瀬山士郎先生の 数学よもやま話

第2回 数学を目で見る

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数学は抽象的な学問である。多くの定理の面白さは記号の中に凝縮されて入っていて,それを楽しみ理解するためには,一定程度の想像力を必要とする。いや,もしかしたら最大限の想像力を必要とする。しかし,いくつかの有名な定理の中には,記号ではなく具体物でその成立を実感できるものがある。それらは現実に,初等数学教育の中で教具という形で実現されているものも多い。たとえば,ピタゴラス水槽という仕掛けがある。ピタゴラスの定理(三平方の定理)の各辺上の正方形が,水槽になっていて,下側にある直角を挟む2辺上の2つの正方形の中に着色された水が入っている。それを上下入れ替えると,その水は隙間を流れて,斜辺上の大きな正方形の中にきれいに納まる。もちろん,これは証明ではない。しかしピタゴラスの定理が成り立つことが見事に実感できる。

ピタゴラス水槽

ピタゴラス水槽

解析学の「ホットケーキ定理」は,2次元平面上の2つの有界領域の面積を同時に2等分する一直線が存在するという定理で,中間値の定理の応用として有名である。この定理はn次元に一般化でき,証明には現代幾何学であるトポロジーが活躍するが,2次元の場合はもっと初等的な証明がある。この定理をある講座で紹介したとき,実際に目で見てこの直線の存在を確かめられる教具を作った。もちろん手作りでたいしたものではなかったが,その後,同じアイデアの教具をプロの教具作りの達人に注文した。ほどなくして,立派な教具が届いた。実際に目で見て,2つの有界領域(2つのホットケーキ)を同時に2等分する一直線(同時に2等分する切り分け方)の存在を確かめることができる。この教具を使って,ある高校で「ホットケーキ定理」の講義をしたことがある。高校生たちは見事にこの定理の核心部分を理解してくれたのだ。実感は素晴らしい。

著者プロフィール

瀬山士郎(せやましろう)

1946年群馬県生まれ。1970年東京教育大学大学院理学研究科終了。専門は位相幾何学,グラフ理論。

1970年群馬大学教員となり,2011年定年退職。群馬大学名誉教授。数学教育協議会会員。

主な著書に「バナッハ・タルスキの密室」(日本評論社,2013年)「読む数学」(角川ソフィア文庫,2014年)「はじめての現代数学」(ハヤカワ文庫,2009年)「幾何物語」(ちくま学芸文庫,2007年)「無限と連続の数学」(東京図書,2005年)「トポロジー:柔らかい幾何学」(日本評論社,2003年)「計算のひみつー考え方の練習帳」(さ・え・ら書房,2004年)「数学 想像力の科学」(岩波書店,2014年)などがある。

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