「Plone Conference 2012」参加レポート(前編)

2012年10月10日から12日までの3日間、オランダのアーネムにてPlone Conference 2012が開催されました。前2日間はトレーニング、後2日間はスプリントも行われ世界27カ国250名以上が参加しました。

Ploneとは、CMS(コンテンツマネージメントシステム)の一つで、オープンソースで制作されたWebフレームワークです。プログラミング言語PythonとWebアプリケーションサーバZopeをベースに開発されており、オブジェクトデータベース、Webサーバー、ワークフローなどの機能を標準搭載しています。

オープンソースであるため非営利組織であるPlone Foundation(2004年5月設立)が中心となり、開発とマーケティングのためのサポートをしています。また、Ploneの保護や促進のためにコミュニティーの支援やカンファレンスでも大きな役割を担っています。現在も開発が継続されており、最新バージョンは2012年9月12日にリリースされたPlone4.2.1です。

本稿では、オランダで開催されたPlone Conference 2012の話題を中心にレポートを前後編に分けてお届けします。

スケジュール

今回の旅は筆者と筆者が所属するCMSコミュニケーションズ代表取締役社長の寺田の2名で参加しました。私達はまずFINNAIRを利用してフィンランド入りし、ヘルシンキで3日間過ごした後Plone Conferenceの会場があるオランダに向かいました。フィンランドに立ち寄ったのは、同行した寺田の知人が勤める会社を訪問することが目的です。また、ヘルシンキとアムステルダムでは観光もしました。アーネムに移動してからは毎日Plone Conferenceに参加しました。2カ国で9泊11日の旅です。

10月5日フィンランドへ移動、Hexagon IT訪問
10月6日ヘルシンキ観光
10月7日仕事
10月8日オランダへ移動、アムステルダム観光
10月9日アーネムへ移動、仕事
10月10日~12日Plone Conference 2012
10月13日Plone Sprint 2012
10月14日~15日日本へ帰国
FINNAIR@成田空港
FINNAIR@成田空港

Hexagon IT訪問

成田空港を出発して約10時間でヴァンター国際空港に到着しました。空港からホテルまではタクシーを利用しましたが、北欧のイメージに合わないとてもアグレッシブなドライブでした。その後、宿泊先のホテルでHexagon ITに勤める知人と待ち合せをして彼の案内で会社に向かいました。

地下鉄の駅から徒歩3分。ビルの中に入り片開きドアのエレベータに乗り6階まで上がるとそこにHexagon ITがあります。会社の中に入ると社員の皆さんが席を立ち一人づつ握手で出迎えてくれました。笑顔で話し方がとても丁寧で人の温かさを感じます。社内は大きく分けて5つの部屋に別れておりスペースが広く、ゆっくりソファーでくつろぎながら仕事をすることもあるそうです。壁には社長が書いた絵画もたくさん飾られており、テーブルの上には社員やお客さんが自由に食べてよいサンドイッチやプチトマトやお菓子(サルミアッキ)が用意されていました。

Hexagon ITの社内
Hexagon ITの社内

ミーティングの話題は主に今年の9月に東京で行われたPyCon JP 2012とお互いの会社で制作したウェブシステムの紹介です。私の見た印象では、Hexagon ITはPloneのプロダクト開発に力を入れているように思えました。Ploneの各コンテンツを部屋の家具に見立てて表示するユニークなものから、Ploneにおけるフレキシブルデザインなど、同じPloneをベースにしたシステム開発でもお互い異なった視点からビジネスに繋げている点など参考になりました。

Hexagon ITの皆さんとの会話はすべて日本語とフィンランド語の両方を話すことができる寺田の知人が間に入り翻訳してもらいました。また、金曜日は就業時間が16時までなのにも関わらず、夜までお付き合い及び会社訪問を受け入れて頂いたHexagon ITの皆さんに感謝します。

ミーティングの様子
ミーティングの様子

ヘルシンキの街

次の日は朝早くからユネスコの世界遺産に登録されているスオメンリンナ島に行きました。この島はヘルシンキの中心街から南に3~4kmのところにあり、スウェーデン・ロシア戦争やクリミア戦争では要塞として重要な舞台となった場所ですが、今は自然豊かな美しい公園になっています。私達はそこでバックパッカーの日本人女性2人と偶然出会い一緒に散歩しました。島には公共のフェリーで行き、到着してまず向かったのが島南部を見渡すことができる丘です。そこにはいくつもの大きな大砲がありました。大砲の中は空洞になっているので前と後からお互いに覗き込んでみたり、発射台に登って写真を撮ったりして遊びました。最南端では、島と島との狭い間を大型船(シリアライン・バイキングライン)が通り抜ける大迫力の光景を間近でみることができました。こちらが大きく手を振ると船に乗っている人達も手を振り返してくれました。

スオメンリンナ島にある大砲
スオメンリンナ島にある大砲
大型船バイキングライン
大型船バイキングライン

その後、船でマーケット広場に戻りランチを食べながら夕食の話になり、若者(女性2人と私)「⁠⁠トナカイの)肉が食べたい」と意見が一致したので夜は5人でラップランド料理のレストラン「ラッピ(Lappi⁠⁠」で夕食を頂きました。店内は木に包まれた北欧チックなおしゃれな空間で、椅子に座ると民族衣装を着たウエイトレスさんから日本語のメニューを渡されました。注文した料理の説明も日本語です。テーブルの上には、野生動物の盛り合わせやトナカイの肉、血のソーセージその他多数の料理で埋め尽くされました。トナカイの肉の味は癖もなく、日本で食べている他の肉とも味が違うのですごくおいしかったです。また女性2人がドイツの列車内で起こったエピソードやスウェーデン深夜の壮絶バトルなど旅の思い出を語ってくれて場が盛り上がりとても楽しかったです。彼女達はこの記事を執筆している今も世界のどこかを旅しているので、フィンランド以降に訪れた国の話も是非聞いてみたいです。

トナカイの肉料理
トナカイの肉料理

次の日はHexagon ITで仕事をして、翌日はオランダに向けてフィンランドをあとにしました。

Plone Conference 2012

アムステルダムでは観光を楽しみ、ここからはアーネムで開催されたPlone Conference 2012の内容に移ります。

アムステルダム中央駅
アムステルダム中央駅

アーネムはヘンダーランド州の州都で、東京駅のモデルになったアムステルダム中央駅から電車に乗って約1時間、ドイツとの国境に近い場所にあります。別名パークシティーとも呼ばれるほど森と公園が多く、緑豊かな美しい街で中心部にはライン川が流れています。

近年のPlone Conferenceでは、開催都市にある有名な橋がロゴとして使用されています。一昨年のブリストル(イギリス)はクリフトン吊り橋、去年はサンフランシスコ(アメリカ)のゴールデンゲートブリッジ、そして今回のアーネムはジョン・フロスト(元イギリス軍中佐の名前)橋です。この橋は第二次世界大戦中に激戦地となった場所で映画「遠すぎた橋」の舞台として有名です。

Plone Conference 2012のロゴ
Plone Conference 2012のロゴ

Ploneのカンファレンスは年に一度、主にアメリカ・ヨーロッパで10月~11月頃に開催されています。今回のイベントスケジュールは次の通りです。

日程8-9 Training、10-11-12 Conference、13-14 Sprint
参加費用275ユーロ(約28,875円)※Conferenceの3日間のみ
会場Musis Sacrum、Velperbuitensingel 25 6828 CV Arnhem
参加人数250名(+スタッフ12名)

初日の2つの基調講演をはじめ63のセッション、オープンスペース、ランチ、パーティーなどが行われました。詳細スケジュールはこちらです。

会場到着~受付

アーネムの朝7時は寒くまだ暗いです。宿泊先のGolden Tulip Arnhem Velpホテルの近くにある停留所からバスに揺られること約25分で会場の前に到着します。会場はアーネムの駅から徒歩10分なので、近くにホテルがあるのですが、Plone Conference効果なのかすべて満室になっていました。カンファレンスに参加の際はホテルの予約はお早めに。

会場となるMusis Sacrumは、街の中心街にあるレンガ作りの立派な建物でカンファレンス、会議、コンサート、パーティーが開催され全体で870人収容することができます。今回はここを1週間すべての部屋を貸し切って行われました。

到着してまず私達を出迎えてくれたのは、Ploneの文字のオブジェとスポンサーのロゴが入った垂れ幕でした。試しに抱えてみると、オブジェはずっしりと重く頑丈な物質で作られているようです。受付はラストネームの最初のアルファベットの文字ごとに分かれていて、受付の人にカンファレンスグッズを貰いました。

そして希望者にはA0サイズ(841×1189ミリ)の巨大Plone Conferenceポスターを配布していましたが、持ち帰った方は少ないようです。私は8つ折りに畳んでスーツケースに詰め込み持ち帰りました。

Musis Sacrum
Musis Sacrum
Plone Conference 2012の会場前
Plone Conference 2012の会場前
カンファレンスグッズ(コップ、ビール、ピンバッチ、Tシャツ)
カンファレンスグッズ(コップ、ビール、ピンバッチ、Tシャツ)

開会セレモニー

開会30分前のConcert Hallは、参加者が20~30名にスタッフが数名とこれから始まる気配を感じられませんでしたが、10分前になって続々と人が集まりだしました。開会セレモニーは挨拶と諸注意から始まり、次にアーネムの市会議員Michiel Van Wessemさんより街の紹介がありました。その中の話を聞いて知ったことですが、2009年のヨーロッパグリーンコンペティションで「ヨーロッパで一番グリーンな街」に選ばれたそうです。

Concert Hall
Concert Hall

KEYNOTE: GOING ALL OUT ON THE CLOUD!(CLOUD9 IDE)

最初の基調講演のスピーカーは、オランダのCloud9 IDE、Incに所属するJavaScript developerのJan Jongboomさんです。このセッションは、JavaScriptが生まれてから現在までの歴史、Cloud9の構築とその上でPloneを実行するデモンストレーションという流れでした。彼のプレゼンは印象的な画像をスライドの壁紙にして直感的でわかりやすいものになっています。次のサイトに彼のプレゼン動画が公開されています。

Youtube:Jan Jongboom: Keynote: Cloud9

JavaScript 1995 to 2012

JavaScriptは1995年にNetscape2.0上で実装されました。当初は「JS had to “look like Java” only less so、[it had to] be java’s dumb kid brother or boy-hostage sidekick.」と言われていましたが、XMLHttpRequestなどの登場により、すでに読み込んだページからさらにHTTPリクエストを発信する非同期通信が実現されてからはJavaScriptの価値はだんだんと高くなりました。その良い例の一つがGMailです。

次のスライドはJavaScriptの実現・推進がどのような状況にあるかを示したものです。パーツとしての側面よりもJavaScriptが主役となった使い方の方が重視されているのが明らかです。

JavaScript The Good Parts VS JavaScript
JavaScript The Good Parts VS JavaScript

また、JavaScriptから派生した技術としてjQueryやSizzleなども紹介していました。その中でもCloud9のベースになっているNode.jsを構成するLibUVについて多く語っていました。

LibUVはI/O処理のイベントを管理するライブラリで、通信などのイベントを監視しその情報をNode.jsに通知することでスムーズな処理を実現しています。またLinuxやMac、Windowsなど多くのOS上で動作するのでシステム開発の負担が少なくてすみます。

Node.jsはJavaScriptとLivUVを統合することにより制作されたものであり、Google V8エンジン上でプログラム(JavaScript)を実行できるように実現しました。Cloud9はこの技術を元に制作されました。

I/O処理
I/O処理

Cloud9の構築

Cloud9はプログラムの構築、実行とデバッグ、テスト、シェア、デプロイの作業をすることができます。クラウド上で提供されているこのシステムはJavaScriptで書かれた統合開発環境です。Node.jsが動作するサーバーで実装されており、ブラウザを通して操作できるためOSなどの環境に依存しません。今回はこのシステムを利用してPloneを起動するデモをしてくれました。事前準備としてMongDBの起動、およびPython2.6.6(or 2.7)とPloneのインストールが必要です。

Plone起動のデモ

Cloud上でもUnifiedInstaller形式のPloneを5分で構築できると言っていましたが、実際は会場のネットワーク環境が非常に遅いため動画によるデモになりました。Cloud9のUIは、左側にディレクリー、右側にエディター、下にターミナルの表示が標準のようです。彼のデモから得られたCloud9の特徴と機能は次の通りです。

  • 変数モニターなどのデバッグ機能
  • メンバー間のチャットおよびコードのシェア
  • JavaScript予約語の文字予測

一つのブラウザ画面でPloneの構築から開発までできる環境は今までになかったことなので魅力的ですし、ブラウザで開発環境にアクセスできるのでとても便利だと思いました。

KEYNOTE: THE STATE OF PLONE

続けて行われた基調講演のスピーカーは、Plone Foundation代表のMatt HamiltonさんとPloneのリリースマネージャーEric Steeleさんです。このセッションは、現在のPloneの活動や開発状況、今後の展望について紹介がありました。

Eric Steeleさん(左⁠⁠、Matt Hamiltonさん(右)
Eric Steeleさん(左)、Matt Hamiltonさん(右)

まず、この12ヶ月の間に行われたPloneの活動について報告がありました。昨年11月に開催されたPlone Conference 2011(サンフランシスコ)以来4つの大型カンファレンス、12回のスプリントが開催されました。Plone Foundationには14人の新しいメンバーが追加されました。そして、世界各国で同じ日に開催されるPloneの教育とプロモーションのためのイベントWorld Plone Dayはヨーロッパやアメリカをはじめブラジル、南アフリカ、オーストラリア、香港にも広がっています。日本でも2012年4月25日に東京の株式会社gumiのセミナールームにて開催されました。また、今回のイベントには世界27カ国の参加者が集まりました。私は今回のPlone Conferenceが初参加になりますが、イベント自体は今回が10回目でそれを記念するケーキが振る舞われました。

Plone Conferenceの開催10回を祝うケーキ
Plone Conferenceの開催10回を祝うケーキ

次にPloneの開発状況についての報告がありました。ここ12ヶ月の間に208人のコミッターから合計5,597のコミットがあり、この数字に会場からは大きな拍手が巻き起こりました。208人をたとえるなら1つの中小企業がPloneというオープンソースの活動の中に存在することになります。それも先月に限定すれば13人が新人だったようです。コミット数も2005年~2008年のピーク以降は低調でしたが、ブラジルなど新興国での活躍もあり現在はまた回復傾向にあるため将来的にもまだまだ期待できると言ってよいと思います。

また、Ploneのシステム開発は次のロードマップを元に活動しています。

ロードマップ
  1. 将来を見据えた次期バージョンのリリース
  2. Ploneコミュニティーの目標と活動
  3. 6ヶ月ごとにシステムを見直す
ロードマップの目標
  1. 継続的に活動する
  2. リリース頻度の向上
  3. 標準ができる前に新しい技術を開発する
  4. 健全なアップグレード

その他にもPloneのコアとcollectiveのレポジトリをGitHubに移行したこと、Windowsのインストーラを他のOSと同様にbuildout形式にすることが発表されました。最後に、これからPloneが発展するために注目すべき3点は次の通りだそうです。

  1. Approachbillity

Ploneの利用者に対してUIを再検討しアクセシビリティーの向上に努め、開発の中心となる技術者に対してはドキュメントの翻訳を行います。

  1. Integration

『3Ds』要するにPlone4.2にDiazo、4.3にDexterity、4.4にDeco/TilesをPloneの標準機能とする予定です。

DiazoWebフレームワークから独立したHTMLデザインをPloneのスキンに適用する仕組みです。
Dexterity現在使用されているArchetypesより軽量なPloneのコンテンツタイプで、プログラミングの知識を必要とせず独自のコンテンツタイプを作成することができます。
Deco/Tiles編集エリア内でドラッグアンドドロップなどのマウス操作でオブジェクトを配置、変換できる機能です。
  1. Involvement

UIの改造とQAチームの強化でPloneの利用と開発に関する負担を減らし、新規開発者のための承認プロセスを見直し指導する。

Plone Conferenceに初参加の私には聞き慣れない言葉も多かったですが、これからリリースされるPloneは魅力的な機能が多いことを知りました。

ランチ

基調講演が終了すると参加者はMusis Sacrum内にあるHang outルームに流れていきます。この部屋では朝はコーヒーとクッキー、昼はランチを提供しておりイベント参加者達の出会いや交流の場になっていました。お昼代はチケット代に含まれているので食べ放題です。メニューはパンにハムにチーズに野菜スープ、そして私のお気に入りはDeRuijterというパンに振りかけて食べるチョコレートです。3日間ずっと同じものが出されたので少し飽きましたが、おいしくいただくことができました。

ランチタイム
ランチタイム

次回予告

次回はPlone Conferenceのその他のセッションやパーティーについてお届けします。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧