レポート

Qtコントリビュータが一堂に会し,今後のQtの行方を決める「Qt Contributors' Summit 2015」参加レポート

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2015年6月7日,8日の2日間,ノルウェーのオスロで「Qt Contributors' Summit 2015」⁠以下QtCS)が開催されました。

Qtのイベントといえば,Qt Developer Day(今年からは Qt Summitという形になり,先日開催されたQt Japan Summitや10月にドイツで開催されるQt World Summitが相当します)が最もなじみの深いものだと思います。こちらはQtを使用する人たち向けで,トレーニングやセミナーを中心としており,申し込みをすれば誰でも参加できるイベントです(Qt World Summitは有料のイベントです)⁠

それに対してQtCSは,その名の通りQtへ貢献した人たちによるイベントで,そこでは今後のQtの方向性を決定するための会議が行われます。出席にはQtへ貢献したという実績が必要とされ,Qt Projectから招待されなければ出席することはできません。貢献の内容はコードによるものがほとんどですが,その他にもドキュメントやフォーラムでのQ&A,コミュニティ活動,イベントへのスポンサーなども対象となります。

会議はアンカンファレンス(Unconference)スタイルで行われるため,当日になって開催が決定されるセッションもあります。各セッションはセミナーのような一方通行ではなく,ホストと参加者とで議論が行われ,出席者にはセッションの主催や議論への積極的な参加が推奨されています。

これまでのQtCSはドイツのベルリンで開催されることが多かったのですが,今年はQtの20周年ということもあってか,Trolltech時代からのQt開発の最も大きな拠点であるノルウェーのオスロで開催されました。

会場となったThe Qt CompanyがあるオスロのBI center.

会場となったThe Qt CompanyがあるオスロのBI center.

このQtCSに今年は日本から3名の参加がありました。筆者(朝木卓見)の他は,昨年,日本Qtユーザー会での献身的な活動などが評価され,The Qt Championとして表彰された株式会社PTPの鈴木佑さん,Qt Installer Frameworkの翻訳や書籍『Qt QuickではじめるクロスプラットフォームUIプログラミング』の執筆を手がけ,他にも2冊のQt本を自費出版されている折戸孝行さんの3人です。

なお,QtCS 2015全体の参加者は約100名で,そのうちThe Qt Companyからは30名ほどが参加したとのことでした。

オープニング

QtCSはThe Qt Companyのオフィスのあるビルの貸し会議室で開催されました。

まずは出席者は1Fの受付で自分の名札とTシャツを受け取ります。QtCSの面白いところは,これらの作業をスタッフだけでなく出席者たちも自ら行っているところでしょうか。イベントのアットホームなところと主催者側と出席者側の同列なところが垣間見える一幕です。

受付にあるQtCSのパネル

受付にあるQtCSのパネル

まずは全員出席によるオープニングセッションから始まります。イベントのコーディネーターであるTero Kojo氏から各スポンサーへの謝辞が述べられ,諸注意の連絡を行います。

次に,Froglogic社のCEOであるHarri Porten氏がスポンサー代表として紹介され,簡単な会社紹介が行われました。

その後は Qt Project のチーフメンテナであるLars Knoll氏の登場です。まずはQtの20周年を祝って,この20年のロゴの変遷がムービーで紹介されました。初期のロゴなどはおなじみのQtグリーンは使われていないモノクロのもので,初めて見る人も多かったのではないでしょうか。それらのロゴはQtの20周年記念ページにも掲載されてます。

続いて,この1年ほどの状況が紹介されます。この1年の大きな出来事の1つがライセンスです。Qt 5.4からライセンスにLGPLv3が追加され,今後は新たなモジュールのライセンスには LGPLv2 が適用されないことになっています。このLGPLv2からLGPLv3へのシフトはいわゆるTivo化などの問題への対応として,オープンソースの意義をより尊重するためのものになります。LGPLv3を採用することで,オープンソースへのコードによる直接的な還元と,商用版による金銭を通じた間接的な還元を得ることができ,Qtのエコシステムをより拡大させるためのより良いライセンスの選択であるとのことでした。

引き続いて,KDE Free Qt Foundationの現状について説明されました。KDE Free Qt FoundationはQtがまだオープンソースライセンスに準拠していないころに発足した組織で,Qtをオープンソースソフトウェアとして存続させ続けるためのKDEとTrollTech(後にはNokiaやDigia)との契約を含みます。The Qt Companyの立ち上げや現状を考慮して,対象となるプラットフォームの追加(すでにAndroidが追加されていますが)や,LGPLv3などを考慮した契約の更新が検討中で,QtCSではその内容についても議論する予定になっています。

コミュニティの紹介として,Qtへのパッチのコミット数を元にKDABやIntel,Woboqなどの会社が紹介されました。コミット数としてはThe Qt Companyが過半数を占めていますが,QtのパートナーであるKDAB,Qt CoreのメンテナであるThiago氏の所属するIntelなども十分に貢献していることが見て取れます。

The Qt Companyの現状についても紹介されました。The Qt Companyの財務状況についてはDigia社の報告の中に記載されていますが,2014年は赤字だったものの,2015年のQ1では収入が拡大しており,収支は改善してきているそうです。この原因としてはQtの商用版とオープンソース版のWebサイトをqt.ioに統合したことや,LGPLv3の導入などが考えられるということでした。商用版ライセンスのプラットフォームの内訳ではデスクトップ向けが依然として大きな収入源であり,組込み向けも急速に拡大しているとのことです。

これらを受けて,The Qt Companyではアプリケーション開発と組込み向けデバイスの作成(Qt for Device Creation)の2つを大きな柱として進めていくということでした。

ひと通りの現状説明が終わった後は,今回のQtCSのトピックが軽く紹介されました。

テクニカルではない(コードに関連しない)トピックでは,QtでのGPLライセンスの扱いについて,Webサイトの統合に関連して,商用版のバグレポートをオープンソース版のバグレポートと統合する件,一部で残っているqt-project.orgの機能をqt.ioへ移動するかどうか,コミュニティやエコシステムの拡大に関してなどが挙げられました。

テクニカル系ではサポートするプラットフォームの追加や廃止について,C++11/C++14といった新しい標準の利用について,パフォーマンスについて,CIのテストシステムについて,などの項目が挙げられました。

一通りの説明が終わった後は個別のセッションへと移ります。

著者プロフィール

朝木卓見(あさきたくみ)

1996年からQtを使い始める。

2006年,Qtの開発元であったTrollTech ASAにてQtのコンサルティングやサポートに従事。

2008年,TrollTech買収によりNokiaに移籍し,Qtの啓蒙活動なども行う。

現在は株式会社SRAでQtコンサルタントとして活動中。

Officially Certified Qt Specialist

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