レポート

Infinity Ventures Summit 2013 Fall レポート:B2B系のサービスが目立った今年のIVS,弾けていたヤフー,勝って兜の緒を締めるLINE

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「いい会社ほど危機感を持ちにくい」~危機感を持って会社を変化させようとするヤフー経営陣

「いい会社ほど危機感を持ちにくい」そんな言葉が飛び出したのは,⁠強い経営チーム・組織を創る」と題したセッションでのことです。そんなヤフーが危機感を持って取り組み始めたのが,今年10月に発表したEコマース革命。

楽天やアマゾンの後塵を排してきたヤフーショッピング。14年間サービスを継続する中で競合に対して勝つことができず,直近ではエンジニア数人で運営している状態だったそうです。⁠Eコマースよりもヤフーポータルの数千万円のブランドパネルが売れる広告のほうが儲かるので,経営陣がEコマースに力を入れていなかったのはあたりまえ」だったと別の「小売・Eコマースの未来像」と題したセッションでヤフーの執行役員である小澤隆夫氏は語りました。

ヤフー執行役員 小澤隆夫氏

ヤフー執行役員 小澤隆夫氏

しかしスマートフォン市場が想定以上に伸びる中,PCではキングであるヤフーの経営陣は危機感を持ちます。⁠ 広告は人が多く来ているから価値がある。人が来ないヤフーのページには価値がなくなってしまう。人が多く来ている間にやるべきことは?」と考えた結果,成長の余地があるEコマースで「何度もEコマースに力をいれるといってきたが,今度は本気」で取り組むといいます。

そこで白羽の矢が立ったのが元楽天執行役員である小澤氏。⁠楽天市場の事業のことをやったことがないから(Eコマースについては)知らないよ」と最初は固辞したという小澤氏ですが,⁠でもいいじゃない,それっぽいよ」とヤフーの経営陣から説得されたそうです。

楽天市場の真似から脱却し,ヤフーが成功してきたことをEコマースに適用するということで「グーグルの検索エンジンを使っているけど,検索がヤフーの強み(笑⁠⁠」と,⁠1億の商品を検索できるよりも,10億の商品を検索できるように」出店無料化に乗り出し,売上げに対するロイヤリティまでなくしてしまいます。

「楽天もアマゾンもヤフーショッピングに出店してくれ!」とステージで叫ぶ小澤氏に隣に座っていた楽天執行役員の北川拓也氏もたじたじ。

ヤフー小澤氏の発言に苦笑する楽天執行役員の北川拓也氏

ヤフー小澤氏の発言に苦笑する楽天執行役員の北川拓也氏

「有り体に言えばタオバオの真似」というこの無料戦略で,楽天やBASE, stores.jpといったEコマースサイトはもちろん,楽天と同じく登壇していた三越伊勢丹ホールディングス社長の大西洋氏にも呼びかけ会場は大爆笑となっていました。

左側:三越伊勢丹ホールディングス社長大西洋氏 右側:ヤフー副社長 川邊健太郎氏

左側:三越伊勢丹ホールディングス社長大西洋氏 右側:ヤフー副社長 川邊健太郎氏

こうしたノリの良さは,⁠つまらない会社になっていた。みんなが踊るお祭りの環境をどう創るか」と語ったヤフーの副社長の川邊氏ら,ヤフー経営陣による新しい企業文化と強い関わりがありそうです。そのためにヤフーではヤフーバリューという4つの価値観を掲げ,さらにそれを評価の軸にまで落とし込んでいるそうです。

そのヤフーバリューとは,

  1. 課題解決で楽しい
  2. フォーカスで楽しい
  3. 爆速で楽しい
  4. ワイルドって楽しい

の4つ。

小澤氏のステージ上でのワイルドな発言はまさにこのヤフーバリューを体現して自ら中心となって踊っているものだといえそうです。

ヤフーショッピングでは自ら踊り役を演じる小澤氏

ヤフーショッピングでは自ら踊り役を演じる小澤氏

LINE:贅肉をつけない経営。本当に必要な人だけを採用し一番必要なことに振り分ける

ユーザ数が全世界で3億人を越え,急成長を続けるLINEですが,勝って兜の緒を締めている様子が前述の「強い経営チーム・組織を創る」というセッションでのLINE社長の森川亮氏の発言から伝わってきました。

LINE社長森川亮氏

LINE社長森川亮氏

森川氏が社長になったときに「⁠⁠勤続年数が長くなっている人の給与が高止まりしがちなので)社員の給与を全部リセットした。日本は世界的にみても賃金が高い。オペレーションとクリエイティブをわけてオペレーションを中国と福岡に持っていった」と語りました。

またLINEは人材紹介会社からも採用の基準が高いことで有名で,⁠人が足りない状況でも,採用のバーが下がるということはない。人材紹介会社から嫌われている(笑⁠⁠」と言います。

「僕たちの会社は外国人も多く,中途も多かった。⁠マネジメントが必要じゃない人』が必要です,というのを大前提にしている。お互いに相談しあわないように,プロジェクトに切り分け,なるべく会議や情報共有をなくすようにしている。」そうです。

それによって,⁠実務に関係ない仕事が結構増えてしまう」マネージャーの仕事を減らし,人事評価も簡素化し1週間以内に終わるようにしていると言います。

「マネジメントが必要じゃない人だけ必要なので,マネジメントが必要な人は辞めていただく。サッカーでいえばドリブルができてシュートまで持っていける人に球を任せている。経営はうまくいっているときとうまくいっていないときで違うが,今はうまくいっているのでいかに邪魔しないか,走っている人に声をかけないようにしている」のだそうです。

ビールを飲みながらも真剣な発言が飛び交ったIVSの「強い経営チーム・組織を創る」セッション

ビールを飲みながらも真剣な発言が飛び交ったIVSの「強い経営チーム・組織を創る」セッション

「勝つためには速いスピードでいいものを出さないといけない⁠⁠。そのために,⁠優秀な人を優先度の高いことに振り分ける」⁠何をやめるかを大事にしている」そうで,サービスが急成長している最中も贅肉をつけずに集中を続けるために,組織を変化させ,自己破壊を絶えず継続していることが伝わってきました。

森川氏の言葉は,ヤフーほど目立ったものではありませんでしたが,地味ながら手堅く事業を育ていくしたたかさを強く感じることができる面白いものでした。

著者プロフィール

美谷広海(みたにひろうみ)

1975年フランス生まれ。引越し歴14回。ゲーム,モバイル,Webとデジタルコンテンツの企画,プロデュースを行い,Webサービスの海外進出、海外から日本への事業展開に従事中。ブログは『Fool on the Web』。海外に日本のIT情報を紹介するasiajin.comにも参加しています。

メールは hiroumitani@gmail.com