが記載され、参加者のポジションペーパーを読むだけで楽しむことができます。

ポジションペーパーセッションでは、5名で1チームのメンバー内においてポジションペーパーを用いた自己紹介とWACATEに対する思いを語ります。一人当たりに与えられた時間は3分間。自己紹介ライトニングトークスです。なお、小道具として用意されているゴングにより時間通知が行われます。

ポジションペーパーセッション風景
ポジションペーパーセッション風景

コミュニティに初参加するような場合には、最初から他の参加者とのコミュニケーションをスムーズに行うことは困難です。挨拶はしたとしても、その後は配布資料を読んだりしてしまって声はかけづらかったりします。実際に、私もWACATEの会場に到着直後は予稿集を読んでいました…。

しかし、お互いの自己紹介を行った後はコミュニケーションがスムーズに行くようになっていたという驚くべき体験をします。自分の思いを声に出すこと、そして相手の思いを聴くことがアイスブレイクとして非常に有効な手段であることを実感できるのです。

BPPセッション「WACATEとスキーに見る加速効果の共通性についての一考察」

前述したポジションペーパーは、参加者の投票によりベストポジションペーパー賞(BPP賞)が選出されます。そして、BPP賞を受賞した参加者は次回WACATEに招待され、セッションを持つことができます。前回のBPP賞受賞者は小田部健さん、WACATEテーマの1つである「加速」についてスキーをメタファーとして関連性を紹介するという発表です。

実際にスカイダイビングにおける重力加速を体験した時の写真で参加者の心をつかんだこの発表では、普段からの考え方、決断(心のインナーマッスル)を仕事の決定(心のアウターマッスル)に生かすという方法の提案が行われました。通常生活からの自己の鍛錬の重要性について感じさせられ、心が引き締まります。

技法を勉強する前に

鈴木三紀夫さんによるセッションは、テストのライフサイクルについての紹介です。テストにおけるプロセスには、計画、分析、設計、実装、実行などの業務が存在します。ここで、テスト設計というものを意識するだけでも品質向上への効果がありますが、設計をさらに良くするためには技法を知る必要がある、という流れです。

ここで、⁠テスト計画はプロセスと並行して変わり続ける」という話を頂きました。開発プロジェクトにおける計画も同様ですが、最初の計画通り進むというケースは存在しません。そのため、状況が変わることで常に計画も変わり続ける必要があるというものです。

テストのライフサイクル
テストのライフサイクル

テストの技法は、各組織おける独自表現が存在することや、同一の技法が別名で呼ばれる場合があるなど、さまざまな名称が存在します。ここで、⁠あなたの知っているテスト技法を書き出して分類してみよう」というミニワークショップを実施しました。複数人にて付箋を用いて書き出すことにより、参加者のテストにおける得意分野の確認や、未知の技法を発見することができます。

ワークショップ「デシジョンテーブル」

前半に加瀬正樹さん、後半に近江久美子さん、井芹洋輝さん両名によるデシジョンテーブルについてのワークショップが行われました。ここからは、実際に手を動かして課題に取り組みます。

デシジョンテーブルは、⁠入力」「出力もしくは動作」を合わせて1つの表形式で表現したものになります。表の各列が1つの試験パターンを意味します。表に表現することにより、複雑な論理に対しての曖昧さを排除することができます。また、レビューによる検証が可能となるという利点もあります。

デシジョンテーブル
デシジョンテーブル

前半のワークショップでは、デシジョンテーブルについての講義を受け、演習問題によって実際にデシジョンテーブルの作り方を理解します。後半には、⁠Myersの三角形」を題材とした、デシジョンテーブルテスト構築までの実践演習となります。Myersの三角形を簡単に説明しますと、⁠三辺の長さ」を入力として、⁠三角形が不等辺三角形か、二等辺三角形か正三角形か」を判断して出力とする、というプログラム問題です。当然、三辺の長さによっては三角形として成立しないケースもあります。

今回は、このMyersの三角形をベースとした仕様書が用意されました。この仕様書には「TBD(未定⁠⁠」の箇所が存在し、ワークショップ途中で仕様が確定されるなど、実際の業務に近い条件で課題に取り組むこととなります。

このワークショップでは、学んだテスト技法を実践にて作成するのみではなく、チームを意識した作業分担も考える必要が生じます。参加者はタイムマネジメント、チームマネジメントが求められ、実際の業務と同等の体験をすることができます。

WACATEにおけるワークショップは、このような実務に生かすための工夫が多数含まれています。チームで課題に対して実際に手を動かしながら考えることによって、座学や読書のみでは得ることが難しい貴重な経験を得ることができるのです。

ディナーセッション

WACATEにおけるディナーセッションは忘年会さながらの状況で進められます。数々の催し物の企画や抽選プレゼントなど、楽しい夕食となります。ここでは、2日目セッションの予習として、辰巳敬三さんから「書籍から見るソフトウェアテストの歴史」が紹介されました。カバーフロー(iPhone横倒し時のCDアルバム選択画面の形式)で歴史的な書籍を紹介するという仕込みで、参加者の目は釘付けとなりました。

宴会の風景
宴会の風景

夜の分科会

ディナーセッション後に行われる夜の分科会では、複数のテーマから1つを選択して議論を行います。残念ながら、全てに参加はできませんので、今回は私の参加した「デシジョンテーブルワークショップのふりかえり」について簡単に紹介します。

これは日中のワークショップ内で各チームが作成した成果について、議論するというものです。⁠技法がなぜ必要なのか?⁠⁠、⁠デシジョンテーブルは本当に有効な手段なのか?」から始まり、チーム間でのデシジョンテーブルの検討方法の違いについて互いの信念がぶつかり合うなど、参加者の熱い思いで室温も上がる白熱議論が夜遅くまで行われました。

分科会の風景
分科会の風景

合宿会場

合宿会場となる「マホロバ・マインズ」には温泉があります。合宿形式で勉強詰めとなってしまいますが、温泉で体力を回復することで、2日目のセッションも全力で取り組むことができます。また、参加者は複数名で1つの部屋に宿泊することになりますので、夜通しの熱い議論を行う人もいるとのコトです。

分科会の風景(2)
分科会の風景(2)

テストと海外とワタシ

ここから2日目となります。

大西建児さんのセッションは、大西さん自身のテストと海外との関わりについての紹介です。国内外のテスト業界において精力的な活躍を見せる大西さんですが、テストとの最初の出会いは偶然の配属によるものであったこと、意欲的に学ぶことによって実力をつけたこと、そして海外へのチャレンジと、キャリアを考える上で参考となる貴重な体験談が多数紹介されました。

「海外では自分が外国人。外国人が一生懸命片言で話そうとすると私たちは一生懸命聞きますよね」という実感のこもった言葉と、⁠海外に行くことはそれほど高い壁ではない」という力強い言葉により、海外を目指す人に対して勇気を与えていただきました。

技法の必要性を考えてみる

河野哲也さんのセッションは、技法の必要性を実際に体験するというものです。とあるA4枚分の文書から「の」「v」などの文字数を数えるという課題です。

「技法の必要性」の模様
「技法の必要性」の模様

この「数を数える」という作業に対して条件を変えながら複数回行うのですが、技法の必要性を体験できる絶妙な課題として考え抜かれています。

1回目各個人で自由に数える個人作業の不正確さとばらつきを知る
2回目チームで技法を検討後に数える技法を考えて使う価値を知る
3回目チーム全員で数えるチーム活動の価値を知る
4回目他チームの技法を用いて数える技法を応用する価値を知る

このように、段階的に技法の必要性を実感することができます。

個人の作業には限界があること、技法によってばらつきを押さえることができること、チームで技法を使うことによって価値を高めることができること、他の人が技法を使用した場合にも役立てる流用性があること、体験を通して技法について学ぶことで、頭と体で理解することができます。この体験による学びは、WACATEの特徴であり価値のひとつです。

Test.SSFセッション「温故知新-自分を知って進もう-」

小山竜治さんのセッションでは、ソフトウェアのスキル標準である「Test.SSF」を実際に使ってみるセッションです。テスト詳細設計に必要なスキルが分類されており、それぞれのレベルを記載することでレーダーチャート形式に「準備」⁠獲得」⁠分析」⁠設計」⁠作成」⁠検証」の分類によるレベルの把握が可能となります。

レーダーチャートの例
レーダーチャートの例

ここでは、テストエンジニアではない人も、自分のスキルでテストに流用可能なものを知ることができます。また、テストに必要で不足としているスキルを明確化することで、今後の学習計画に生かすことができます。現在の得意分野と苦手分野を把握し、今後学ぶべき方向性を決定するためにTest.SSFは役立ちます。参加者の温故知新となるセッションでした。

クロージングセッション「ソフトウェアテスト・ヒストリーの学び方」

最後は、辰巳敬三さんによるクロージングセッションです。ソフトウェアの歴史とテスト技法の歴史。WACATE2010で学んだテスト技法も出現します。テスト技法を学ぶことが、過去の歴史を学ぶことであることを実感します。また、ソフトウェアの歴史と世界の最新研究状況も紹介されるといった、まさに「温故知新」の内容となります。

最後に、論語の言葉を用いて締められました。日本語訳の簡潔な表現を用いてしまいますが、以下の内容です。

自分の知らないことを把握し、学んだことについて自分で考え、それを実践してみる。

WACATEでは、今の自分ができることとできないことを学びました。そして、課題に対して自分で考えて実際にアウトプットを作成しました。この言葉はWACATEで学んだ内容と繋がります。WACATEの二日間の体験が自分を成長させていること、これからの糧となるだろうことを実感する瞬間でした。

辰巳さんのセッションの模様
辰巳さんのセッションの模様

WACATEを通して

そして、最後にクロージングとポジションペーパー賞の発表で終了となります。以上で詳細させて頂いたセッションだけでも非常に価値の高いのですが、さらにWACATEにおいて得られる価値を3点紹介します。

参加者との議論と刺激
コミュニティでは、業種も専門も違う人たちが集まります。参加者間において異なる立場同士が意見を交わすことにより、日ごろ見えていなかった部分に光が差し込まれ、多くの気付きを得ることができます。また、同年代の学習意欲の高い参加者との出会いは刺激を与えてくれます。
ベテランの後ろ姿
WACATEには講師、参加者問わずベテランの方も多く参加しています。ベテランの方々の謙虚な振る舞い、学ぶための姿勢、深い知識と経験や技術といったものから、将来の目標とすべき姿を発見できます。
WACATE実行委員
これだけ中身の濃いワークショップを企画するには、相当のエネルギーが必要です。しかし、実行委員の皆様は明るく楽しんでワークショップを運営しています。相手を喜ばせて自分も楽しむ、その姿に感動を覚えます。

また、WACATEは初参加でも入り込みやすい仕掛けを用意しています。前述したポジションペーパーセッション、チームでの議論を行うことでコミュニケーションにおける不都合を感じることはありません。

コミュニティに参加して元気を貰い、仕事をがんばる!という人の話を聞くことがありましたがまさにWACATEは元気と活力を与えてくれます。テストエンジニアのみではなく、開発エンジニアの人を含めて学習意欲のある方はWACATEに参加してみてはいかがでしょうか。驚きと感動が得られることは間違い無いでしょう。

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