レポート

世界のクリエイティブを体感する「FITC Tokyo 2011」レポート(後編)

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「Beyond You and Me」

Qubibiこと勅使河原一雅氏が「触れる,営み,感覚,いろんな距離」を言葉にしていくセッション。セッション中に「視点」が様々な点に置かれ,聞いている身としては非常に多面的な深い印象を受けた。

Qubibi

Qubibi

本セッションでは,Web制作歴14年の勅使河原氏の作品を紹介しつつ,⁠その作品に対してのユーザーはどこか?」という視点を軸に,作品ごとの没入感/距離感を考える形でセッションは進んだ(ぜひリンク先の作品を確認しながらレポートを読んでほしい⁠⁠。

自分の経歴を述べるだけで一時間は過ぎるというユニークな経歴を持つ彼がWebに関わるようになったのはエロ画像を編集しアップしていく仕事から。この頃にPhotoshopのスタンプツールはマスターしたそうだ。その後,六本木ヒルズのヒルズアリーナのイベントサイトなどを一人で更新していた勅使河原氏であったが,帽子屋CA4LAのWeave Toshi Collection 3: Day Dreamという作品でCannes Lionsで受賞した。

この作品で勅使河原氏が試みたのは「ユーザーはどこか?」という視点の考察である。Webインタラクティブの世界でのユーザーとの接点はカーソル。当作品では最初に登場する時計が接点となるが,決して「作品中のおじさん=ユーザー」ではないと語る。そして,⁠自分はどこか?」と考えつつ当作品に触れると,没入感の新しい体験がはじまると説明する。

また,THAの提供するFRAMED*に提供予定の作品が「Swimmer」というスクリーンセーバー。スクリーンセーバー=うたた寝という状態を掛け合わせてつくった作品で,ここでの「ユーザーはどこか?⁠⁠,対コンピューターとユーザーの対峙がユーザー体験として味わえる。

Swimmer(スクリーンセーバー)

本セッションの中で度々出てきた言葉は,ユーザーとコンピューターの位置感,距離感,空間だった。その次に紹介されたのが雑誌PENのインド特集のために作られた作品INDIA⁠。

INDIA

INDIA

インドの輪廻転生を題材に主人公(サラリーマンや僧侶)が何度でも生まれ変わるINDIAにおいて,ユーザーは「サラリーマン(僧侶⁠⁠」ではなく「サラリーマン(僧侶)を操作している他人の視点」で参加できる(他人の人生を操作するので,カーソルクリックも扱いにくいという「丁寧な」実装になっている⁠⁠。

当コンテンツはインタラクティブでもあるが,ずーっと眺めているだけでも面白いような作品にしている,という。

勅使河原氏がこの作品に持ち込んだのは,彼の原体験のひとつであるファミコン,そのファミコンのデモ画面を「見守る楽しさ」である。システムから提供されているので触ることができない,その見守る感覚をWebで演出するのもありかな,ということで作られた作品だそうだ。

「見守るという行為の魅力,そこにチャレンジしたくなる」と述べ,見守るチカラをもたせるには想像力を働かせることが重要とし,彼が取り出したのがトルストイの「おおきなかぶ」という絵本。ご存知のとおり,この絵本では登場人物は変われど「かぶを抜く」という行動が繰り替えされている。この反復することによって生まれる重複は,ルールとなり,リズムが生まれる。リズムが生まれるとユーザーに受け入れやすくなり,没入感を得やすくなる。また,反復が続くと「何が起こるかわからないから不安と期待」が生まれるともいう。

「おおきなかぶ」を紹介しながら,反復からくるリズムを説明

「おおきなかぶ」を紹介しながら,反復からくるリズムを説明

勅使河原氏はユーザーの安心感,不安,期待を作品を作る際に心がけているようである。反復の濃度をあげるためのパーティクル,不安/期待を高めるためのRandom関数をアクセントに作品を作り上げ,ステージ上でもプログラミングしながら伝えてくれた。

Random関数を用いてキスシーンを操作することで,アクセントを入れられる

Random関数を用いてキスシーンを操作することで,アクセントを入れられる

彼がActionScriptが面白いと思う理由は,意図しないところに期待,何かを生むことができること。⁠いま」という事象をプログラミングの中で生みだせることに面白みを感じているから,という。また,プログラミングの中でルールを作るとルールは壊せる,破れる,その「つかみようのないものに興味がある」ので作品を作り続けているとの言葉でセッションを締めくくった。

著者プロフィール

西村真里子(にしむらまりこ)

株式会社 バスキュール号 プロデューサー

日本IBM,アドビ システムズのWeb製品マーケティング担当を経て現職に至る。外資企業での経験を活かし日本発の良質のクリエイティブ,サービスを海外に展開する施策を前職,現職ともに行う。TEDxスピーカー経験&特許保持者。国内,国外問わずに人と出会うのが大好き。

URLhttp://twitter.com/mariroom