レポート

モバイル・クラウド時代の新たなオフィスソフトへ,LibreOffice Conference2019 Almería, Spainレポート

この記事を読むのに必要な時間:およそ 4.5 分

モバイルアプリ対応はLOOLベースの新たなステージに

「LibreOfficeをモバイルで利用したい」という声はずっと以前からあり,さまざまな試みがされてきました。しかし残念ながらいろいろな理由によりまだ製品として完成したリリースは存在しません。

PCに比べるとリソースが厳しいモバイルにおいて,有効なソリューションとされたのがLOOLでも用いているタイルレンダリングです。この機能はLOKitで提供されていて,現在ベータリリースされているAndroid版LibreOffice Viewerはこれを利用しています。しかしLOKitは進化が早いLOOLのニーズにあわせて頻繁にインターフェースが変更されるため,各モバイルプラットフォームで直接LOKitを用いると,LOOLに比べてビジネス的に開発リソースが投入できないモバイル版では追随が難しいという問題がありました。

そこで,発想を逆転させて,LOOLのサーバー側プロセスをモバイルのライブラリとしてポートして,WebViewでフロントを描画するアプリケーションを作るというアプローチが試行されています。

Tor Lillqvist氏の「Collabora Office as an iOS app on the iPad」はiOSについての,Jan Holešovský氏の「Reusing the Online as an Android app」はAndroidについての発表でした。両氏はともにLibreOfficeのサポートベンダーCollaboraのメンバーで,この取り組みはCollaboraがパートナーであるスイスのAdfinis SyGroupのスポンサーを受けて実施したものだそうです。

図4 LOOLの技術を用いたAndroidアプリのデモ(Jan Holešovský氏のスライドより)

画像

両プラットフォームとも基本的な戦略は一緒で,LibreOfficeそれ自体とLOOLサーバーをネイティブライブラリとして作成し,アプリに静的リンクを行います。通信はWebSocketではなく,プラットフォームが提供するプロセス間通信を用いて,それをLOOLのインターフェースでラップしているそうです。⁠擬似WebSocket(pseudo WebSocket⁠⁠」と呼んでいました。

図5 LOOLを内部的に用いたiOSアプリのビルドについて説明するTor Lillqvist氏(撮影 おがさわらなるひこ)

画像

まだ両者とも「やってみた」レベルのものに過ぎませんが,この方向性で進めそうという感触は得られている模様です。実際に使用できるまでには少し時間がかかりそうですが,先が楽しみです。

ODF,開発TIPS,CJK問題など多岐に渡るトピック

LibreOfficeの標準ファイルフォーマットであるOpenDocument Format(ODF)は,標準化団体OASISのOpenDocument技術委員会で仕様が管理されている「真の」国際標準です。透明な仕様策定プロセス,見通しの良い仕様,充実した操作ライブラリなど数多くの利点が存在します。ODFに関する発表もいくつかありました。

台湾のJeff Huang氏による「Generating ODF reports on server side」は,台湾において,サーバーサイドのレポート生成を担うAPIサーバーについての発表でした。ODFはこのような用途に向いており,いったんODFに出力してから別のファイルフォーマット(PDFなど)に変換するといった場合にも利用できます。

図6 ODFAPIサーバーを用いたレポート生成のフロー図(Jeff Huang氏の発表スライドより)

画像

Svante Schubert氏による「New ODF Toolkit from TDF」は,ODFの操作ライブラリであるODF Toolkitについてのものですが,それだけでなく「フロッピーでドキュメントを交換していた時代の延長線上のやりかたは終わりにしよう」⁠共同作業のためにはドキュメントを交換するのではなくコミットを交換すべき」というような指針と,それを実現するためのプロトタイプ実装についての興味深い発表でした。

図7 発表中のSvante Schubert氏カンファレンス公式写真集より)

画像

その他ODFについては,ODFの普及促進のためのODF Advocacy Open Projectについてのものや,現在策定中のODF 1.3についての発表などもありました。

開発TIPSについて共有があるのもLibOConの特徴。C++の-fsanitizeについて解説したStephan Bergmann氏の「Janitor of Sanity⁠⁠,コードは書いた時の何倍も読まれるのだから,もっと読みやすいコードを書こう!と呼びかけるLuboš Luňák氏の「On Making Code More Readable⁠⁠,LibreOfficeのPythonによるマクロ開発についてまとめたAlain Romedenne氏の「Scripting LibreOffice Python macros aka «Macros Well Kept Secrets»⁠⁠,パフォーマンスチューニングとその実例を共有したNoel Grandin氏の「We⁠re going on an O(n^2) hunt⁠⁠,Ashod Nakashian氏によるGDBのTIPSを紹介したライトニングトークなどが印象に残りました。

図8 -fsanitizeについて説明するStephan Bergmann氏(撮影 おがさわらなるひこ)

画像

LibreOfficeはプロジェクト発足時に「次の10年のマニフェスト(TDFマニフェスト;Next Decade Manifesto)として,母語でオフィスソフトを使う権利の保証を掲げています。これは単にユーザーインタフェースの翻訳だけでなく,各言語を正しく扱えること,各言語向きの機能が正しく動作することも含んでいます。筆者の一人,榎は,日本語を含むCJK(Chinese, Japanese, Korean)言語についての不具合まとめを2016年のLibOConから発表しており,本年もアップデートを行いました。

台湾からのKuan-Ting Lin氏とXiao-Wu Wang氏の2人は,⁠Making LibreOffice a lifesaver for dying languages in Asia」として,いわゆる台湾諸語の一つ,数千人しか話者がいない言語のLibreOfficeへのスペルチェックの実装を行い,UI翻訳を進めていることについて発表していました。このような機会があることはLibreOfficeの強みの一つです。

ハンガリー政府のLibreOffice移行をサポートする組織であるNISZでは,内部でLibreOfficeの開発者を育成することで,既存のOOXMLフォーマットのLibreOfficeへの移行を推進しています。Gábor Kelemen氏による発表「Newest NISZ developments, behind the scenes」はこの点についてさまざまな知見を共有するものでした。自組織の困りごとを改善するために開発者を育成するというアプローチはすばらしいです。

著者プロフィール

おがさわらなるひこ

LibreOffice日本語チーム所属,The Document Foundationメンバー。主な担当はUI翻訳や東京圏でのイベント企画など。本業は(株)SHIFT SECURITYにてソフトウェア脆弱性診断の仕組み化などを担当。自由なデスクトップとしてUbuntuを愛用。

Twitter@naru0ga


榎真治(えのきしんじ)

LibreOffice日本語チーム所属。The Document Foundationメンバー。主な担当はイベントの企画運営などを通じてコミュニティの成長を図ること。ビジネスではLibreOfficeのサポートを提供しており,The Document Foundation認定移行専門家でもある。

Twitter:@eno_eno

バックナンバー

2019年

バックナンバー一覧