理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第9回 業界の異分子?! 科学教育系テレビ番組のディレクター NHKエデュケーショナル教育部シニアプロデューサー 森美樹さん

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科学番組は理系じゃないほうが……

――NHK教育テレビは,チャレンジングな番組が多いですよね。

森「他のプロダクションさんにも言われますね。⁠ピタゴラスイッチ』にしろ,⁠日本語であそぼ』にしろ。私が今やっている仕事は,そういった昔ながらの教育番組っぽくない,観ていてもっとエンターテイメント性のあるようなものを作っていこうと。そうでないと結局,理科好きな子は勝手に好きになっていくでしょうけど,嫌いな子はやっぱり引っかからないで終わってしまう気がして。だから,⁠理科!理科!⁠しない⁠科学!科学!⁠しない番組を心がけています。」

――まさに,⁠最初からその科目が好き」ではない潜在層にも届く番組だと思います。逆に,典型的な理科の番組というのはどのようなものでしょうか?

森「今までのNHKの典型的な理科の番組の作り方というのは,ちゃんと指導要領にのっとって作っています。でもそうすると,番組のストーリー性がぶれてしまうことがある。何でその話を入れてるのかわからないけど,いきなり入ってる,みたいな。」

――指導要領に沿うようにすると,話の筋がぶれてしまうのですか?

森「それは常に議論になりますよね。言っちゃえば指導要領が悪いということになるけど,違うのではないかなと。指導要領って,長年培われてきた⁠これは勉強しましょう⁠というエッセンスも詰まっている。指導要領にのる理由は必ずあるはずなので,勉強する理由を物語として紡いでいくっていうのは,演出側の仕事だとも思う。」

――科学の教育番組って,理系出身の方が得意,ってことはありますか?

森「科学番組って,科学をやっていた人間のほうが作りやすいことでもあるかもしれないし,反面,科学をやっていない人のほうが「なんでこれを勉強しなきゃいけないの」というのに引っかかって,そこにディレクターとして理屈を一生懸命つけてくれると思う。だからどちらかはわからないですね。そういうのは常日頃考えておかないといけない。」

巨大科学実験番組『大科学実験』

2010年3月からは「誰もが思わず見入ってしまう大実験をスタイリッシュな映像で描く」をコンセプトに,巨大科学実験番組『大科学実験』のチーフ・プロデューサーとしてご活躍されています。

――いま森さんが手がけている『大科学実験⁠⁠,あれ,最高ですよね。大人としては子どもの頃「学研の科学」などを通じて妄想したことを,実際にやってみせてくれる。快感です。子どもにとっても当然楽しい。老若男女楽しめます。

森「ありがとうございます。10~12歳をターゲットに制作しているのですが,2歳のお子様から86歳の女性まで幅広い方から応援のメッセージをいただきます。みなさん,⁠大の大人がばかばかしいことを大真面目にやっているのが面白い」と言っていただいて,twitterでは放送直後に「大科学実験がまた馬鹿なことをやっている」とお褒めの言葉をいただきます。」

――それは最大級の褒め言葉ですよね。

森「制作チームは,コマーシャルのディレクターさんなのですが,みなさん理系ではありませんし,変な言い方ですが高学歴でもありません。でも,科学をとても面白がってくれるんです。」

――なるほど……だからこそ,あの加工をしていないような「生」の面白さが生まれるのかもしれませんね。

森「私の友人にもいるのですが,表現する人は科学,とくに純粋科学の事象や研究を素直に面白がってくれる人が多いです。変に構えずに「へぇ~,そうなってるんですか~」とか「どうしてこんなことが起きるんですか?」って,子供みたいに驚きます。下手に知ったつもりになっていない,そして,面白いと思ったことを表現したいと思ってくれるようです。」

――毎度「こうきたか!」と驚かされてしまいますが,ネタの発想が大変じゃないでしょうか?

森「知ったつもりにならずに不思議に思ったことを,ただ,⁠これを見たい!あれを見たい!⁠って,わがままに考えることが大切かな,と思います。海外でも好評をいただいていますが,やはりその発想が面白いと評価していただいています。」

――「自分のわがままに答える」って発想,なるほどですね。理系として勉強してきて,大人になると「これ,ほんとうは見てみたいけど……」という感覚をセーブしてしまう気がします。

森「今は,知識・情報は簡単に手に入るから,⁠DNAって何?」って聞かれたら「それはデオキシリボ核酸と言って~⁠云々⁠⁠」と披露することはだれでもできると思うんです。

でも,本当にわかっているかというとそうではない。こういう時代だからこそ,情報を知っただけで簡単に納得しないようにして,自分で結果を見つけようとする姿勢が大切なんじゃないかと思います。

私たちは制作チームのことを愛情込めて「チームばか」と自称しています。私は,中でも一番のばかで,だからチームばかのチーム長なんです。番組を何本かやって,ディレクターに知恵がついてきてしまっているので,さらに私が一番のばかになっています。」

――「チームばか⁠⁠,かっこいいですね! しかもそのチーム長,森さんは颯爽とつとめてらっしゃいそう。

森「もちろん私の学歴は世間でいう「高学歴」だから,これを話すと「またまた~」って言われますけど,ディレクターに聞いてもらったらわかると思います。私が一番ものわかりが悪いです。

でも,ばかだからこそ疑問に思うことを簡単に納得せず,あきらめずに,⁠本当にあいつらはばかだ⁠と言われても,知りたいことを朴訥に追求する。そうした姿勢そのものの大切さを子供たちにわかってもらえたらうれしいです。」

――考えてみれば,研究者も簡単に納得しないでいつまでも追究している人が輝いている。やはり森さんは研究者マインドの持ち主なんですね。

実験「音の速さを見てみよう」より。定説になっている「音の伝わる速さは秒速⁠約⁠340m」⁠約⁠を知るには……。1.7kmの一直線に86人が並んで、音が聞こえたら旗を上げるという実験

実験「音の速さを見てみよう」より。定説になっている「音の伝わる速さは秒速“約”340m」の“約”を知るには……。1.7kmの一直線に86人が並んで、音が聞こえたら旗を上げるという実験 実験「音の速さを見てみよう」より。定説になっている「音の伝わる速さは秒速“約”340m」の“約”を知るには……。1.7kmの一直線に86人が並んで、音が聞こえたら旗を上げるという実験

copyright:NHK/NED/JCC

実験「空飛ぶクジラ」より。空気は暖められると軽くなる。全長50mの黒いビニールで作ったクジラ型バルーンは、太陽の熱で人を乗せられるほど浮くことができるのか?乗り手(吊るされ役)は森さんが担当したそう!

実験「空飛ぶクジラ」より。空気は暖められると軽くなる。全長50mの黒いビニールで作ったクジラ型バルーンは、太陽の熱で人を乗せられるほど浮くことができるのか?乗り手(吊るされ役)は森さんが担当したそう!

copyright:NHK/NED/JCC

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/