達人が語る,インフラエンジニアの心得

第8回 インフラエンジニアの「修羅場」事件簿

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

[Case3]サーバ持ち出しシャットアウト!ネットワーク経由でデータ救出

最後の3つ目は,これは当時いた会社(C社)でのことです。あるプロバイダ(D社にしましょう)が倒産して民事再生をすることになり,C社でそれを引き受けることになりました(この件は社名の推測ができそうです……)⁠

ところがD社は倒産しているので,いろいろな会社に債務がある状況です。まあそれを整理しましょう,というのが民事再生という手続なのですが,そうはいっても納得しない会社はたくさんありました。D社のサーバを置いているデータセンターの会社(E社にしましょうか)もその1つでした。

債権があるから持ち出し厳禁!

私は民事再生とかにはそれほど詳しくないので,裁判所の手続きでC社が引き受けることになったのだから,淡々とD社のネットワークを移設しよう,と思っていました。なのでE社のデータセンターに出向いて,機器の搬出作業を行いました。ところが,1/3ほどの機器を搬出した時点でE社の偉い人が出てきて「うちはD社に債権があるんだから持って行っては駄目だ」と,ドアを閉めてしまいました。

正直なところ,そのときは「あれ,民事再生の手続が決まっているのにそんなことあるのか?」と思ったのですが,詳しい人に聞いてみたところ,⁠商事留置権」という権利があって,債権者が債務者の物を物理的に持っている場合にはそれを渡さなくていい,という法律があるそうなのです。それまでに持ち出した1/3の機器は,持ち出してしまっているので別にいいそうなのですが,残った機器は当然渡してくれません。

残った2/3の機器の中には,ユーザのマスターデータベースなどもありました。機器は別に他のサーバで代替することもできますが,データはさすがにどうもなりません。ただ,ネットワーク経由のアクセスは許可されていました。しょうがないので,データベースをdumpして,インターネット経由でコピーすることにしました。たださすがにでかいデータだったので,コピーしおわるまでに1週間くらいかかりました。

データを移されては価値はなし?

無事に全部コピーしおわったので,C社のデータセンターに環境を構築してそのデータをリストアしたところ,無事に認証等行えるようになったことがわかったので,E社に「もうデータは移したし,残った機器はいらなくなったので好きにしてください」と伝えたところ,そうすると今度は留置している機器が債権と相殺されてしまうとまずいのか「いや,やっぱり機器は渡しますからどうぞ持って行ってください」と言われました。

「だったら最初から渡してくれればいいのに…」とも思いましたが,データをコピーして環境を構築して,機器が本当にいらないという状況になったからそういう展開になったのは言うまでもありません。というかE社も,まさかデータを全部まるまるコピーして,別の機器で再構成するとは思わなかったそうです。でもそれしか手段がないのだから,普通に考えればそうするような気もするのですが。

こうして無事に,E社の環境を再構築することができました。


今回はちょっと息抜きで,技術的なトラブルではなく,金銭とか法律とエンジニアというちょっと変わったテーマの内容でした。もちろん,そういった場面には遭遇しないほうがいいことは,言うまでもありません。

著者プロフィール

山崎徳之(やまざきのりゆき)

青山学院大学卒業後,アスキー,So-netなどでネットワーク,サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータセンターである「データホテル」を構築,運営。2003年にベイエリアにおいてVoIPベンチャーであるRedSIP Inc.を創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現 ZETA株式会社)を設立,代表取締役就任(現任)。ECソリューションの「ZETA CX」シリーズとして検索エンジンやレコメンドエンジンを開発,販売している。

blog:http://blog.zaki.jp/
社長コラム:https://zetacx.com/column