レポート

OpenPrinting Summit/PWG Meeting Cupertino 2012 参加レポート

この記事を読むのに必要な時間:およそ 9 分

カリフォルニア州,俗にシリコンバレーと呼ばれる地域の一角にあるCupertino市のAppleのキャンパスの一角でOpenPrinting Summit/PWG Meeting Cupertino 2012というイベントが,2012年4月25~ 28日の4日間行われました。

こちらのイベントはプリンターや複合機といった機器を内外から見たり,いろいろな環境から利用したりするといった,特定のOSベンダーによらない印刷技術全般について話しあうミーティングです。実のところ今,印刷関連技術がものすごく面白くなってきているのです※1)⁠

Linuxなどのオープンなデスクトップ環境はOpenOffice.orgやLibreOfficeへの移行が進んだ組織において,オープン化の次の一手として検討されていますし,またヨーロッパや新興国のように積極的に政府組織が導入しているところもあります。その印刷環境も,他のデスクトップ環境に負けないようにと,さまざまな進化が起こりつつあります。

一方で,モバイルデバイスやクラウドサービスの普及でエンドユーザーのコンピューティング環境が大きく変容しており,エンドユーザーがアプリケーションから印刷指示を出してローカルのPCからプリンターに印刷する,といういままでのユースケースだけを考えていればよい時代は終わりつつあるのです。いうなれば,今印刷に着目するということは,印刷の次世代を担うことができるかもしれない,ということなのです。

さて私が今回参加した会議ですが,印刷に関する2つの標準化団体の合同ミーティングです。

OpenPrintingはLinuxの普及,保護,標準化を進める非営利団体Linux Foundationの下部組織で,主にLinuxなどのUnix系OSからの印刷の標準化を行なっています。例えばPDF印刷パスやベクター印刷プロトコルOPVP,アプリケーションやプラットフォームによってバラバラの印刷設定画面を共通化しようとするCommon Printing DialogなどがOpenPrintingの活動です。

PWG(Printer Working Group)はIEEEの標準化部会の一つで,プリンターや複合機について,プリンターベンダーやOSベンダー向けの標準化を行なっています。例えばCUPSが主に用いているIPP(Internet Printing Protocol)が馴染み深いのではないでしょうか。なおPWGの議長は,CUPSの開発者であるMichael Sweet氏です。

OpenPrintingは月に一度の電話会議と,年に一回,Linux Foundation Collaboration Summitの1トラックとして会合を持っていました。一方でPWGはもう少し活発で,参加企業持ち回りでホストをして定期的に会合を持っています。今年は,Michael Sweetの所属するAppleがホストとなり,合同でミーティングを行うことになりました。両者が一緒になることで普段は馴染みがないPWGの活動についても色々と知ることができるチャンスだということで,参加を決めた次第です。

オープンなデスクトップでの印刷環境の進化について興味を持たれている方はもちろん,むしろモバイルやクラウドに長じた読者のみなさまに,今,印刷の界隈でどのようなことが話し合われているのか,それを用いて,モバイルデバイスやクラウドと印刷を組み合わせてどんな面白いサービスが提供できるか,そのためにはどのような標準化が行われたら嬉しいのか,考えるための情報を提供できたらと思い,今回レポートを寄せさせていただきました。ややニッチな分野ではありますが,楽しんでいただければ幸いです。

なお本レポートは,あくまでも一参加者である私が議論を聞きとって書いたものであり,PWGやOpenPrintingの意見を代表するものではありません。特に,筆者はOpenPrinting側の人間であり,PWGのトピックについてはあまり事前知識がないため,その点あらかじめご容赦ください。

以下,すべてのセッションを紹介することをせず,時系列にもあえてこだわらずに,筆者が特に興味を持ったものを紹介します。すべてのプログラムと資料はPWGによるミーティングの公式ページにありますので,詳細が気になる方はぜひお読みください。

※1
あくまでも個人の感想であり。面白さには個人差があります。

OpenPrinting関係のセッション

前述したとおり,どちらかというと「⁠オープンな)ホスト側からプリンターを眺めた」標準化活動を行うのがOpenPrintingです。同じエンドユーザーコンピューティングということで,モバイルデバイスで動くプリントサービス的なものもOpenPrintingの範疇になります。

OpenPrinting Plenary

Plenaryという単語は辞書を引いてもピタリの訳が見当たらない※2)⁠ のですが,内容からすると「年次総括」的なものでしょうか。OpenPrinting PlenaryはOpenPrintingの現在の活動内容と今後の課題などを総括するもので,OpenPrinting ChairでPWGでも多方面に活躍しているIra McDonald氏が主に説明を行い,トピックによってはOpenPrinting ManagerでLinux Foundation/CanonicalのTill Kamppeter氏が補足していました。

Ira McDonald氏

Ira McDonald氏

大きなところではやはり,CUPS本体からUnix系OSしか使っていない各種のフィルター群がOpenPrintingに移管されたことに伴う開発体制と技術的な議論でしょう。新しいフィルター群では中間データ形式をPostScriptとするものは廃止され,PDF印刷パスを全面的に推し進めることになります。この点について,PDFの処理を行うライブラリPopplerの開発とどのように同期するかという話と,またPostScriptプリンターを利用する場合にPDFを経由してPostScriptを作るとパフォーマンスが大きく落ちるのでどうするか,といった内容が話し合われました。

またOpenPrintingの活動の大きな目標である,印刷のための共通UIを提供するための6年越しのプロジェクト,Common Printing Dialogが再び延期されたことも話題に上りましたが,これは別のセッションで言及がありますので省略します。

※2
「総会」とか「全体会議」という意味だそうです。

CUPS Plenary

CUPS開発者の帽子を被ったMichael Sweet氏によるCUPS最新動向のプレゼンです。

CUPSについては,現在開発中のバージョン1.6において,⁠いくつかのフィルターがCUPS本体から切り離される」⁠プリンターのブラウジングがBonjourだけになる」⁠PPDの扱いを下げる(deprecation)⁠などと,見ようによっては反感を買いそうな発表がなされたため,意図を再度説明するようなプレゼンとなりました。⁠みんな落ち着いてくれ!」と叫んで笑いを誘っていました。

PPD Deprecationの意味を説明するスライド

PPD Deprecationの意味を説明するスライド

最後の「PPD Deprecation」については,現在,CUPSはプリンターについての情報を管理するためにPPDを利用していますが,IPPが普及していけばIPPによってプリンターの情報は動的に取ることができるわけだから※3)⁠PPDの重要性は減っていくだろう。だから新規の文法やAPIの拡張は行わない,という説明でした。よりきめ細かいプリンター情報の記述や多言語化にはPPDは依然として意味はあるだろうから,使い分けが現実的なのではないかと行った議論が行われました。

それとは別にCUPS 1.6で想定される新機能の紹介があり,主に「OS Xですでに実装されている内容を他のOSでも対応する」というもので,今年夏と言われるリリースが少し楽しみではあります。詳しくは資料(PDF)を参照ください。

※3
IPPは単なるデータ転送プロトコルではなく,印刷ジョブに対する指示(両面・ステープルなど)を行ったり,プリンターの状態(正常かエラーか,エラーはなにが起きているか)や構成情報(両面印刷ができる能力があるか)を取得したりすることもできます。したがって印刷クライアント側がIPPのこれらの情報を活用すれば,機器の状態に応じた設定画面を用意することも可能になります。

Common Mobile Print Client

EPSON AmericaのGlen Petrie氏によるプレゼンです。いろいろなモバイルアプリケーション(この場合はモバイルデバイスを通じてクラウドの向こうのデータを操作する場合も含みます)でそれぞれ印刷設定の仕組みを作り込むのは,印刷についてあまり関心がないアプリケーション開発者には好ましくないから,共通のプラットフォームとしての印刷クライアントを提供しようということです。ベース技術としてはIPPを,UIの構築には,ローエンドも試行したマルチプラットフォームフレームワークであるQtを用いることを検討しているそうです。

興味深かったのは,印刷設定を表すプレビューアイコンについての考察で,せいぜい200pxで必要な情報は盛り込めるとのこと。

まだお話レベルと言えなくもないですが,印刷が専門というわけではない,モバイルアプリケーション開発者のみなさんの意見も問うてみたいところです。

著者プロフィール

おがさわらなるひこ

流離のプリンター愛好家。(株)ミライト情報システム所属。印刷技術を中心に,フリーでオープンなデスクトップ環境の向上のためにあちこちに顔を出しています。

Twitter@naru0ga

コメント

コメントの記入