レポート

10年経っても変わらないもの,それがビジネスを支える戦略となる─「AWS re:Invent」で魅せた! ジェフ・ベゾス名言集

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

批判されるのが嫌なら何もしないほうがいい

6年前,AWSがはじめてクラウド上のストレージサービスのAmazon S3をローンチしたとき,AmazonやベゾスCEOに対して多くの批判が寄せられました。⁠本屋がITの世界で成功するわけがない」⁠ウォールストリートはベゾスに小売だけをやってほしいと願っている」⁠クラウドなんて仮想化とどう違うんだ」など,たった6年前とは思えない内容です。こうした批判を受けることを承知で,最初のサービスを立ち上げ,成功に導いたAmazonの企業としての強さは,批判をおそれて何もしないでいることの愚かさを逆に際立たせているともいえます。ベゾスCEOは新しいことをはじめるとき,誤解される存在になることを恐れてはいけないとも発言しています。

もっともベゾスCEOがAWSのローンチに踏み切ったのは,小売で培った膨大なノウハウとそれに基づいたテストを長期間に渡って行い,それなりに成功への確信をもっていたからです。⁠とにかく試行の回数を増やすこと。回数が増えれば,成功のパターンも見えてくる」と言うベゾスCEO,ただの思いつきで新サービスをローンチするのではなく,十分なテスト&デプロイの繰り返しが成功をよりたしかなものにすると強調しています。

そして顧客に新たなイノベーションの機会を与えるのがAWSだとベゾスCEOは言います。⁠AWSは顧客が何度も試行を繰り返すことを可能にする。サービスを作る,トライする,失敗する,もう一度作りなおしてトライする,そのサイクルを速く安く回すことが可能になる」⁠ ─つまりAWSこそがイノベーションのイネーブラー的存在であるというわけです。数多くの試行錯誤を可能にするプラットフォーム,AWSの新たな存在価値といえるのかもしれません。

AWSの成長は予測していたが,こんなにも速いとは,そしてこんなにもエンタープライズで使われるようになるとは思わなかった

ヴォーゲルズ博士からAWSの成長についてどう思うかという質問を受けての回答です。2006年のローンチからAWSが成功することについては確信があったものの,これほどまでに成長のスピードが速いとは思っていなかったとベゾスCEO。そしてサプライズのもうひとつが,政府関連や教育分野,そしてエンタープライズ企業でのAWS採用が世界中で拡がっていることだと言います。⁠スタートアップで利用されるようになることは最初から予想していたが,エンタープライズでの増え方は予想外だった」とのこと。

記憶にあたらしいところでは,今年の米大統領選でオバマ大統領陣営がAWSを駆使して勝利へのステップにしたという話題がありましたが,政府関連や金融,製造業などミッションクリティカルな大規模事例でのAWS採用はここ1,2年で大きく増えています。その理由はAWS自身が「⁠パブリック)クラウドは信頼性が低い,セキュリティが危ない」といった風評を実績でひとつひとつ潰してきたからであり,また,ひとつの良い事例がほかの事例を呼び込んだというサイクルに乗れたということの証明でもあります。

とにかく試行の回数を増やすこと。回数が増えれば成功のパターンも見えてくる

とにかく試行の回数を増やすこと。回数が増えれば成功のパターンも見えてくる

AWSはすばらしい営業部隊で勝利したのではなく,すばらしい製品で勝利した

ベゾスCEOも驚くスピードで成長を遂げたAWS,その要因はこの言葉に象徴されるとおり,提供する製品とサービスが顧客の心をがっちりと掴んだからにほかなりません。とくにベゾスCEOが絶賛したのがデータセンターという存在を目に見えるものに変えたことです。⁠これまで,データセンターとは歴史的に"インフォメーションフリー"な場所だった。ところがAWSでは,内部コストの流れを透過的に見ることができる。これはデベロッパにとっても革新的だった」とベゾスCEO。そうした需要はこれまでもあったはずで,しかし誰も指摘していなかった。常識を破ってAWSがサービスとして提供すると,"こういうものが欲しかった"という声が殺到し,多くのユーザが飛びついた ─言葉にすれば簡単ですが,いかに実行に移すことが難しいかはおわかりでしょう。

"なぜホコリをホウキで掃くのか,なぜ汚れのもとを取り除かないのか"と叱られた

Amazon,そしてAWSの上級エグゼクティブは毎年,丸2日間をかけてカスタマトレーニングを受けるそうです。ベゾスCEOも同様とのこと。そしてある年に受けたトヨタの"カイゼン"プログラム(リーンマニュファクチャリング)から非常に大きな影響を受けたといいます。

リーンマニュファクチャリングでは,生産ラインにおいて管理者が欠陥を発見すると,すぐさま全ラインを停止します。たとえそれがどんな小さな欠陥であっても,上流に近いところで潰しておく。ベゾスCEOは最初,疑問に思ったものの,上流に近いところでバグを取り除ければ,コストを大幅に抑えられると気づき,"MUDA(無駄)"という日本語をそのとき覚えたと深く感銘したと振り返っています。

もうひとつ,ラインの掃除をしていたとき,講師から「ミスター・ベゾス! なぜあなたはホウキを使うのですか! なぜ汚れのもとを取り除かないのですか!」と叱責されたことが忘れられないエピソードだと笑いながら語っています。ミスの要因を見つけたら元から断つ,この教えがAmazonやAWSの経営にも生かされているのかもしれません。

良い起業家とはリスクを嫌う,だからリスクを低くすることを考える

18年前にビジネスをスタートし,すでにスタートアップとは言えない規模に成長したAmazonですが,ベゾスCEOはいまも起業家精神をもちつづけていると強調します。起業には失敗はつきものとよく言われますが,この発言にもあるように,リスクはゼロにできなくても低くするための努力は重要だと語ります。⁠確実という言葉は幻想でしかない。起業家であればリスクテイクは避けて通れないが,リスクを低くすることはできる。それがシステマティックにできればなおいい」とのこと。とくにイノベーションの速度がより増している現在においては,リスクの適切な見極めが起業,あるいは新サービスのローンチにおいて重要になっていると言えそうです。

トレンドの波を捉えようとするのではなく,自分自身の情熱を追い求め,その上で波が来たら乗れ

IT業界では数多くのトレンドがそれこそ泡のように生まれては消えていきます。一時的な流行にとらわれていては決してビジネスは成功しないとベゾスCEO。自分が提供したいと心の底から思っている製品やサービスを追い続け,チャンスが到来したときにすかさずローンチすることが成功の秘訣だとしています。ビジネスを展開する上で最も重要なもの,それは情熱と顧客中心主義,この2つだけだと最後に結んだベゾスCEO。自身の理念に忠実にビジネスを展開し,いくつもの成功を収めてきた彼はいまも新たなビジネス1万年の時計プロジェクトと低価格宇宙旅行ビジネス"Blue Origin")にチャレンジしようとしています。


まさに"未来を創る人"をそのまま体現しているジェフ・ベゾス。ともに壇上に立ったヴォーゲルズ博士は「CTOとしては,コンピュータサイエンスの学位をもっているCEOは非常にやりづらい」とジョークを交えていましたが,AWSの短期間での成長も,彼がトップにいたからこそ実現したということが伝わってきたキーノートでした。変わるものと変わらないものを見極め,変わらないものをコアにするというベゾスCEOのビジネススタイルは,世界中のイノベーターや起業家に新たな影響を与えるといえそうです。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。