レポート

OpenPrinting Summit/PWG Meeting Cupertino 2012 参加レポート

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PWG関係のセッション

プリンターベンダーに属しているごく一部の人以外はそもそもPWGという名前すらご存じないでしょう。PWGは「プリンターの内側から外を見る」標準化を行うグループになります。つまり,外界からプリンターや複合機を制御する方法を共通化しようというものです。今までは「外界」のソフトウェアは,WindowsやOS X,CUPSといったOSやミドルウェアに限られていましたが,モバイルやクラウドの世界になると,ぐっと広い立場の人がPWGの仕様を利用することになります。また特に複合機は,内部にドキュメントサーバー的な機能を持つようになってきました。エンドユーザーはWEBなどを利用してこのサーバーにアクセスするようになります。そのため,PWGの活動はより身近になっているといえるのです。

今回のイベントはPWGの通常のface to faceミーティングを兼ねています。したがって,標準のレビューなども普通に行われることになります。私がPWGの方面に疎いことを差し引いても,標準のレビューというのは聞いていて正直退屈なものです。標準化という作業の泥臭いところ,例えば,まだ実装のないところで想定されるケースを洗い出し,用語を吟味し,他の標準との矛盾をチェックし,という作業も当然やっていくわけです。もちろん標準というのはそういう部分がきちんとしていないと誤読を産み,標準として機能しないものになってしまいます。それは分かるのですが,こういう特別なイベントでは,もう少し中身の議論に重きを置くのは難しかったのでしょうか。

そんなわけで,今回はすべてのセッションの紹介は行わず,筆者にとって面白いと思ったものをかいつまんで紹介します。

PWG Plenary

初日の口切りのセッションです。PWG議長のMicheal Sweet氏が全体を通し,個々の分科会活動についてはそれぞれの担当者が話すといった感じで進みました。

Michael Sweet氏

Michael Sweet氏

プレゼンはPWGの活動紹介といった内容で,詳細は省略しますが,特にPWGのPR活動やマーケティングが必要であるといった内容が筆者には強く印象に残りました。

前述したとおり,プリンターや複合機がネットワークに接続されてサーバー的機能を持つようになり,クラウドやモバイルといった新しい使い方について標準化を行なっている以上,実際にモバイルデバイスやクラウドサービスを用いて何かを提供している人たちにPWGがリーチする必要があるのは必然といえるでしょう(この記事もそういう意図で書かせていただいているつもりです⁠⁠。各ワーキンググループのML※11⁠ はアーカイブも公開されていて参加も自由ですし,Wikiは誰でもアクセス可能なので,ぜひ覗いてみてください。

その他,Internet Printing Protocol(IPP)を用いたドライバレス印刷の標準IPP EverywhereはAirPrintなどで利用されている技術をより一般化したもので注目すべきですし,Cloud Imaging Groupが,⁠クラウドサービスからの印刷」「クラウドに接続されたイメージングデバイスの操作」の両方をフォーカスに入れ,フェーズ0から2までの3段階を考えていることなどは興味深かったです。

※1
例えばInternet Printing Protocol(IPP)Semantic ModelCloud Imagingなどです。

IPP Working Group / IPP Everywhere

PWGのIPP Working Groupのミーティングということで,IPP WGについての概略説明と,先日に行われたプリンターのIPPサポート状況のテストを一斉に行うIPP Interoperabilityの中間報告※12⁠,それに2つの仕様書IPP EverywhereとMSN2のレビューがありました。

IPPを改めて説明しますと,Internet Printing Protocolの略で,HTTP(S)の上に実装された印刷のためのプロトコルです。単に印刷のためにデータやジョブについての指定を送信するだけでなく,プリンターの能力(attribute⁠⁠,ジョブの情報,ステータスなどを取得することもできる,非常に高機能なものです。現在は印刷だけですが,将来はスキャンやFAX送信への応用も検討されています。しかし残念ながらIPP Interoperabilityの結果によると,すべてのテストスィートをパスしたプリンターはまだ存在しないとのことで※13⁠,状況の改善を期待したいところです。

IPP Everywhereは,ごくかいつまんで説明すると,Zeroconf(Avahi/Bonjour)によるサービスディスカバリとIPP 2.0によるプリンター情報の取得とデータの送信,特定のデータ形式(PWG Rasterというビットマップ形式とPDF)の処理能力をプリンターに用意することによって,さまざまなデバイスからのドライバーレス印刷を可能にする技術です。AppleのAirPrintと技術的には非常に似通っていますね。したがって,モバイルからの印刷で何かアイディアをお持ちの方は,ぜひ動向に注目していただきたいです。

MSN2はMedia Standardized Name 2の意味で,メディア※14⁠ の名前付の標準化です。IPPでは通信によって機器がサポートしているメディアを取得したり,逆に印刷ジョブのメディアを指定したりしますので,名前付のルールが決まっていないとベンダーごとにまちまちの名前となってしまいます。そのためMSN2のような標準が重要になります。

どちらの仕様書も2ヶ月後のミーティングでレビュー完了を目指し,今年中には投票フェーズになるとのことで,非常に丁寧なレビューがされていたという印象を持ちました。

熱心なレビューの様子

熱心なレビューの様子

PWG/OpenPrintingともに,IPPを次世代の標準印刷プロトコルと,またIPP Everywhereをモバイルからだけではなく幅広く応用の軸に据えたいと考えているようです。実際に実装が存在し,分かりやすいのもIPPの魅力です。PWGの各種仕様の意味がよく分からないという場合,IPPおよびIPP Everywhereからはじめるのがよいでしょう。

※12
といってもテスト結果がぜんぜん集まらず,結局手元にあるプリンターでMichael Sweet氏が独自でテストしたそうです。まだテスト期間は終わっていないので,みんな送ってくれ!というアナウンスがありました。
※13
実際,HPの一部の機種はIPPの仕様を誤って解釈して実装しているため,CUPSからIPPで接続すると正しく印刷できないことがあります。残念ながらそのような機種についてはIPPを使わないという解決策しかありません。
※14
プリンターの用語で,印刷をされる対象のもの,のことです。通常「用紙」という言葉を使いますが,OHPシートやCDのラベルなど,紙に限らないことも多いのでこう呼びます。

Semantic Model Working Group

PWGの分科会の一つ,⁠セマンティックモデル」についての標準化を目的とした分科会PWGのSemantic Model WGのセッションです。

そもそも「セマンティックモデル」って何? というところから説明しましょう。

例えば,IPPでプリンターに印刷することを考えます。アプリケーションはプリンターに,自分が使いそうな機能,例えば両面印刷やカラー印刷,サポートしている用紙サイズ,その他の,⁠プリンターについての情報(A⁠⁠」を問い合わせることになります。これに基づいてアプリケーションはユーザーに「このプリンターの両面印刷機能を使う?」⁠モノクロだけど大丈夫?」などといったことを確認し,それに基づいて,今度は「この印刷物はA4で,カラーで,両面印刷してくれ」といった「印刷ジョブに関する情報(B⁠⁠」を,印刷データとは別に渡すことになります。こういった(A)(B)のデータが,IPPとそれ以外でまちまちなのは望ましくないので,こういった情報の「意味」のモデルを標準化しよう,というのが「セマンティックモデル」の考え方です。印刷を例にしましたが,セマンティックモデルは印刷だけでなく,スキャンやFAXなどについても視野に入れています。

今回の主な議題はtransform service。これはどういう概念かというと,プリンターや複合機がネットワークに接続されて,どんどん高機能化していくと,印刷やスキャン,FAXといったコアの機能以外に,データの変換や加工といった機能が機器の中に内包されていくことになります。例えば,スキャンした画像をOCRにかけてEvernoteにアップロードする,といった場合,OCRやEvernote連携は複合機の本質的な機能ではありません。こういった機能をtransform serviceと呼んでいます。

ここで少しでも勘が働く人なら,⁠そのサービスって別に機械の中になくてもよくない?」と気づくのではないでしょうか。そのとおりです。transform serviceは機器とサービスを分離しているので,サービスは別のサーバー(それこそクラウドの向こう)にあってもよいわけです。また,機器の中にあるサービスの一部だけを使って,別のサービスに流しこんでもいいわけです。このようなことを考えると,それぞれのサービスを分離して扱うためのセマンティックモデルが必要なことはお分かりいただけるのではないでしょうか。

今回は,前回のWGのミーティングで出たtransform serviceの例を眺めながら,ブレインストーミング的にさまざまなサービスを列挙し,定義が完全かどうかを見ていくというものでした。しかしこの議論が非常に発散していて辛い。なおかつ,ここで筆者が書いたような説明は事前にだれもしてくれません。これでは,この議論をずっと追いかけてきた人たちでないと,新たな提案はやりにくいと感じました。

前述のように,transform serviceはプリンターや複合機の中に閉じているとは限らないため,プリンターベンダーとOSベンダーという既存のPWGメンバーだけでなく,WebやモバイルやクラウドからプリンターやMFPを叩いて新たなサービスを提供してみたい,そんな人たちに関心を寄せていただき,議論に参加したほうがよりよいものになると感じるのですが,正直,今のPWGの議論の進め方では難しいのではないかと思います。

それでも,Webやモバイル,クラウドといったところで新たなサービスを模索している読者の方は,ちょっと大変ではありますが議論を追いかけていただけると,プリンターや複合機を外部から眺めた,なにか面白いアイディアが出てくるのではないかと思います。筆者としてはそういった展開を大いに期待したいところです。

Cloud Imaging Work Group

ということで皆様お待ちかね(?)「イメージ機器をクラウドで使うための標準化を行う」ためのワークグループのセッションです。

PWGの他の活動同様,例えばGoogle Cloud Printに代わるサービスを俺達が立ち上げるぜ!」というようなものではありません。むしろ,クラウドとイメージ機器との関係を明確に定義するというのが目的で,多くの議論がGoogle Cloud Printを土台にしているような感じがありました。まだ立ち上がったのが若いWGなので,実質的な議論が多く,参加していて面白く,例えば「Cloud Print Providerにプリンターを登録する場合,複数のProviderがいた場合はどう考えるのか」⁠ロケーションフリー印刷※15⁠ との組み合わせはどう考えるべきか」など盛り上がりをみせました。これからも本WGの活動には注目していきたいです。

図を描いて議論を整理するMichael Sweet氏

図を描いて議論を整理するMichael Sweet氏

※15
セブンイレブンの「ネットプリント」のような,サーバーにデータを置いておいて,特定のプリンターで操作をすることによりデーターを引っ張ってきて印刷する仕組みのこと。⁠どこで打つのも自由」という意味で「ロケーションフリー」と呼ばれます。

Imageing Device Security Work Group(IDS)

いきなり余談ですが,Printing Summitの要項が出る前に,HPの複合機で,任意のファイルが読み出せてしまうという脆弱性が発覚して話題になりました。今のプリンターや複合機はネットワークに接続して各種の機能を提供するため,このような事例は今後どんどんと増えることになると予想されます。IDSではそういう類の話題を話し合うのかと考えていましたが,やや期待はずれでした。セキュリティに関する内容を議論するワークグループなのはそのとおりなのですが。

今回は多くの仕様書のレビューだったので,そこが辛かった理由でもあります。一つはロギングの仕様で,攻撃を受けたときにログを調べるのは基本なのでそういう仕様を議論するのはむしろ当然ですね。もう一つはIDS Modelというセキュリティモデルの仕様で,一般的なセキュリティモデルの仕様をイメージ機器に合うようにリモデルしようというもののようです。こちらは延々と定義の話になっていましたが,想像するに多くのプリンターや複合機はセキュリティ機能を実装していて,ISO/IECなどで定められた認証を取っているはずですので,そこを後追いする意義はやや乏しいように思いました。

著者プロフィール

おがさわらなるひこ

流離のプリンター愛好家。(株)ミライト情報システム所属。印刷技術を中心に,フリーでオープンなデスクトップ環境の向上のためにあちこちに顔を出しています。

Twitter@naru0ga