Qtのフラッグシップイベント「Qt Japan Summit 2015」開催レポート

はじめに

2015年5月26日(火)に、秋葉原コンベンションホールで開催された「Qt Japan Summit 2015」は、300名を超える参加者を集め、大盛況のうちに終了しました。

「Qt Japan Summit」はマルチプラットフォームGUI開発フレームワーク"Qt"の最新情報に関するセッションやトレーニング、Qtを使用する上でのアドバイス等、初心者から熟練者までの幅広い層を対象としたイベントです。

例年、アメリカとドイツで開催され多くの参加者を集めており、Qtの フラッグシップイベントといえます。昨年は日本で初開催され盛況を博し、今年も引き続き開催されました。

会場を指す案内パネル
会場を指す案内パネル

このほど基調講演とセッションの資料が公開されましたので、合わせてレポートをお送りします。

Qtのこれからがわかる─基調講演

朝9時に開場されると、来場者は講演会場前の通路に並ぶスポンサー(SRA、ISB、Wind River、Adeneo Embedded、PTP、日本Qtユーザー会)によるデモを眺めながら基調講演の開始を待ちます。

展示では、さまざまなガジェットと連携したデモや、多数のデバイス上でのデモが並びましたが、中でも、胸のディスプレイににQtのロゴをあしらった話題の感情認識パーソナルロボットPepperがひときわ人目を引いていました。PepperにはC++ SDKがあり、Qtで作られたプログラムから動作をコントロールすることができるそうです。

展示会場で注目されていたPepper
展示会場で注目されていたPepper

午前中、会場2階大ホールでは基調講演が行われました。

ホールがほぼ満席となる中、開会挨拶がスタート。今回の挨拶を務めるのは日本Qtユーザー会の牽引者である鈴木 祐氏です。

鈴木氏は旧Trolltech所属のころから長年Qtの普及活動や開発に携わり、現在所属するPTPでも全録/露出シーン検索機能等を備えた高性能ビデオレコーダ「SPIDER」をQtで開発しています。そして今年、The Qt CompanyからQtのコミュニティ活動に大きく貢献した人物に与えられる「Qt Champion」の、世界で史上2人目の受賞者となりました。その鈴木氏がイベントのプログラム、スポンサー、楽しみ方などを紹介しました。

あいさつの最後に、最初の基調講演を始めようとするThe Qt CompanyのCTOでQt ProjectのChief Maintainerを勤めるLars Knoll氏に、日本Qtユーザー会からQt20周年記念の特製ケーキが贈られました。

ユーザー会製のQt20周年ケーキ
ユーザー会製のQt20周年ケーキ

思わぬプレゼントに驚きを露わにしながら、Lars氏は「Build your world with Qt」というタイトルで、Qtの基本的な紹介から話を始めます。

まずは、Autodesk Maya、Teslaのインフォテインメント/クラスタシステム、多くの旅客機に搭載されたエンターテインメントシステムといった事例を挙げて聴講者の興味を引きます。続いて代表的なAPIやツール類の紹介をはじめ、Qt QuickやOpenGLを用いたリッチなGUIを持つアプリケーション、Qt WebEngineを用いたHTML5+ネイティブのハイブリッドなアプリケーションの開発方法などについて紹介していきました。また、今後のIoT領域での需要増とそれにともなう課題にも触れました。

基調講演中のLars Knoll氏
基調講演中のLars Knoll氏

さらに、QMLからOpenGLを用いた既存の3Dモデルを操作できるQt 3D 2.0(テクノロジープレビュー版)や、WebGLのQML版といった位置付けのローレベルなAPIであるQt Canvas 3Dといった、Qt5.5から追加となる新モジュールもフィーチャーされました。

今後の開発方針として、タッチデバイス化の進む組込み領域により注力するという意向を強調し、あわせて組込み開発で有効なツールセットを紹介しました。

最後に今後のスケジュールとしてQt5.5の最終リリースが6月末、5.6のリリースが11月予定となることを発表し、Knoll氏のセッションは終了しました(この後、Qt5.5は7月1日リリース、5.6は12月初旬に変更されました⁠⁠。

Qtの「ベストプラクティス」とは?

次に壇上に立つのは、本イベントのメインスポンサーであるSRAのシニアマネージャ、山口 大介氏。講演タイトルは「Qtにおけるベストプラクティス」です。今回のイベントも、国内におけるQtのリーディングカンパニーであるSRAからの招待客が大多数を占めていましたが、まずは改めてSRAのQtに関する取り組みを紹介したうえで本題に入ります。

この講演では、SRAの10年以上に渡るQtビジネスで蓄積されたノウハウから、Qtの活用法や課題と解決方法について、テスト、高速化、多言語対応といった、いくつかのテーマをピックアップして紹介します。

満員の基調講演会場
満員の基調講演会場

まずQtにおけるテストでは、静的解析、単体テスト、GUIテスト、コードカバレッジ、集計といった個別のツールをJenkinsで統合し、CI環境を構築して回す仕組みを提案します。中でも、Qtに特化したGUIテスト自動化ツール「Squish for Qt」については、講演後に情報提供を求める声が殺到しました。

また、高速化の手段として、Qt Quickアプリケーションのパフォーマンスチューニング、デバッグに活用できるQML Profilerや、QMLを事前にコンパイルすることでロード時間とパフォーマンスの高速化をを可能とするQt Quick Compilerを挙げ、ベンチマーク結果も交えながらその効果を語り、翻訳支援ツールQt Linguistを使った多言語対応方法も紹介しました。

さらに、Qt4から5へのバージョンアップの参考となるリファレンスや、安易に選択されがちなLGPL版の注意点などのトピックスについても話をしました。

マルチスクリーン時代を牽引するQt

休憩をはさんで基調講演の最後となるセッションは、The Qt CompanyのプロダクトマネージャーであるNils Christian Roscher-Nielsenによる「Qt for your Multiscreen Strategy」です。このセッションでは、世の中で需要の高まるマルチスクリーン戦略を、Qtの特長や機能を活用して実現する方法を紹介します。

たとえば自動車では、従来のセンタースクリーンとそれに連携するPCやモバイル、クラスター、バックシートモニタ、ヘッドアップディスプレイに至るまでスクリーンが存在し、それぞれに多くの機能が実装されるという話を引き合いに出し説明します。マルチスクリーン開発におけるのQtのメリットとして以下のような点を挙げていきました。

  • デスクトップ/組込み/モバイルOSを網羅的にカバーするやマルチプラットフォームのAPI利用による生産性
  • NativeのパフォーマンスとHTML5の柔軟性を共に活用可能
  • 医療、車載、航空管制といったミッションクリティカルなシステムで採用される信頼性
  • Qt Quick/QMLによるリッチで目新しいGUIの実現性

また、こうしたメリットを享受する例として、多業種向けにさまざまなデバイスで製品展開するNavico社のナビゲーション端末や、デジタルテレビ、STB、Mobile端末などをターゲットとしたDCC Labs社のアプリケーションフレームワークといった事例を紹介し、最後に、Qt5.4から新たに加わったライセンスオプションであるLGPLv3について説明してスピーチを終えました。

これで午前中のプログラムは全て終了となりました。

ランチタイムには今回もライトニングトークが行われ、日本Qtユーザー会のメンバー中心に、高校生、企業でQtを使って製品開発をするエンジニアなど広い層のスピーカーによるプレゼンテーションで参加者を楽しませます。

Businessトラック、Technical & Featuresトラック

午後からは2つのトラックに分かれ、セッションが同時に進行します。

Businessトラックは、Qt採用検討者、Qt初級者を主なターゲットとして、商用ライセンスのメリットをアピールしながらQtを知り、理解を深めてもらうためのプログラムが用意されました。

まずはQtの概要説明や基礎的な技術紹介のセッションからスタートし、主に以下の商用アドオンモジュールを紹介する3セッションへと移っていきます。

  • OpenGLにより3Dデータを可視化するQt Data Visualization
  • さまざまな形式のグラフをUIに組み込むQt Charts
  • ポーティングの手間を省き即座にデバイス開発を開始可能なQt for Device Creation
  • OpenGLの使えないローエンドなハードウェアでQt Quick 2を動かすためのQt Quick 2D Renderer
  • Qt Quick Compiler

また、ISBは自社の医療画像閲覧ビューアでのQt採用事例等について紹介しました。

一方、Technical & Featuresトラックは、一定以上Qt開発の経験のある技術者に役立つセッションが用意されています。

このトラックでは、Qt Quickによるジェスチャー操作の実装方法、ハードウェアアクセラレーション、グラフィックエフェクトといった具体的な活用方法の紹介をはじめ、Qt Creatorの拡張機能も含めた基本から応用まで実践的な使い方、Qt 5で改良/追加された便利な機能、複雑なMakefileの作成を自動化するqmakeの使い方といった、すぐに役立つ技術について語るセッションが続きました。

注目されたQt5.5のハイライトについてのセッションではLars氏が再び登場し、前述のQt 3D、Qt Canvas 3Dに加え、地図や経路情報を扱うAPIであるQt Locationや、OSネイティブのコンポーネントを使うQML用のHTMLエンジンであるQt WebViewの紹介の他さまざまな新機能について語り、併せてQt Quick Compornentが5.6で大きな改良が予定されているという話題も挙げました。

最後に

今回も、前回以上に多くの方々にご参加いただきましたが、開催後に参加者から寄せられた多くのご意見を反映し、イベントをより成熟させ定期的に開催できるよう、SRAもメインスポンサーの立場から主催者に働きかけたいと考えています。記事をお読みの皆さんからもご意見、ご要望をお待ちしています。

なお、冒頭で触れたとおり、セッション資料等が公式サイトで公開されています。

Qt Japan Summit 2015 公式サイト
URL:http://www.qt.io/qtjapansummit2015-sessions/

追ってセッションの動画も公開される予定です。

また、イベントに関して、Qtに関してのご質問や詳細説明のご依頼は、SRA Qtページよりお問い合わせください。

SRAのQt関連サービスご紹介

  • Qtの国内販売代理店として2003年からQtの普及・促進に貢献
  • Qtのライセンス販売だけでなく、コンサルティングから開発、サポートサービスまでをトータルに提供
  • 多くのQtエンジニアが在籍しており、Qt開発受託の実績豊富
  • 3名のQtコンサルタントにより、導入のご支援、パフォーマンスチューニング、Qt自身のカスタマイズ等のサービスを提供
  • Qtの導入を検討する顧客向けに、Qtプログラミング体験セミナーを隔月で無償で開催、より実践的なプログラミングスキルを学べる有償トレーニングも隔月開催

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