レポート

オートモーティブ,医療分野で採用が進むQtの今 -「Qt World Summit 2017」レポート

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キーノート

10/11,12の2日間については,The Qt Group CEOのJuha Varelius氏によるウェルカムスピーチによりカンファレンスが開始されました。両日は,午前がキーノートで午後からセッションという構成で,キーノートでは12のトピックが紹介され,その他に全部で78のセッションが講演されました。ここでは,⁠Welcome to Qt World Summit 2017」⁠⁠The future is written with Qt」と,これら以外のキーノートの紹介をします。また,セッションについては後述します。

Welcome to Qt World Summit 2017

このキーノートでは,Qt Group CEOのJuha Varelius氏から,ウェルカムスピーチの後,Qtの関心業界(分野)について話がありました。最初の挨拶では,今回のチケットが売り切れたこと,世界40ヵ国から1,000人以上が参加し,Qtの使用業種30が参加する世界規模のイベントになったと報告があり,パートナーおよびカスタマーの皆様に感謝していると述べました。

Juha Varelius氏によるキーノート

Juha Varelius氏によるキーノート

今までは,非常に長い間デスクトップビジネスを行ってきましたが,これからも重要なビジネスの一部であり投資していきますと述べた上で,次の2つに着目していると言います。

  1. UIの重要性
  2. 付加価値の追加(特定の業種により多くの付加価値を追加したい)

1つめの「UIの重要性」では,IoTの技術革新において,あらゆる「モノ」にUIが必要となり,今までのUIのみならず,新しい技術3Dや音声認識技術を利用したUIが登場しますが,デバイスが何であってもユーザエクスペリエンスがシームレスでなければならないと考えているようです。

また,2つめの「付加価値の追加」では,数年前に特定の業界でより多くの価値を追加したいと考えて,自動車産業を開始して考察してきました。世界の一流自動車メーカーの多くと協力し,Qt Automotive Suiteは主にIVIで使用されるようになったと述べています。

最後に,自動車業界に関しては,車内のすべての画面をQtにしたい,また,他の業界として,オートメーションと医療業界に付加価値を追加したいと考えていると結びました。

Qt Design Principals and Roadmap

このキーノートでは,The Qt CompanyのCTOであるLars Knoll氏から,Qtの現状と今後について説明がありました。

Qt Design Principals

はじめに,Qtデザイン原則について説明がありました(QtCSでも同様な話があったようです)⁠

コードは1回記述すれば,長い間メンテナンスのため何度も読まれ,修正し続けられます。しかし,開発者は,コードにコメントをほとんど記述しないので,誰もがメンテナンスできない部分があります。このためQtでは,どのようにしてAPIの開発を行っていくかを次のように述べています。

APIs that lead to readable & maintainable code
コードは,直感的でドキュメントを記述しなくても理解できるようにすべきです。
Easy to learn & use, hard to misuse
クラスまたはメソッドごとに1つの概念とし,一貫した名前付け,かつ,シンプルで明確なセマンティクスの実装とします。
Performance
フレームワークのすべての部分で良好なパフォーマンスを確保し,デフォルトのAPIを複雑にしない,可能な限り多くのAPIを作成して,高速でシンプルなAPIを作成します。
Flexible(APIs Flexible)
一般的な使用事例を可能な限り簡単に実装できるAPIを作成します。
Keeping it simple
C++言語は複雑ですが,ほとんどの場合,複雑な機能は必要ありません。APIを簡単にすることで,敷居を低くし,初心者や中級者でも用意に実装できるようにします。
API Stability
Major Version間でも可能な限り互換性を保ちます。

また,ツールの開発方針についても,次のように述べていました。

World class tools
画面設計,プロジェクト管理,パッケージング,デプロイ,メンテナンスなどの開発プロセスのすべての部分をツールでカバーできるようにします。
Qt開発現状について

大きなトピックとして上がっていたのは,Graphicsについてです。

1つめのトピックとして,Qt Quick Scene Graphが使用するグラフィックスAPIの追加について話がありました。今後,5.9ではQt QuickのバックエンドでH/Wに依存しない,OpenGL,OpenVG,ソフトウェアラスタライズをサポートし,また5.10では,Qt GuiでVulkan(次世代の標準3DAPI規格)をサポートし,さらにOpenGL ES 3.2 APIも公開する予定とのことです。

次に,Qt 3D Studioの今後の動向について述べています。Qt 3D Studioとは,今年の2月NVIDIAからQtに寄付された3DのUIオーサリングシステムです。2017/10/11現在,そのソースコードがリポジトリで公開され,バイナリはWindows版のみですが,Qt Onlineインストーラーからインストールできるようになりました。現在,3D RuntimeにはNVIDIA RuntimeとQt 3D Based Runtimeがありますが,今後これをQt 3D Based Runtimeと統合して行くと述べていました。

Lars Knoll 氏による「Qt 3D Studio」説明の模様

Lars Knoll 氏による「Qt 3D Studio」説明の模様

リリースロードマップ

最後に,リリースロードマップについて紹介します。

Qt 5.9.2は,2017/10/6(金)にリリースされており,今後5.9シリーズについては,2ヵ月おきにリリースをしていく予定です。なお,5.9LTSは,3年間サポートになります。

また,5.10 Beta が10/9(月)にリリースされました(2017/11/13現在,5.10 Beta 4がリリースされています)⁠5.10の正式リリースを今年11月末に予定しています。

5.10と5.11は通常のリリースおよび通常のサポートとなります。5.11のリリースは2018年春ごろを予定しています。

5.12は,Q t5系の最後バージョンとして,2018年秋にLTSとしてリリースされる予定です。

キーノートサマリ

ここでは,その他のキーノートのタイトルと,演者,概要を挙げます。

1.How Do You Measure What You Can't
CERNのATLASで研究をしているSteven Goldfarb博士は,⁠見えないものを測るにはどのようにすればよいか」の問に対し,どのように回答するかを,ATLAS実験で得た結果から宇宙の起源についてまで話を広げて説明していました。
2.One Hundred Languages
『ルビィのぼうけん(原題:Hello Ruby)⁠の著者である,プログラマ,作家,イラストレータであるLinda Liukasさんは,子供たちにコンピュータ,論理やプログラミングについて教える様子を説明していました。
3.Behind the scenes of a show car: Rapid UI/UX prototyping and production
Mercedes-Benz Research & Development North America Inc.で,IVIやインパネ(Instrument Panel)のUIチームを率いるAlex Hilliger氏は,コンセプトカー3台の概要を説明しました。そのうちの1台をブースで展示していました。
4.Future of Vehicle HMI Systems
Takayuki Tanabe氏は,Panasonic ITS社のCEOで,車のコックピットに表示する機能をQtで開発しています。IVI機能の開発フェーズは完了しており,ドライバ部のメーターやヘッドアップディスプレイの開発をしていると説明していました。
5.Using Qt to Build Next Generation Intuitive High End Cameras
Hasselblad社のRichard Röjfors氏は,自社製品である中判ミレーレスカメラHasselblad X1Dの液晶モニターのUIをQt/QMLで実装していることを説明していました。
6.Imaging Tissue Architecture: The Next Frontier in Battling Cancer
Quantitative Imaging Systems社の物理学者Michel Nederlof氏は,KDABと開発したQiTISSUEツールを用いた,人間ゲノムの配列の3D画像を分析し可視化する能力について説明をしていました。このツールは,がんを解明するツールです。
7.Game Engine Evolution: From Tech to UX
Amzon社,Game Engine Tools SpecialistのAlex Montgomery氏は,ゲームにも2D,3D,VRとあり,それらを処理するためのGame Engineの開発も複雑になっています。Rich GUIやC++ APIであること,クロスプラットフォームであることから,エディタやツールをQtに移行することにしましたと説明していました。
8.An IDE for Embedded Devices
Qualcomm社のJustin Howar氏は,組み込み機器の開発環境の統合を担当しており,Qt Creatorにおける問題と解決策を例を上げて説明をしていました。
9.Trends in Software and Business
マーケティング戦略家であるIgor Beuker氏は,Industry4.0,ビジネス動向,ソフトウエア,環境について述べた上で,未来ビジネスを予見しています。
10.Meta: Toward generative C++
C++の権威であり,ISO C++標準委員会のHerb Sutter氏は,現行のC++のさまざまな問題を提起し,それに対する解決策を説明していました。

著者プロフィール

鈴木哲也(すずきてつや)

株式会社SRAの開発エンジニア。2017年度からQt関連プロジェクト専任となり,Qtのコンサルティングやアプリケーション開発を担当している。