書籍『ピタゴラスの定理でわかる相対性理論』の補講

第13回 ピタゴラスの定理に宿される秘儀―エネルギーと運動量に関係する法則

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この方程式の解はいろいろあるのですが,もっとも簡単なのは先にあげたような

として,このときにはΨI

であって角周波数ω と波数k の関係が

になります。

シュレディンガーはΨ は,その絶対値の 乗和は電子がある特定の位置に存在する確率としました。絶対値の2乗とはΨR あるいはΨI のそれぞれの2乗の和です。

すると

となって,波動の形sin(kxωt )は消えうせてしまいます。

もっと現実的なのが,図4に説明しているよう波束の場合です。2乗和をとると電子が局所に存在することになります。つまり電子というものを2つの量の相互作用体と見たときには,それぞれの要素は波動の性質を具備しながら,存在確率は粒子の性質になります。

図4 ⁠上)電子波の波束のΨR (緑)ΨI (茶)⁠⁠中)それぞれの2乗,⁠下)存在確率(2乗和)

図4 (上)電子波の波束の<span styl

中央の各部分の上下運動wと回転運動が90°の位相差をもつ。

このように電子の存在確率の要素であるΨR ΨI は波動の様相を示すが,存在確率そのものには下段のように波の様子がなくなって粒子のようになる事例である。

ところが,特別の仕掛けをすると存在確率も波動になります。それは1個の電子が同時に2つの穴を通って自己自身と干渉して縞模様を見せてくれるという有名な実験です。そのコンセプトを示すのが図5です。ここでは詳しい説明をしていませんが,1個のある特定の電子が今どこに存在するかの問題がしばしば議論されます。

図5 電子は同時に同じ穴を抜けて,スクリーンに干渉縞を描く

図5 電子は同時に同じ穴を抜けて,スクリーンに干渉縞を描く

中央の各部分の上下運動wと回転運動が90°の位相差をもつ。

発射される電子:空間的な広がりをもって進行し,同時に二つの穴を通るときに回折してスクリーンに自己干渉して縞模様が現れる。

ニュートン力学では,質点といって大きさの無い点で規定して数学的にはx,y,z )の座標で示します。ところが波動力学(量子力学)では,粒子の存在する位置は特定の質点でなく広がりをもつとされます。その広がりの領域は状況によって違います。電子1個が何かによって放出されて加速されたとしても,厳密な線のような経路を通るとは限りません。むしろ広がりをもつと考えます。すると1個の電子が同時に異なる穴を通ることが否定できません。そして回折によって図に描くような自己干渉が起きます。

図6は,本質的なところをアニメーション化したソフトウェアです。左の穴を通った回折波と右の穴を通った回折波のそれぞれは粒子のような存在確率を示すのですが,重なって干渉すると存在確率に濃淡が現れます。つまり縞模様がスクリーンに現れることを意味します。

図6 自己干渉して存在確率が縞模様を描く様子を示すアニメーション。左の穴を抜けて回折した波動と右の穴を抜けて回折した波動が重なるときに存在確率が縞模様になる。つまり波動特有の干渉縞だと解釈される。

図6 自己干渉して存在確率が縞模様を描く様子を示すアニメーション。左の穴を抜けて回折した波動と右の穴を抜けて回折した波動が重なるときに存在確率が縞模様になる。つまり波動特有の干渉縞だと解釈される。

操作手順
  1. RUNをクリックするとこの画面が現れる。
  2. STARTのをはずすと波束が左右から中央に向かって進行する。位相速度は波束の進行速度の1/2である。
  3. 2つの波束が重なると存在確率が波状(濃度で見ると縞模様)になる。⁠START]をキックすると停止する。
  4. 波数(Wave Num)は適当に変えてよい。
  5. 再度実行するときには[CLEAR]ボタンをクリックします。
  6. プログラムを終了するときには必ず[CLOSE]ボタンをクリックしてください。この操作をしないでPCを閉じると,この計算ブログラムがPC内部に残り続けます。
自己干渉して存在確率が縞模様を描く様子を示すアニメーションソフト

光電効果とはこういうことか? そしてあとがき

以上を総括したのが図7です。光電効果の様子です。原子核に束縛されている電子が光子からエネルギーをもらうのですが,光子は弦に伝播する波動のような振る舞いをしています。これからエネルギーをもらって電子が外に飛び出すときの波動としての性質は梁やレールに伝播する波動のような振る舞いをします。このあたりのメカニズムはわかりません。モデルを工学的に作ってみるのは面白そうですが,どんな仕掛けが考えられそうでしょうか? アインシュタインは1905年の論文で,頻繁にResonator(共鳴子)という単語を使っています。共鳴とは特定の周波数で楽器の弦が震えるようなものです。

図7 光電効果とはこういうことか?

図7 光電効果とはこういうことか?

アインシュタインがこの問題を考えていた当時は,電子は小さなこの図に描いたような粒子と考えられていたのですが,その後になって空間的な広がりをもつと考えられるようになり雲(cloud)のようなモデルで論じられることもあります。ところが,この電子が光子を捉えてエネルギーを奪うのですから,蜘蛛(spider)の巣のようなモデルを想像することだったできそうです。

この仕掛けが,⁠4)式のピタゴラスの定理の形に宿されているのかもしれません。ここでは光子のように質量が0の波動と,電子のように質量があってそれほど速くない速度で移動する物体の波動を手品のようにして描きだしてみました。数学的な近似を使っています。そのためもあるのか,⁠20),(22),(23)の各式はローレンツ共変になっていないのです。つまり,アインシュタインの相対性理論の条件を満たさないのです。寺院のタイルに宿される秘儀は汲みつくすことができません。

その問題に深く切り込んだのが,イギリス生まれのディラックでした。⁠彼は,先の(7)式に現れる負のエネルギーについても考察してします。)これが湯川秀樹による素粒子理論へと発展したのです。次回はこのあたりを見てみようと思います。