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第15回IIJ 月額945円、SIMのみの契約可能なLTE接続サービスを発表

IIJの中の人から「マニアックだけど面白いサービス開始するから話を聞きに来ませんか?」とのお誘いを頂いたので、お話を伺いに行きました。

今回発表されたのは、LTE接続サービスを使用した「IIJmio高速モバイル/Dサービス」です。docomoのモバイル網を利用したMVNO(Mobile Virtual Network Operator/仮想移動体通信事業者)サービスです。

MVNOには、いくつかの方式がありますが、IIJmio高速モバイル/DサービスはL2接続モデルによるMVNOです。 MNO(Mobile Network Operator/移動体通信事業者)であるdocomoがモバイル網アクセスを提供し、MVNOであるIIJが顧客との契約やインターネット接続性確保を提供します。L2接続モデルでは、MVNOがMNOと「ネットワーク接続」を行い、その接続分だけの費用をMNOに支払うというものです。

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IIJmio高速モバイル/Dサービスはdocomo網を利用しますが、LTEで接続できるエリアではLTEで接続し、LTEで接続できないエリアでは3Gで自動的に接続します。 LTEと3G間でのハンドオーバーも可能です。

IIJmio高速モバイル/Dサービスには、月額945円のミニマムスタート128プランとファミリーシェア1GBプランの2種類があります。以下、それぞれの特徴です。

ミニマムスタート128プラン

  • 初期費用3150円
  • 月額945円
  • 128kbpsで常時接続可能
  • 通信機器とSIMが別(SIMもしくはmicroSIMを選択可能)
  • 525円/100MBの追加クーポン購入でLTE本来の通信速度を利用可能に(LTEエリア以外では3Gの通信速度)
  • クーポン無効の128kbps状態で、3日あたりの通信量が366MB(300万パケット)を越えた場合、速度規制が行われる場合あり

ファミリーシェア1GBプラン

  • 初期費用3150円
  • 月額2940円
  • 最大3枚までのSIMカード(SIMもしくはmicroSIMを選択可能)
  • 1GB分のクーポン付き
  • クーポンが切れると128kbpsのミニマムスタート128プランと同等の条件に(プリペイド式ではないので、1GB分を使い切っても128kbpsでの通信が可能)
  • 追加クーポンは525円/100MB

データ通信定額制でありつつも、従量課金の要素も入っているという点がおもしろいと思いました。動画やダウンロードをするのでなければ、月額945円で128kbpsのミニマムスタートプランで十分です。

一方で、動画を見たり、Ustreamで中継をしたくなったときにはクーポンを購入するなどして追加料金を支払わないと十分な品質の通信ができないという仕様です。たとえば、1GB分のクーポンがあれば1Mbps相当の映像圧縮品質でのUstream中継が2時間ぐらいできます(Ustream Producer Proでの映像の最高品質が1Mbps強。ただしVBRなので被写体に依存します⁠⁠。

基本的にSIMのみの契約で、必要に応じて機器も購入可能というサービス設計もマニアックで好きです。ファミリーシェア1GBプランだとSIMが3枚まで提供されるというのも面白いです。担当の方、曰く「1契約でSIM3枚提供は国内初です」とのことでした。

なお、両方のプランともにSIMはユーザに貸与されるものなので、解約時に返却する必要があります。

ユーザに対して割り当てられるIPアドレスは、IPv4プライベートアドレスです。IPv6も予定はされているようです。

LTEモバイルルータ NI-760S

IIJmioでは、ネットインデックス社製の「LTEモバイルルータ NI-760S」も販売するそうです。高速モバイル/Dサービスの申し込みと同時に購入すること可能とのことでした。

NI-760Sと2種類のSIMを並べて撮影してみました
NI-760Sと2種類のSIMを並べて撮影してみました

商品設計とその背景

新サービスの紹介だけだと記事としてつまらないと思うので、MVNOの仕組みを紹介しつつ、IIJmio高速モバイル/Dサービスの設計思想を推測してみたいと思います。

まず最初に理解しなければならないのが、⁠なぜ、IIJ高速モバイル/Dサービスはマニアックなのか?」です。もう少し考え方を広げると「なぜ、MVNOによる通信サービスはマニアックなのか?」という考え方もできます。

IIJmio高速モバイル/Dサービスと同じくMVNOによるモバイル接続事業としてNECビッグローブのサービスが2012年2月1日に発表した「BIGLOBE 3G」が挙げられます。⁠BIGLOBE 3G」は、午前2時から午後8時に限定した3G網MVNOサービスを1770円で提供すると発表されています。

NECビッグローブのサービスとIIJのサービスは制限の手法が全く異なりますが、両方とも何らかの「制約」がある通信サービスを低価格で提供するという部分は共通しています。

なぜ制約があるサービスをMVNOで提供するかというと、単なる価格勝負を行ってしまうと十分な通信品質を確保できないサービスになってしまったり、既に大きな顧客ベースを持つMNOであるdocomoとの直接的な競争になってしまう可能性があるからではないかと推測しています。小売店が生産者と価格勝負をして勝てるかというと、よっぽどのことが無い限りは勝てなさそうです。

で、どうするかというと、非常にマニアックな顧客層を狙って価格勝負をしたり、法人顧客などが必要とするような付加機能を実現することでMNOが手を出しにくい部分を狙ったりするというのが多そうです。

なお、⁠128kbpsで945円って、マニアックなところを狙ってますね」と言ったら担当の方が「新規市場の開拓も狙ってゆきたいんです」という意気込みが返って来ました。

MVNOの仕組みと「お金がかかるところ」

次は、どうして価格勝負が可能かをMVNOの仕組みをもとに説明したいと思います。

今回のIIJmio 高速モバイル/Dサービスは、docomoとのL2接続モデルでのMVNOです。L2接続モデルとは、MVNOであるIIJが交換機をオペレーションし、MNOであるdocomoのネットワークに直接接続するモデルです。IIJは、接続しているネットワークの帯域に応じてdocomoに網使用料を支払います。

docomoとの接続のための伝送費用や、電気代を含むその他経費はかかりますが、一番大きな要素がMNOへの網使用料なので、ここではそこを中心に考えます。

では、その網使用料がどれぐらいの価格帯なのかというと、10Mbpsあたり7,458,418円/月です。ザックリと考えると10Mbpsあたり約746万円/月ぐらいです(インターネットプロバイダによるトランジット料金と比べると桁が3つ近く違いますw⁠⁠。

なお、IIJmio高速モバイル/Dサービス実現のためのdocomoとIIJ接続は1ヵ所のようです。もちろん冗長化されています。有線系ISPが複数のpeerやtransitを併用して複数箇所で接続しているのと比べると、L2接続モデルでのMVNOはPOI(Point of Interface)が1ヵ所なのでイメージしやすいです。

網接続料情報は、docomoのWebサイトで公開されている公開情報です。

音声接続料とパケット接続料は別料金なのですが、IIJmio高速モバイル/Dサービスはパケット接続料のみとなります。

この「10Mbpsあたり」の意味ですが、おおざっぱに説明すると、事前に「××から△△までの期間は○○Mbpsで接続させてください」とMVNOであるIIJがMNOであるdocomoに言います。網使用料は、レイヤ2接続で1ヵ月10Mbpsあたり746万円なので、100Mbpsで接続していれば7460万円です。1Gbpsで接続していれば7億4600万円です。

ここで重要なのは、docomoとIIJ間での契約は接続回線の帯域であるという点と、その帯域を必要に応じて柔軟に変更できるわけではない、という点です。MVNO側は、どれだけの帯域が必要になるのかを事前に予測して運用しなければなりません。その契約帯域内で何人のユーザに対してサービスを提供するかという点は契約内容に含まれていません。

このような条件があるので、MVNO側としては、できるだけ「回線の有効利用」をしなければなりません。できるだけ100%に近い利用率となっている状態でありつつも、輻輳が激しく起きている状態ではないという運用である必要があります。同時に、コスト負担と利用可能機能を明確にすることで、各ユーザの公平性を確保しようという思想もありそうです。

そう考えると、NECビッグローブの時間帯制約は、⁠既にMVNO契約がdocomoとある状態で低価格メニューで指定している時間帯の利用率が高くないので回線の利用効率を上昇させるため」という設計思想があるのではないかと推測できます。

945円の根拠を推測してみる

次は、945円などの価格に関してどのような試算が行われたのかを勝手に推測します。以下、私の勝手な推測ですし、実際はもっと時間をかけて綿密な試算が行われているはずなので、何となくの雰囲気だけ感じるぐらいのニュアンスで読んでください。

IIJmio高速モバイル/Dサービスの設計思想は、各ユーザを128kbpsに制限することでより多くのユーザが同時に使えるようにしようというものだと推測しています。クーポンという概念は、最近話題の経費負担の公平性を意識してそうです(RSVP/IntServ/DiffServとかが話題になっていた1990年代頃の時点ですでに公平性確保の手段としてのクーポンやトークンに関する議論はありました⁠⁠。

実際の内訳は知りませんが、たとえば、税抜き900円のうちの100円を同社利益として、100円を同社運用コスト、700円をdocomo網使用料にまわすという考え方で7,458,418円を700円で割ると、IIJとdocomo間の相互接続10Mbpsあたり1万人のユーザで使うということになります(⁠⁠10Mbpsあたり」なので実際には、このn倍だろうと思いますが、IIJとdocomo間の接続帯域は非公開となっています⁠⁠。実際は、525円の100MBクーポンや2940円の1GBプランがあるので、そこまでは極端にはならないとは思いますが、10Mbpsあたり1000人以下ということはなさそうだと勝手に推測しています。

このような内訳は、通常の有線インターネット接続サービスとして考えるとあり得ないように思えるかも知れませんが、そもそもサービスが「ミニマムスタート128プランは128kbpsでのモバイル接続」というところから、データ通信を常にしたいというユーザではなく、使うときにちょっとだけ接続してちょっとだけ通信を行うというような用途のユーザにターゲットを絞っているものと思われます。そのようなターゲットを絞ることで、実際は「使ってない期間」が長いユーザを多く確保しようとしているのかも知れません(料金設定的にも⁠⁠。

たとえば、私はモバイル通信においては、そのようなユーザに該当します。現時点で、モバイル通信としてFOMA回線を契約していますが、それを使うのは、電車での移動中やどこかの会議に行った時や旅行中ぐらいなので、実は接続時間は短いです。

実際はここで紹介している数値ほど単純な話ではなく、128kbpsプランと1GBプランの割合を推測しつつ、税抜き500円の追加クーポンをどれだけのユーザが利用するかを推測したうえで算盤をはじいているはずです。ISPを運用する経験を元に、時間帯に応じたトラフィック変化なども考慮した予測モデルが作られた上で価格等が決定されたりもしてるでしょう。こうした要素を組み合わせつつ、その他経費を含めて利益が出ると判断したうえで、最低価格945円は決定されているものと思われます。

インターネットが発明される前提となったパケット交換技術は、通信の多重化によって回線の利用効率を上昇させるためのものでしたが、MVNOのL2接続モデルでのビジネスは、その「利用効率」を最大化しつつ輻輳を最小化するためにサービス内容を調節することで暗に利用者ターゲット設定を行っているというのが面白いです。

通信制限の方式

さて、ここで気になるのが通信制限の方式ですが、128kbpsの通信制限を行っているのはIIJ網内であり、docomoの携帯網での設定ではありません。

128kbpsにシェイピングする方式を質問してみたのですが、基本的に機密事項であるとしつつも、⁠ある程度のバースト性は許容していくつもりです」とのことでした。バースト性が許容されるということは、短時間内で完了する通信をたまにするぐらいならば128kbps以上の速度が出る事を意味しているので、よくあるWeb版の速度テストだと128kbps以上の速度が瞬間的に出そうです。

ただ、ある程度長い時間でトラフィックを流すと奇麗に128kbpsにシェイビングされるのだろうと思います。

あと、通信制限とは多少異なりますが、24時間連続接続していると一度切断される仕様になっています。

なお、IIJが提供するサービスへのアクセスでは128kbpsの制限が解除されているようです。たとえば、IIJによるメールサーバやDNSキャッシュサーバへのアクセスは、128kbpsシェイピング対象外とのとことでした。

網構成

次に気になるのが、⁠では実際にMVNOはどうやってMNOと接続しているか?」です。

最初に知る必要があるのは、LTEと3Gで網構成や用語が異なることです。3Gは音声通信とパケット通信が別となっていましたが、LTEではそれらが統合されています。

まずは3G網の構成ですが、以下のようになっています。

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MVNO側はGGSN(Gateway GPRS Support Node)を自前で用意し、docomoとレイヤ2もしくはレイヤ3接続します。MNO側であるdocomoは、SGSN(Serving GPRS Support Node)から無線網側が責任範囲です。

LTE網の場合は、PSドメイン/CSドメインに分かれていないので、構成がシンプルになります。

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3GでGGSNと呼ばれていた機器に相当するのがP-GW(PDN Gateway)で、SGSNがS-GW(Serving Gateway)です。LTE網のもう1つのポイントは、3G網と接続しているという点です。初期のLTE網は3G網ほどカバー範囲が広くないので、3Gにフォールバックすることが前提となっており、3G網を利用しているときはSGSNからS-GWを経由してP-GWへと通信が行われます。

SSGN(S-GW)とGGSN(P-GW)の接続方法をプロトコル的に見ると以下の図のようになります。MVNO側から見えるのは、SSGN(S-GW)までのIPリーチャビリティまでで、無線網部分は見えません。

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MVNOが直接契約しているユーザに対してIPv4/IPv6アドレスを割り当てるのは、ユーザからのPPPを終端しているGGSN(P-GW)であることがわかります。PPP接続は、IP/UDP/GTP-Uの上にあります。

MVNOが用意する機器であるGGSN(P-GW)が1ヵ所であるとしたとき、GGSNは複数のSGSN(S-GW)からのIP/UDP/GTP-Uパケットを受け取っているという形になります。一方、MNO側の立場で見ると、SGSN(S-GW)は複数のMVNOが用意したGGSN(P-GW)へとIP/UDP/GTP-Uパケットを送信していることになります。MVNOが用意するGGSN(P-GW)「ルータではなく交換機だ」という感じです。

GGSNは、ユーザとの接続情報をGTP-CというコントロールメッセージでSGSNとやりとりしますが、ここでは詳細は割愛します。

3GとLTEで網使用料は同じ

現時点では、3GとLTEでdocomoの網使用料は同じです。そのため、LTEによるサービスであるXi(クロッシィ)が受信最大75Mbpsに対応しているからといって、MVNO側での3Gの場合とLTEの場合で通信帯域制限を変更するというのも難しいというのが実情だろうと推測しています。

そもそも、LTEで送受信用のネットワーク帯域が3Gより広いのは、通信事業者側の思惑としては「ユーザに多くの通信をしてもらおう」ではなく「単位時間あたりに詰め込めるビット数を増やしたい」というところにあります。

たとえば、100Mbpsと1Mbpsを比べると、1秒あたりに行える通信は100Mbpsの方が1Mbpsの100倍です。 無線帯域は時間のシェアリングであると考えて、ユーザが同じビットレートで通信をしているのであれば、100倍のユーザを収容できるということになります。

このように、⁠多くのユーザを収容できるようになりたい」という通信事業者側の思惑が強いので、恐らく網使用料が3GとLTEで同額なのだろうと推測しています。とはいえ、サービスを販売するときには「受信最大75Mbps」というような宣伝文句が並ぶだろうと思うと、ユーザ側としては納得しづらいとは思いますが……。

最後に

今回のIIJmio高速モバイル/Dサービスは面白いと思いました。

最高速度を競うような表示が多い現状で、最初っから「いや、帯域制限バリバリですから。帯域制限の限定解除したければ従量課金になります」と言ってしまっている設計は硬派であると同時に現実的であり、設計思想として好きです。

そもそも私はモバイルで使うときは128kbpsも必要なくて、64kbpsぐらいで十分な通信しかしてませんし。メールやWebを見るぐらいにしか私は使わないだろうと考えると、バーストトラフィックを許容するシェイピングだったらもうちょっと体感速度が速いだろうと予想しているというのもあります。

個人的には、docomoのMVNOであり同社SIMを使っているので、docomoのSIMロックがかかっている機器でそのまま使えそうな気がする点も面白いと思いました(そんな使い方は推奨されてないのでしょうが⁠⁠。

実際に開始されるのが今月後半で、申し込んでからSIMが届くのが今月末か来月はじめぐらいになるかも知れませんが、945円ですし、試してみようかと本気で思えるサービスだと思いました。

(この記事を書くにあたって報酬を頂いたり、特別に何かの機器を頂いたりしているわけではありません。⁠ステマステマ」が時代の最先端なので一応念のため。笑⁠

参考資料

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