「WACATE2011冬」参加レポート

はじめまして。⁠WACATE2011冬」参加者の藤崎です。

2011年12月17日(土)~18日(日)の2日間、三浦海岸(神奈川県)のマホロバ・マインズにて「WACATE2011冬」が開催されました。

今回、参加者の投票によって選出されるベストポジションペーパー賞を受賞し、参加レポートを書く機会をいただきました。WACATEの概要や主なセッションの紹介とともに、その魅力についてお伝えしてまいります。

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WACATEとは

WACATEは若手(35歳以下)を主な対象とし、ソフトウェアテストに関するテーマについて2日間の合宿形式で行われるワークショップです。夏と冬の年に2回開催され、夏は1つのテーマについてじっくりと、冬はさまざまなテーマについて広く学ぶことができます。

参加者はその名の通り若手(30歳前後)のテストエンジニアや開発エンジニアが中心ですが、学生さんからマネージャクラス、役割も開発、品質保証、PMなど多岐に渡ります。分野も組み込み系、エンプラ、Web系など幅広く、全国から集まる参加者と情報交換や議論を通して交流を深められることも魅力のひとつです。

「WACATE」「Workshop for Accelerating CApable Testing Engineers」の略で、⁠内に秘めた可能性を持つテストエンジニアたちを加速させるためのワークショップ」という意味だそうで、若手が加速するための仕組みづくりも徹底されています。私自身も初参加の2011夏以来、急加速し始めたのを実感しています。

「咲かせてみようテスト道」「お隣さん」を意識する

WACATEでは毎回1つのテーマが設定されており、今回は「咲かせてみようテスト道」でした。また、各プログラムのタイトルにもあるように「お隣さん」がキーワードになっていました。2日間をテーマとキーワードに沿って振り返ってみると、以下の3つが大きなポイントだったように感じました。

  1. 自分の「テスト道」でどんな花を咲かせたいのかを考える
  2. 「お隣さん」を知ることで今の自分の立ち位置を整理する
  3. 大きな花を咲かせるために必要な次の一手をクリアにする

まさに「加速」するための基本を学んだ2日間、と言えるのかもしれません。では、どのようにして3つのポイントを学ぶことができたのか、各セッションやワークのポイントを「お隣さん」を軸にご紹介します。

ポジションペーパーセッション

まずはチームごとに自己紹介。WACATEでは2日間の大半を5~6名のチームで過ごします。これからお互いどのような「お隣さん」と過ごすのかを知るため、ポジションペーパーを使って一人3分ずつ自己紹介を行います。ポジションペーパーを書いて自己紹介をすることで、自身を見つめ直すことができるのはもちろん、他のメンバーの話を聞いているうちに、今まで見えなかった自分の側面や立ち位置もだんだんと見えてきます。

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ポジションペーパーとは、自分の普段の仕事や参加への意気込みなどについてまとめたA4一枚の立場表明書のことです。参加者が申し込み時に全員提出し、当日受付時に「ポジションペーパー集」として配布されます。このポジションペーパーには3つの賞が用意されており、参加者の投票により決定されるのがBPP(ベストポジションペーパー)賞です。

BPPセッション「どうやって周りを変えていく? ~ 心に響けこの思いっ!」

前回のベストポジションペーパー賞受賞者である名野響さんのセッションです。

WACATEに参加することで周りのメンバーから大いに刺激を受け、モチベーションも上がり、仕事が楽しくなった! そこで、今度は自分が社内メンバーに刺激を与え、変えていく立場になりたいと思った名野さん。最初はなかなかうまくいかなかったものの、WACATEに参加し始めるメンバーが出てきて何が良かったのかを振り返ることに。そのしくみを探る中で出会ったコーチングやファシリテーションについての基礎知識とともに、人を動かすのに大切なポイントを紹介してくださいました。

他のWACATE参加者という「お隣さん」から受け取ったものを、社内メンバーという「お隣さん」へ伝え、さらにその経験からWACATE参加者へフィードバックするという循環が生まれていました。このようなフラットな関係の中で連鎖が生まれ、所属を問わずコミュニティ全体としてレベルアップしていけるのもWACATEの魅力のひとつです。

今あなたの「お隣さん」にはどんな人がいて、何を受け取り、何を伝えているでしょうか?

「お隣さん」は誰?―インプット、アウトプット、テストプロセスから整理してみよう

続いて実行委員の近江久美子さんによるワークショップです。ここからは実際に手を動かし、参加者どうしで議論を進めていきます。

近江さんのメッセージは「何か改善しようとするとき、⁠お隣さん」を意識して自分の立ち位置を知ることで、無駄なくより良いプロセスを考えていきましょう」というもの。何かの文書を作成する場合も、読み手が新人さんなのかベテランさんなのかで、記述レベルや重点が変わってきます。ではどうやって情報を整理したらよいのか?どういうポイントに注意したらよいのか?テストプロセスを題材としたワークを通して学びます。

まずは普段、ソフトウェアテストにおいて、どんなインプットを受け取り、どんな作業をして、どんなアウトプットを作成しているのかを各自で洗い出してみます。近江さんはこの一連の流れのことを「テストプロセス」と定義しました。

次にそれぞれのインプットとアウトプットはどんな人(=「お隣さん⁠⁠)が関係しているのかを整理し。チームでまとめて1つの成果物を作成したあと、最後に作業の振り返りを行い、全体として以下のような気づきを得ることができました。

  • 一人では情報が漏れてしまうがチーム全体の力でカバー可能。
  • 同じ言葉でも違う意味や分けるカテゴリが異なる場合がある。
  • お互いのコンテキストを共有することができた。
  • 全員の意見が反映され、全員で合意することができた。
  • 一枚の模造紙にまとめるには抽象化による情報の圧縮が必要。
  • 1枚に収めるには完成イメージを持って書き始めることが大切。
  • 「誰のために作る?」を意識することで、各文書の要/不要、優先順位、記述レベルなどを判断することができる。
  • ステークホルダを明確にすることができる。
  • 負荷状況やタスク全体を可視化することができる。
  • WBSやPFDが作りやすい。

テストプロセスの理解そのものに加え、プロセスを図表に表して整理することのメリットや、ワークショップやチームで作業を進める上で大切なこと、改善活動を行う上で大切なことなど、いくつもの視点からの気づきが得られたことがわかります。気づきの結果も「お隣さん」の視点ごとに分けることで、より効果的に伝えることができそうです。

近江さんからはさらに、⁠お隣さん」はたとえば「テストチーム⁠⁠、⁠テスト担当者⁠⁠/⁠テスト管理者」などのように役割や組織などの視点をズームアウト/ズームインすることで変わることや、⁠テスト」の隣は「開発」というように「お隣さん」「お隣さん」も意識することが大切、とのお話もありました。このワークを通して、複雑なプロセスもひとつひとつ情報を整理しよく考え分析することで、漠然ととらえていた部分がかなりクリアになっていくのを体感することができました。

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ディナーセッション

1日のプログラムを終え、三浦海岸の味覚を楽しみながらのディナーセッション。実行委員の皆さんによる歌とダンスの披露やテスト関連書籍などが当たる抽選会、参加への意気込みを匿名でおもしろおかしく紹介するコーナーなどがあります。思う存分WACATEを楽しんでもらいたい!という実行委員のみなさんの想いがとてもよく伝わってきて、実行委員から参加者(⁠⁠お隣さん⁠⁠)へのクリスマスプレゼントのようにも感じられるセッションです。

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夜の分科会

ディナーセッションのあとは各自でお酒やおつまみなどを調達して夜の分科会会場へ。大きな部屋にいくつかのテーマごとのグループ(分科会)に分かれ、お酒片手にざっくばらんな議論することができます。参加者も何か議論したいテーマことがあればオーナーとして分科会を開くことができます。私自身も数名からのニーズもあり、今回はオーナーに挑戦してみました。

テーマは階層化状態遷移図にテストの視点から工夫を加えたオリジナルチャートの活用について。詳細についてはここでは省略しますが、何か新しい技術や工夫などを思いついたときに、対等な立場のテストエンジニアと議論を行い、フィードバックを得るということも可能です。私の場合はポジションペーパーをポスター代わりに使い、チャートとそのコンセプトなどをまとめて分科会の資料として使いました。

始まってみたら予想以上に人数が集まってドキドキしましたが、質疑応答や議論がとても活発で、2時間もあったのに買っておいた飲み物や食べ物に手をつける暇もありませんでした!参加メンバーはこのような合宿に来るだけあって意識もスキルも高く、自分では気付かなかったメリットや課題などについて貴重な意見も飛び出すなど、非常に有益な議論を行うことができ、大変感謝しています。夜の分科会も「お隣さん」の設定は自分次第です!

自分で分科会を開催しなくても、ゆっくり時間のあるときにしか聞けない貴重なお話を聞くことができたり、同じ境遇の人を見つけて情報交換をしたりして今後へつなげることができるのも夜の分科会の醍醐味です。

ISSREに参加してきた!

2日目の最初のセッション。2011/11/29~12/21の4日間の日程で広島にて開催されたISSRE2011(International Symposium on Software Reliability Engineering)の参加レポートセッションです。実行委員でもあり「智美塾」の塾生でもある坂静香さんと小山竜治さんが、その様子をレポートしてくださいました。

若手はなかなか参加することが難しい国際シンポジウムですが、世界水準の研究発表やワークショップ、懇親会の様子や関係者の準備にかける意気込みなどについて、若手目線からの貴重なお話を聞くことができました。2日目の朝イチでまだ頭が起きていない時間帯ではありましたが、世界レベルのお話はとても刺激的で、使える英語を身につけることの重要性も感じることができました。

ワークショップの1つであるInSTA(International Workshop on Software Test Architecture)のお話もあり、SQuBOKにはテストアーキテクチャについての記述がないこと、智美塾で議論されていることなどの紹介もありました。

「お隣さん」は社内から社外、そして世界へ!

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お絵描きコミュニケーション~お隣さんに伝えたい

今回から実行委員としてデビューの中野さやかさんによるワーク。講師も初挑戦ということで、実行委員や多数の参加者のみなさんが心から応援していて、ワークも盛り上げようとしているのがよく伝わり、心温まるセッションとなりました。

中野さんからのメッセージは「情報をわかりやすく伝えるための工夫を積極的に取り入れながら、自由にお絵描き(図)をしてみましょう。」です。ここで大切なのは、特定の表記法にとらわれて書きたいことが書けなくなるよりは、オリジナルの図を書いたり自分なりの工夫を取り入れたりすることで、伝えたいことをより的確に伝えられるようなお絵描きをしましょう。」です。では、なぜ文字情報ではなくお絵描きするのか? 以下の4つのメリットが紹介されていました。

  • 全体像をとらえ、俯瞰する
  • 物事を抽象化する
  • 文字より絵(図)のほう認識が早い
  • 記憶にとどまる

演習の設定は、勉強会受付サイトの管理・運営をしているチームに新しく入ったメンバーとなり、既存システムについての資料を渡され、次回の打ち合わせで不明点を確認することができるよう、情報を整理する、という設定。資料には画面遷移や、新規受付・キャンセルに伴うメール送信機能などの基本的な情報が記載されていますが、サイトの運営には関係ないようなシステムの仕様に関する情報が書かれていたり、抜けがあったりします。

そこで演習での自分の役割に必要な情報を図表にまとめます。⁠図は四角と矢印を使ってシンプルに」など、いくつかのコツが紹介されたあとに個人ワーク、グループワークへと進み、いくつかのグループが発表を行います。私たちのグループでの気づきのうち印象に残ったものを3つあげてみます。

  • 図には得意不得意があるので目的に合わせて使い分けを。
  • 図のおいしい部分を見極めて組み合わせる工夫も大切。
  • 全て書くのではなく、必要な情報に絞ることも大切。

こうしてみると、テスト技法の使い方と同じようなことが言えそうだな、と感じました。⁠お隣さん」へ何を何のために伝え、重要な部分は何なのか?というのを意識することが大切で、それらの情報を最も効率的に表せる図を自由にいろいろと書いてみるのがよさそう、ということがわかりました。新しいお絵描きの方法が見つかるかもしれませんね。

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テスト道ワールド

実行委員の上田卓由さんによるグループワークセッション。ワールドカフェという形式を用いたディスカッションを使って「Beizerのテスト道」について考えてみます。ワールドカフェとは、オープンでリラックスした雰囲気の中で出た各グループ内のアイディアを全体で共有できるしくみを取り入れた、ディスカッションの形式です。特徴として、モデレータがいない、1ラウンド20分としてメンバーを入れ替えながら数ラウンド回す、1人は残ってそのグループで話し合われたことを新しいメンバーに共有してそこから始める、などがあげられます。

ディスカッションのテーマは、バイザーの「テスト道」⁠※)のフェーズ2から3へ、3から4へ進むにはどうしたらよいのか?です。各フェーズの定義は以下のとおりです。

  • フェーズ0 テストとデバッグには何の差もない。デバッグ以外にはテストと区別な目的はない。
  • フェーズ1 テストの目的は、ソフトウェアが動くことを示すことである。
  • フェーズ2 テストの目的は、ソフトウェアが動かないということを示すことである。
  • フェーズ3 テストの目的は、何かを証明することではなく、プログラムが動かないことによって発生する危険性をある許容範囲までに減らすことである。
  • フェーズ4 テストは行動ではない。大袈裟なテストをすることなく品質の高いソフトウェアを作るための精神的な訓練である。
※)
ボーリス・バイザー著『ソフトウェアテスト技法』「1.4 テスト担当者の精神面による区分」に記載されているフェーズ0~フェーズ4を西康晴氏が訳したもの。

まずは準備として、自分が今どのフェーズにいるのかを確認します。この段階ではまだ各フェーズで言っていることが漠然としたように感じます。

次にフェーズ2から3へステップアップするにはどうしたらよいのか?のディスカッションに入ります。ところが、フェーズ2と3がそれぞれ何を言っているのかがうまくまとまらず、1日目の近江さんのワークを早速使って「お隣さん」のフェーズについて考えてみることにしました。そうすると、だんだんと各フェーズの違いや、次のフェーズに進むためには何をしなければいけないのが具体的に見えるようになってきました。

1ラウンドが終了したら、一人だけ残って他のメンバーは次のグループへ移動します。別のグループに移動してみると全然違う意見が出ているのがとてもおもしろく、全員で全グループの情報を共有できる工夫がされていたのがとてもよかったです。こうした新しいワークの形式を経験できるのもWACATEの魅力のひとつではないかと思います。

「テスト道」の議論については、各フェーズでは具体的に何ができていればよいのか、どのような登場人物がいるのか、どのような組織が関係するのかなど、定義するための観点も次々に飛び出しました。フェーズ4の議論ではWモデルの適用には「意識改革」が必要で、それは「精神的な訓練」に相当するのではないか、というような話題も出てきていました。

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「現場主義が道を拓く」

招待講演のクロージングセッション。今回はなんと、品質会計で有名な日本電気株式会社の誉田直美さんによるご講演でした!誉田さんは、⁠データだけを見るのではなく、現場を見て品質を作り込んだことを確かな根拠を持って具体的に説明できることが大事」そしてそれが「品質会計」である、とお話されていました。

2つのチームが同じ方法を使って同じ技術を使っても品質は同じにはならない。では、この違いはなぜ起きるのか?を考えることが大切で、そのためには現場を知ることが重要。と、徹底した現場主義(「三現主義」)の重要性をわかりやすく伝えていただきました。

「三現主義」

机上の空論ではなく、⁠現場で現物を見て現実を知る」ことによって。真の因果関係を考えることに意味がある

現場(=「お隣さん⁠⁠)を見ずして品質を保証することはできない、ということですね!
現場(=「お隣さん」)を見ずして品質を保証することはできない、ということですね!

終わりに

2日間を通して本当にさまざまな「お隣さん」を軸に「テスト道」について考えてきました。この「お隣さんを意識する」というのは実際に使ってみたらとても役に立ったので、またひとつ、⁠加速」するための道具を手に入れたような気がしました。

WACATEのワークショップ自体は年に2回だけですが、MagazineやManiaXの発行、JaSSTやSQiPでの発表、勉強会など、一年を通して活発に活動しています。そこでは、記事を投稿したり、講師として登壇したり、実行委員としてイベントを運営したりと、若手が加速するための様々な機会があります。もしご興味を持たれましたら、ぜひ次回のWACATEから一緒に熱く楽しく議論する仲間に加わっていただけたらうれしく思います!

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