理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第9回 業界の異分子?! 科学教育系テレビ番組のディレクター NHKエデュケーショナル教育部シニアプロデューサー 森美樹さん

この記事を読むのに必要な時間:およそ 5 分

テレビ局では稀少な理系女性

テレビ業界というと,いかにも文系!なイメージがありますが,ここまでの森さんの人生は理系の王道。一体どういったきっかけでこの道に進んだのでしょうか。

――修士を修了されてからNHKに入社されたんですね。

森「ドクターに進学するには親のすねをかじりすぎているかなと感じていたことと,ちょうど担当教員が退官になるという理由で,就職活動をしていました。就職活動は研究職。ちょうどバブルの時代だったから,バイオ系でたくさん募集はあったんだけど,受けるとこ全部落ちてしまったんですね。

どうしようかなーと思っていたときに,たまたま後輩が⁠僕こんどNHKのセミナー受けるんですけど行きましょうか?⁠と誘ってくれて。母親が常々⁠NHKみたいなところに就職したらいいわよ~⁠と言っていたので,参加してみようと。それに,自分の嗜好性として色んな世界を知りたかったし,色んな人に会いたかったから,テレビ業界も面白そうかなと思って。」

――後輩のお誘いにお母様の普段からのアドバイス,ご縁を感じますねえ。でも,研究者志望で最初就職活動していて,テレビ界となると,全然違うかと。

森「そういうところが私は全然気にならない,性格的に。ポーンと行っちゃうんですよね。」

――面白そうだから?

森「でもそれは30%ぐらいで,あとの70%は早く決めないと,みたいな(笑⁠⁠。メディア系の社員募集は時期が遅いし。本当は夏休み使って研究のまとめをしなきゃいけなかったけど,ほとんどをNHKの試験対策にあててました。で,ようやくなんとか滑り込みました。ボス(担当教員)がすごくいい方で「NHKのほうが研究者より面白そうだよな」って言ってくれたのがありがたかったですね。」

――心の広い,懐の大きいボスで!

ある意味,勢いでテレビ業界に入った森さん。研究室生活とのあまりの違いに最初は相当苦労されたようで……

――ところで,理系女性でディレクターをやっている方というのはどのくらいいらっしゃいますか?

森「……どのくらいいるかなあ。すごく少ないですね。まずNHKの中でも女性職員は1割強しかいない。」

――えっ!そんなに少ないんですか。意外。

森「私もびっくりしましたね,管理職研修に行って。その1割の中の…いわゆる文系学科のほうが多いですよね。NHKに名古屋大学の大学院の理学部から入ったのは私が初めてだったんですよ。

院卒も少ないですね。もう,理系で女性で院卒っていうと三重苦だと思います,会社にとっては。最悪じゃないかなぁ,理屈が立つし。私の初任地の先輩や上司は嫌だったんじゃないかな。」

――いえいえいえ。でも,理系・女性・院卒がそんなに少数派とは思いませんでした。森さんにとって,異分子としてそのような環境にいくとなると,相当の刺激,いえ,大変さがあったかと思うのですが。

森「すごい苦労しました。全然できなかったですもん。まず考え方が全然違う。言葉が通じない。日本語なんだけど…何ていえばいいのかなあ…理屈が理屈じゃないというか。感覚や先入観…偏見はないけど,そういうのでモノを言う人が多かった。」

――「言葉が通じない」とは?

森「例えば,これは今思えば仕方ない気もするけど「あなたは理系出身だから科学の番組を作って」って言うんですよ。私にとってはそれは理屈が通っていない。理系出身ということと,科学の番組を作るということの間にはたくさんの要素があるじゃないですか…私が作りたいと思う,とか,ネタがある,とか。でも,⁠理系出身であること」がそれらを飛び越してガンと結びついちゃう。でも,そういうもんだと思うんですよね。」

――いえ,確かに,森さんの仰ることはわかりますけど。普通は結びつけちゃうでしょうね。

森「それに,こちらは科学をずっとやっていたから,形容詞がつけられないんですよ。科学というのは形容詞がつかないでしょう。」

――といいますと?

森「論文を書くとき⁠きれいな野菜⁠とは書かないですよね。何をもってきれいとするのか? というような定義からはじまりますよね。

でもテレビって定義なしの「形容詞」がないとできないんです。だから,私の企画案とか構成とかが理屈っぽいってずーっと言われてましたね。でも私から言わせると,文系の人達の感覚が粗すぎると感じてしまって。」

――では,コミュニケーションの場面では相当なご苦労が。

森「会議の仕方もわからなかったですね。番組の企画会議ってまず「これが面白いかどうか」から始まるんだけど,まずそこが漠然としている。何をもって面白いとこの人たちは言っているんだろう? とわかんなくて。⁠皆さんは何を面白いと思って聞いているんですか」という聞き方をして,先輩に相当叱られましたね。」

――でも,森さん的にはその面白いが…

森「わかんないんですよねえ。

でも十何年やってると段々わかってくるんですよねー。なんというんでしょう……現場感覚とかでき上がったものを客観的にみてぐっとくるものが。感情ってやっぱり理屈では計り知れないものがあるんで。」

――メディアのクリエイティブと,理系のそれは違いがあって,難しいんでしょうね。

森「そうですね。でも,私が番組制作や取材を通してわかったのは,能力のある人って非常にロジカルなんですよね。結局,番組って物語だから。物語は三段論法がきちんと成り立っていないとできないじゃないですか。そういう論法ができるヒトじゃないと物語はできないし,いい番組にならないと思うんです。」

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/