レポート

見えてきたQt 6への展望 ―「QtCon 2016」参加レポート

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カンファレンス

9/2~9/4の3日間に本格的なカンファレンスが開催されました。Qt以外のセッションもあるためこの日から参加する人も多く,非常に多くの人が会場に集まりました。そして多くの人の視線を浴びながら,KDABグループCEOであるMatthias Kalle Dalheimer氏のウェルカムスピーチを皮切りに講演がスタートしました。

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カンファレンスの内容は大きくキーノート,セッション,ライトニングトークの3つに分類できます。キーノートとセッションは毎日(キーノートは1日1講演ずつ)⁠ライトニングトークは9/2にのみ開かれました。

ここからは私が参加したキーノートとセッションについてご紹介します。なお,トレーニングデイ以外の講演時の動画がQtConのホームページで一部公開(紹介するものは全て閲覧可能)されています。下記リンク先でお好きなセッションのページを開くことによりご覧いただけます。その中には講義で使用したスライドやサンプルコードが置かれているものもあります。

QtCon Schedule index
URL:https://conf.qtcon.org/en/qtcon/public/schedule

Keynote 1 - How Social Activists are Using Open Data

9/2の最初のキーノートでは,ドイツのSOZIALHELDEN社からRaúl Krauthausen氏とHolger Dieterich氏が壇上に立ち,車椅子利用の方々をメインターゲットにしたこれまでの事業について講演しました。

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ドイツではペットボトルや瓶の料金にデポジット料金が上乗せされています。これらをスーパーマーケットに置かれた回収マシンに入れると受領証が発行され,レジに持っていくとデポジット料金が差し引かれる仕組みがあります。彼らは回収マシンの横に受領証の募金箱を置かせてもらい,その寄付金を地域の発展に貢献するシステムを作りました。また,地理情報データを誰でもフリーで作成・利用できることを目的としたプロジェクトOpen Street Mapを利用した,車椅子で行くことが可能なお店や交通機関の位置を確認できる地図アプリWheelmapがあります。こちらは日本でも利用することが可能で,日本語にも対応しています。その他,駅などのエレベータが稼働中かどうかを調べられるサービスBrokenLiftsについても述べていました。

Keynote 2 - Cultivating Empathy

Leslie Hawthorn氏は大学入学前の学生を率いてGoogle Code-inの開発を行ったことで知られており,現在はRed Hat Inc.でCent OSのエコシステム構築プロジェクトに携わっています。

キーノートでは,彼女がコミュニティリーダとしてこれまでに培った『Empathy』の重要性について講演していました。その中で,彼女は「たとえ優れた技術スキルを持つチームだとしても,エンドユーザが満足する高品質な製品を提供できるかはわかりません。そのため,ユーザが何を望んでいるかを,チーム内でしっかりと聞く耳を持って話し合う必要があります。また,この能力は生まれ持ったものではなく学習することや享受することができるスキルで,周囲の人々と相互作用し合うことでこれをレベルアップさせることが可能です。」と説明しており,個人的にもコミュニティ的にも聞く耳を持ちながら議論することが重要であることを述べていました。

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Keynote 3 - Software as a public service

最終日9/4に,欧州議会議員かつ緑の党/欧州自由同盟の副議長であるJulia Reda氏がEUにおけるFree/Libre or Open Source Software ⁠FLOSS)の影響について講演しました。彼女はOpenSSLのいわゆるheartbleedバグ問題に対して作られた実験的プロジェクト『ソフトウェアの統治と価値 - FOSSの監査』の主要メンバーで,このプロジェクトはフリーのオープンソースソフトウェアのセキュリティ強化を目指しています。

講演の中で,ソースの秘匿性を強めると自動車の排ガス問題のような問題が引き起こされ,公開性を強めると選挙データ改ざんなどの問題に直面する昨今の社会問題を取り上げて,政府として速やかにOSSのセキュリティ向上に対応しなければならないと警告しています。また,社会に対してもただサービスを容認するだけでなく,その責任を取る必要があると主張していました。この講演は質疑が多く議論が非常に盛り上がりました。

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セッション

4つのオープンソースコミュニティが一堂に会したため,セッション数は過去最高の174講演,ライトニングトークも合わせると全178もの講演が行われ,その中の約半分がQtに関するセッションでした。

ここでは参加したいくつかのQt セッションについて紹介したいと思います。

Qt project status

QtのChief MaintainerであるLars Knoll氏がQtの現状と今後を語るという,Qt World Summitなどでもおなじみのセッションです。

最初はここ最近のQtの状況の説明です。Qtのリリースや,Open Sourceに関する話題としてKDE Qt Foundation との合意の更新の話やQt 5.7 からのライセンス変更について説明がありました。今回のライセンス変更のタイミングでさまざまな商用モジュールにOpen Source ライセンスが追加され,⁠一部のモジュールはまだですが)OSS版と商用版の機能が同じになります。QtのエコシステムとしてはQt 5.6系が50万,Qt 5.7系が36万回ダウンロードされたこと,Qt Projectのアクティブなコントリビュータが250名ほどであることなどが述べられました。コードのコミットはThe Qt Company社,KDAB社,Intel社,Audiocodes社など活発な組織が限られており,より多くの組織に参加してもらうことが課題のひとつということでした。

Qt Projectの開発で用いられているCIシステムについても説明がありました。Qt 5.6から導入された新しいCIシステムであるCOINですが,今後の対応プラットフォームやプロダクトの増加に伴って今年の末頃にリニューアルが予定されているということでした。

また,現在開発中の機能として,New Feature System/New Configuration Systemが簡単に紹介されました。詳しい説明は「New configuration system in Qt 5.8」として別のセッションで行われましたが,このシステムでは Linux や OS X向けに使用されているconfigureスクリプトとWindowsで使用されているconfigure.exeを統合して,1つのシステムですべてのプラットフォームをサポートすることを目的としています。qmakeとJSONをベースにして構築するそうです。

さらに,主に組込み向けのQt Liteについても説明がありました。これまでのQt 5では各モジュール内の機能のカスタマイズが積極的にサポートされてきませんでしたが,組み込みのフットプリント削減の要求を受けて使用しない機能をコンパイル対象から除外して,ライブラリ等のサイズを小さくすることを目的としています。

その先のトピックとして,次のメジャーバージョンである「Qt 6」についても言及がありました。スライドで『What About Qt 6????』と映し出されると軽いどよめきが発生し,次のメジャーリリースを考えはじめるいい時間で,これは1つのアイデアに過ぎないとの前置きもありましたが,Qt 6へ向けてのロードマップ案などが説明されました。Qt 5系のリリースも5.9,5.10と続けていく予定ですが,5.11をQt 5系の最終リリースとして,Qt 6については早ければ2019年にでもリリースしたいということでした。もちろん,リリースの日程はずれ込む可能性もあります。

Qt 6の機能についても検討項目が示され,Qt Coreのような熟成したモジュールは機能の整理程度,Qt GUIはOpenGL以外のグラフィック系APIへの対応(DirectX 12,Vulkan等)などが主な項目になりそうです。大きく変化しそうなモジュールはQt QMLやQt Quickで,よりパフォーマンスや使い勝手を向上させるためにさまざまな変更が行われそうです。この他,Pythonバインディング(PySide)の公式サポート,WebAssemblyのサポートを通じたWebブラウザ上でのQtアプリの実行なども項目として挙げられ,まだまだこれからさまざまなことが決定していくところですが,Qt 6はメジャーバージョンアップにふさわしいリリースとなりそうな予感を感じさせました。

著者プロフィール

吉川武宏(よしかわたけひろ)

2015年度からQt関連プロジェクトに配属され,C++とQMLを使用したサーバ監視用アプリケーションを医療用スキャナアプリケーションの開発に携わる。現在はQtサポートチームとして活動している。

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