ネットだから可能となったソーシャルによる震災復興を支えるWebサービス

New Context Conferenceは、例年デジタルガレージ社主催で2日間開催されているイベントです。しかし今年は震災により開催そのものを止めることも検討されていたと言います。それでも一日だけでもこの状況の中でソーシャルメディアと自分たちが何かを考えるイベントにしたいということで開催となりました。

THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 spring
http://ncc.garage.co.jp/

東日本大震災での情報の伝達手段として注目されたソーシャルメディアを中心にさまざまな取り組みが紹介されました。

ソーシャルの力で放射能の情報を共有するRDTN.org

『ハードウェアとセンサーネットワーク』と題したパネルディスカッションで話題になったのは、ユーザが放射能の測定結果を投稿してシェアするRDTN.orgと、民間でお金を集めてガイガーカウンタを配布して放射能の状況を国に頼らないソーシャルの力で共有していこうという取り組みです。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

RDTN.orgはデビッド・エヴァンス氏発案のサイトで、公的機関が発表している計測結果から、一般のユーザが投稿した放射能の計測結果まで、さまざまな計測元から得られた放射能の計測情報が共有されています。

ここでの情報をさらに充実させるためにKickstarterという民間プロジェクトでの募金を集めるサービスを利用し、600台分のガイガーカウンタ購入に必要な資金を集め被災地を中心に配布しようとしています。

必要な33、000ドルに対し4月22日時点で、12、000ドル以上の資金が集まっているとのこと

Iospectra - International Medcomの創業者兼CEOであるダン氏は、35年間は放射能の計測の仕事をしてきており、スリーマイル島やチェルノブイリに関する仕事もしてきた大ベテランです。放射能の状況が日本では住人にパニックを起こすことも懸念され、慎重に行われているのが現状ですが、ダン氏は「火事が起こったときに人をパニックにさせたくはないが、火事があるということをきちんと知らせたい。人に必要とされる正確な情報を伝えたい」と言います。

会場ではiPhoneに繋げて利用できるガイガーカウンタの試作機が披露されていました。iPhoneのGPSと通信機能を利用して、誰でも手軽に放射能を測定し、その結果をネット上で共有することが可能になります。

ダン氏によると計測機機器によって計測できる放射能の種類が異なっており、原子力発電所の計器では、ただちに人体に害を及ぼすガンマ線が主に計測されているが、食物などに長期的に残留することになるアルファ線や、ベータ線が計測されていないことも多いと言います。

国が測定値の基準などを定めるため、どうしてもその基準に向けた情報の計測が重点的になり計測される情報に偏りが生じてしまうとのこと。さまざまなソースからセンサーの情報を集め、また多くの人によって情報を分析してもらうことでより正確な判断が可能になるのがRDTN.orgというわけです。

自分たちの力でアジャイルにサービスを立ち上げる

デジタルガレージの共同創業者である伊藤穣一氏はRDTN.orgのようなサイトは、今だから、可能になったことだと話します。⁠今までであればお金がかかるから国に頼らざるおえなかったが、今は自分たちですぐに立ち上げてしまうことができる⁠⁠。また、今回の震災をきっかけに日本でも『Less is More』の精神でお金をかけずに少人数で必要最低限の機能に絞ったサービスが増えていくのではないかとコメントしました。

Evernote社のCEOであるフィル氏もクラウドやApp Storeなどの登場により、今までであれば必要であった営業、マーケティング、物流といった部分にあまりリソースを裂く必要がなくなり、もっと作ることに時間を集中できるようになったと語ります。

震災後に、Google Person FinderやRDTN.orgをはじめ、多くのWebサービスが短時間にリリースされています。慶応義塾大学の学生である鶴田浩之氏もその一人で、地震発生の夜にprayforjapan.jpを立ち上げ、世界各国から寄せられる震災への声を即座に紹介してきました。少人数でのスピーディなアジャイル開発の流れは今までにもありましたが、今回の震災をきかっけにこうした動きで日本が変わっていくのとではないかという期待が会場に寄せられていました。

パノラマ写真で被災地の様子を報道

この後、午後からは当日に発表者と発表内容を公募し、各部屋に別れてセッションを行う形式でイベントが行われました。その場で集まってその場で決めて実行していこうという午前中に語られたアジャイルな取り組みそのものです。

参加者はホワイトボードに即席で書きこまれたプログラムを見ながら、思い思いのセッションに参加していました。

ホワイトボードに描かれた即席のプログラム
ホワイトボードに描かれた即席のプログラム

筆者が参加してみた中で、とくに興味深かったのがパノラマ写真により被災地での報道を伝えたものです。プレゼンを行ったニノミヤアキラ氏はパノラマ写真のSNSとして世界定期に有名な360 citiesからの依頼で被災地を訪れ撮影した写真を公開しています。

被災中でパノラマ写真を撮影したニノミヤ氏
被災中でパノラマ写真を撮影したニノミヤ氏
ニノミヤ氏撮影の被災地のパノラマ写真

http://www.360cities.net/profile/akila_ninomiya

周り中どこを見渡しても、津波による被害が街を壊滅状態にしてしまったことが、ありありと伝わってきます。そんな中でも、被災地で被災から1週間後にも関わらず、道路の脇に漁船がまだ残っているような状態でも営業を開始している弁当屋さんがあり、その様子を撮影し公開したニノミヤ氏も「この光景にとても元気づけられた」と言います。

また日本の報道機関では、産経新聞社がとくにパノラマ写真による報道に力をいれており、下記のサイトが公開されています。

パノラマ写真館 - MSN産経フォト

http://photo.sankei.jp.msn.com/panorama/

普段、身近に利用しているパノラマコンテンツではGoogleのストリートビューが有名ですが、Microsoftが手軽にiPhoneでパノラマ写真を合成できるアプリ、Photosynthをリリースしており、今年はこうしたパノラマを利用したサービスが増えてきそうです。

このイベントを通して感じることができたのが、ソーシャルの力を使って自分たちでできることが数多くあるということ、そしてそれによって今後の世の中を小さな取り組みからでも変えていくことができるというメッセージです。

ソーシャルメディアが社会で実現できることについて多くの発見が得られる場となったイベントでした。

会場に貼られていた『What we can do for people recovering from the disaster』というポスター
会場に貼られていた『What we can do for people recovering from the disaster』というポスター

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