レポート

さまざまな工夫をこらした施策の展開で,システム設計・開発におけるモデリングツール,MBSEの価値最大化を目指す

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上流からの品質確保を目指して ―“ドキュメントファースト”を徹底

この日最後となったセッションの壇上に上がったのは,リコー オフィスサービス開発本部 開発戦略センター ソリューション統括室 要求開発推進グループの野口大輔氏である。現在,プロジェクターを中心に,PCやタブレットなど複数の機器やソリューションで構成されるプロジェクションシステムにかかわるビジネス領域の強化にも着手している。

「従来の複合機などの開発でも,オブジェクト指向やUMLにかかわる取り組みもある程度進められてきており,一定の効果を享受していましたが,たとえば開発者の行ったコード修正がドキュメントに対し適正に反映されない,などの問題を抱えていました。加えて,利用していたモデリングツールは,モデルとコードを一致させることを想定したツールではなかったため,設計と実装の間の親和性も高いものと言えませんでした」と野口氏は振り返る。

これに対しリコーでは,同社にとって新規プロジェクトとなるプロジェクションシステムの開発をスタートさせるに当たって,新たなモデリングツールの導入に向けた検討に着手。いくつかのツールの比較検討を行った。⁠新プロジェクトでは,既存ツールによる開発をめぐる課題を踏まえるかたちで,ソースコード生成やドキュメント生成が行えることを念頭に,価格や効果予測といた評価軸で総合的に検討を重ねた結果,最終的にEnterprise Architectを導入することに決めました」と野口氏は語る。

その後,同社ではプロジェクションシステムの中でも,とりわけ機能追加や変更が多く発生するプロジェクター内のネットワークボードに実装されるアプリ,サービスレイヤのソフトウェアモジュールの開発にEnterprise Architectを適用。その中で,大きく2つの特徴的な施策を実施している。

1つは,ツール選定時の要件にもあげていたドキュメント/ソースコードの自動生成。具体的には,Enterprise Architectの機能を使って,ツールのプロジェクトファイルからドキュメントとソースコードを生成することにした。⁠開発者はこれら生成後のドキュメントやソースコードを直接変更するのではなく,必ずEnterprise Architectのプロジェクトファイルをベースに開発を行うこととし,それによって⁠ドキュメントファースト⁠の徹底を図ったわけです」と野口氏は説明する。それに沿うかたちで同社では,開発プロセス/ガイドの全社標準からのテーラリングを実施するとともに,モデリングのルール策定なども行った。

またそれにあわせて,CI環境の構築も実施。開発者はEnterprise Architectのプロジェクトファイルのみをリポジトリに格納することとし,夜間のデイリー処理ではJenkinsを利用してEnterprise Architectによるドキュメント/ソースコードの生成を実施。その成果物を再びリポジトリに投入するという流れとなっている。万一,開発者がドキュメントやソースコードを直接修正するようなことがあっても,その日の夜にはプロジェクトファイルから生成された正しいドキュメント/ソースコードがリポジトリに格納されることになるわけだ。

そのほか,Enterprise Architectの以前のバージョンで開発した,過去のプロジェクターの機種に対する機能追加などの変更が生じた場合には,現行バージョンで自動生成を行うと生成されるコードに差異が生じてしまうケースがある。そうするとリグレッションテストなどの負荷が高まってしまう。⁠これについては,過去機種の設計変更を行うための作業用PCを用意して,そこで以前のバージョンのEnterprise Architectを使って開発を行えるような環境も整えています。Enterprise Architectはフローティングライセンス契約で購入しているので,こうしたことを実現するうえでのコスト面のハードルも下げることができました」と野口氏は言う。

こうした一連の施策によるドキュメント/ソースコードの自動生成により,モデルと仕様書とソースコードの一致を実現。ソフトウェアモジュール開発にかかわる上流からの品質確保が可能になるという成果が得られている。

一方,リコーがEnterprise Architectの適用に伴って実施したもう1つの施策は,ツールのユーザーインタフェース(UI)のカスタマイズである。そのねらいは,開発者がEnterprise Architectを使ってモデルを作り込む際の生産性の向上にあった。⁠EAは汎用性が高いツールなので,UIにたくさんの入力項目が存在しています。ところが実際に当社で開発者が使う項目はその一部なので,円滑に作業を進めるという観点から,Enterprise Architectのカスタマイズ機能を使って,状態遷移図作成用画面の表示/入力項目を必要なものだけに絞り,最適化を行いました」と,野口氏に代わって登壇したリコーの岩崎遼氏は説明する。

株式会社リコー 産業プロダクツ事業本部 事業統括センター 先行技術開発室 岩崎遼氏

株式会社リコー 産業プロダクツ事業本部 事業統括センター 先行技術開発室 岩崎遼氏

さらに,インタフェース仕様書の作成用UIについても,複数画面を切り替えながら入力する手間を省力化するため,必要な項目を単一画面上にまとめるというカスタマイズを行っている。⁠もっとも,これについては,入力内容と仕様書の対応関係がわかりづらいという声や,プロジェクトがかなり進んでからの対応だったために,既存のUIに慣れていた人の中からは使いづらいといった声もあがりました。このため,自ら使いたいという人や,既存UIに十分に慣れ親しんでいない人などに向けて限定的にリリースするという運用となっています」と岩崎氏は明かす。

これら一連の取り組みを推進しながら開発プロジェクトを推進するリコーでは,Enterprise Architectのオブジェクト指向開発ツールとしての機能性,および汎用性,カスタマイズ性も高く評価している。⁠ただし,そうしたメリットを享受するうえでは,導入前にUMLやオブジェクト指向など,ツールを使いこなすための十分な教育を開発者に対して行っておくことが重要であることは言うまでもありません」と最後に岩崎氏はアドバイスする。


これらの3つの講演の後には,講演者との質疑応答がパネル形式で行われた。パネル形式にすることで,単なる情報提供ではなく,参加者の持つ課題を講演者と共有するという試みである。参加者からのさまざまな質問に,本音も交えて回答する講演者に共感が多く寄せられ,大いに盛り上がった。寄せられた質問が非常に多く,時間の関係でいくつかの質問が取り上げられなかったのが残念であった。

以上のように,今回の「Enterprise Architect 事例紹介セミナー」では,単にEnterprise Architectの導入がソフトウェア設計・開発にもたらした成果にとどまらず,ツールやMBSEのもたらすメリットを最大化するための各社各様の工夫についての紹介が強く印象に残った。そうした意味では,特にEnterprise Architectの一歩進んだ活用を目指すユーザーにとっては,大いに有意義なイベントとなったはずだ。イベント参加者からの評価も高く,スパークスシステムズ ジャパンでは,今後も定期的な開催を検討しているとのことで,次回にも期待したい。

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