レポート

なぜLinuxを生み出せたのか? それはぼくが若くてバカだったからだよ!─LinuxCon Japan 2013で2年ぶりに来日したLinus Torvalds名言集

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──僕にとって重要なのはアウトプットじゃなくインプット。だからどんなにデバイスが小型化してもキーボードは絶対必要

OSのコンセプトはそれほど変わらないという話を受けてHohndel氏が「でもGoogle Glassのようなデバイスが増えれば変わっていくのでは?」という質問を投げました。これに対してLinus氏は「Google Glassはいいね! すごく欲しい。小さなスクリーンがいつもすぐそばにある状態というのはすばらしいと思う」としながらも,プログラマである自分にとってより重要なのはつねにインプットできる環境 ─つまりキーボードの存在が欠かせないとしています。

ケータイ打ちとか音声入力とか,マジ勘弁

ケータイ打ちとか音声入力とか,マジ勘弁

「ケータイでメールを打つなんて本当にイヤ」というLinus氏にとっては音声入力も「音声でソースコードを編集したらつねに"Up! Up! Up!"とか叫んでいなきゃならない羽目になる」とまるで論外とのこと。PCの売上が落ちていてタブレットやスマホにまもなく抜かれるという調査結果をよく耳にしますが,Linus氏のような24時間プログラマにとってはキーボードのないデバイスがどんなに進化しても,あまりライフスタイルには関係ないようです。

──フィンランドのすばらしいところは教育が無料で自由であること。これはお金を払わなくてよいことが重要なんじゃなくて,だれもが教育以外のことにお金を使えること,そして学生がバカをできるリスクを取れることが重要なんだ。僕は8年半も大学にいたけど修士しか取れなかった。でもおかげでバカなこと ─つまりLinuxの開発に集中できたんだ

「日本や米国の開発者を見て,すぐれた開発者の教育には何が重要だと思うか」という会場からの質問に,Linus氏は「僕は日本の教育のことはわからない。自分が教育を受けたフィンランドと,娘たちの教育環境の米国を見て思ったことだけど」と前置きし,フィンランドで自由に振る舞えたおかげでLinuxが誕生したという話を披露しています。「もし米国だったら大学に8年半もいるなんて,お金がかかりすぎて絶対に無理だね」(Linus氏)

フィンランドからはLinux以外にも数多くのIT技術が生み出され,学生による起業も活発です。その背景にはLinus氏の語るようにフィンランドの自由な空気があります。人生の若い時期にリスクを取ること,Linus氏の言うところの"バカなこと"ができれば,たとえ失敗したとしても傷が浅くて済む場合が多く,違う道を探すことも容易でしょう。もちろんLinuxのように世界を変えるイノベーションに成長する可能性もあるわけです。Linus氏も「(Linuxがうまくいかなくても)コンピュータの修士号があればなんとかなることはわかっていた」と語っていますが,それも20代だからこそ取れたリスクだと言えるでしょう。

──Linuxを創造できたインスピレーションだって? 単に僕が若くてバカだったから。こんな大変な作業になるなんて当時は思いもしなかったからね

「何にインスパイアされてLinux開発を始めたのか」と聞かれたLinus氏。先のフレーズにもありますが,やはり若さというのはイノベーションの重要なファクタなのかもしれません。「誤解されることも多いんだけど,僕はプロプライエタリ製品も使う。それが良いものであればの話だけど。Linuxを作ったのは,プロプライエタリがあまりにも高くて,そしてひどかったから」とLinux開発の動機について語っています。

思えば遠くに来たもんだ

思えば遠くに来たもんだ

自分が使いたいものを自分で作り,みんなにも使ってほしくなったから公開したというLinus氏。好きなことをひたすらやり続けているうちに協力者が集まり,「気がついたら22年も経っていた」と振り返ります。Hohndel氏から「ビル・ゲイツになりたいとか,このソフトで儲けてやろうとか思わなかった?」と振られると「ビル・ゲイツ? なりたいわけないじゃん。僕はビジネスマンにはなれないのはわかっていたし」と笑いながら答えました。「このソフトをどうしたいとか,プランなんか何もなかった。でもオープンソースにして,みんなで作るようになってから,楽しさが加速した。ただひたすら楽しいからやり続けてきただけ。正直,お金のことはあまり考えなかった」というLinus氏のコメントに,オープンソース開発の原点があるように思えます。成功するプロジェクトは開発者本人がいちばん楽しんでいるというのも納得できます。


「僕ができるのはコードを書くことだけ」とLinus氏はところどころにこのフレースをはさんでいたのが印象的でした。天才的なプログラミング能力をフィンランドという自由な社会で開花させ,その人間的魅力も相まって数多くの協力者が彼のもとに集い,Linuxは世界でもっとも使われているソフトウェアプラットフォームに成長しました。もっともLinus氏自身は22年前からそのスタイルや信念をほとんど変えていません。むしろLinus氏の変わらない部分こそがLinuxカーネル開発の"核"となって人々を集め,Linuxの成長の源泉となっているのではないか,久しぶりに生のLinus氏を近くで見てそんなふうに感じさせられたすばらしいキーノートでした。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

フリーランスライター兼エディター。札幌市出身。東京都立大学経済学部卒。技術評論社で雑誌/書籍の編集に携わった後,「マイコミジャーナル」で主に技術系記事の取材/執筆/編集を担当する。フィールドワークはOSS,Javaプログラミング,Webアプリ開発,クラウドコンピューティングなどエンタープライズITが中心。ビジネス英語やマネジメント,コーチングスキルなどビジネス系のネタもたまに手がける。

Twitter:http://twitter.com/g3akk

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