瀬山士郎先生の 数学よもやま話

第2回数学を目で見る

数学は抽象的な学問である。多くの定理の面白さは記号の中に凝縮されて入っていて、それを楽しみ理解するためには、一定程度の想像力を必要とする。いや、もしかしたら最大限の想像力を必要とする。しかし、いくつかの有名な定理の中には、記号ではなく具体物でその成立を実感できるものがある。それらは現実に、初等数学教育の中で教具という形で実現されているものも多い。たとえば、ピタゴラス水槽という仕掛けがある。ピタゴラスの定理(三平方の定理)の各辺上の正方形が、水槽になっていて、下側にある直角を挟む2辺上の2つの正方形の中に着色された水が入っている。それを上下入れ替えると、その水は隙間を流れて、斜辺上の大きな正方形の中にきれいに納まる。もちろん、これは証明ではない。しかしピタゴラスの定理が成り立つことが見事に実感できる。

ピタゴラス水槽
ピタゴラス水槽

解析学の「ホットケーキ定理」は、2次元平面上の2つの有界領域の面積を同時に2等分する一直線が存在するという定理で、中間値の定理の応用として有名である。この定理はn次元に一般化でき、証明には現代幾何学であるトポロジーが活躍するが、2次元の場合はもっと初等的な証明がある。この定理をある講座で紹介したとき、実際に目で見てこの直線の存在を確かめられる教具を作った。もちろん手作りでたいしたものではなかったが、その後、同じアイデアの教具をプロの教具作りの達人に注文した。ほどなくして、立派な教具が届いた。実際に目で見て、2つの有界領域(2つのホットケーキ)を同時に2等分する一直線(同時に2等分する切り分け方)の存在を確かめることができる。この教具を使って、ある高校で「ホットケーキ定理」の講義をしたことがある。高校生たちは見事にこの定理の核心部分を理解してくれたのだ。実感は素晴らしい。

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