IPv6対応への道しるべ

第6回 IPv4アドレス─移転か返却か?

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アドレス再配布への課題

─⁠─返却と移転に関して,実際のIPv4アドレスを割り振られた側の意見としてはどのようなものがありますか?

奥谷:JANOGメーリングリストでの議論は二手に分かれている気がします。まず,返却される前に移転された方が良いという意見がある一方,歴史的PIアドレスの割り当て先組織の意見は,移転という面倒なことをするよりもJPNICに返却してしまいたいというものです。たとえば大学で担当部署の方が自分から移転先を見つけたうえで,価格等の交渉も行うことは,最終的に収入があったとしても逆にそれが面倒だという場合もありそうです。実際,面倒なことをしたくないと思っている場合は,JPNICに返却するのが最も簡単だと思います。外から強い移転への働きかけがあれば対応するかもしれませんが,⁠返却したい」と思っている組織が自発的に移転を選択しない可能性も考えたほうがよさそうです。

これは個人的な意見ですが,わざわざ誰がIPv4アドレスを必要としているかを探したうえで,自分から積極的にコンタクトをとって移転を行うことを返却側に求めるのは現実的には難しいだろうと思います。やはり必要としている側が何らかの形でコンタクトを取っていただく方法を考えられるとよいので,今後こういった方法についても議論できればと思います。

川村:今の返却側のモチベーションとしては,これからお金がかかるからIPアドレスを手放したいのであって,それで売りたいと考えているわけではないんです。PIアドレス(Provider Independent Address:プロバイダ非依存アドレス⁠⁠,PAアドレス(Provider Aggregatable Address:プロバイダ集成可能アドレス)に関係なく,持っているだけで保有サイズの維持料がかかるので,⁠だったら返します」と思うのではないでしょうか。

返却したいという人がいて,そのときに移転という選択肢があるのを知っていて返却を選んでいるのであれば,それは仕方が無いのですが,そうではなく移転という選択肢を知らないだけであれば,それを伝えて行くのが良いのかなと考えています。

現在,枠組みはあるのですが,それをどうやれば使いやすくなるのかに関してコミュニティ内で話あうのも良いのではないかと思います。

─⁠─今のところの再割り振りの可能性が低いという前提があるのですよね? もう少し詳しく教えてください。

日本ネットワーク
インフォメーションセンター
奥谷泉氏

日本ネットワークインフォメーションセンター 奥谷泉氏

奥谷:はい。今のところのポリシーでは,最後の/8ブロックからの分配ポリシーに基づいて処理されます。ただし,返却されたアドレスがその在庫に収容されたとしても,まだそのための在庫がほどんど残っている状態なので,使うとしてもかなり先になりそうだと思います。

─⁠─返却されたIPv4アドレスがJPNICのIPv4アドレス在庫に戻されたとしても,最後の/8ブロックからの分配ポリシーに基づくと,各法人は/22を上限とするアドレスサイズしか※3割り振りを受けられませんが,事業継続のためにIPv4アドレスが必要な法人はすでに最後の割り振りを受け取ってしまっているはずなので,新たに法人を設立して取得しなければならないという状況になってしまいませんか?

今までIPv4アドレスの割り振りを多く受けていた人々は,初めてIPv4アドレスを割り振られる人々ではなく,以前から何度もIPv4アドレス割り振りを受けて事業を拡大してきた人々であると思うと,最後の/8ブロックからの分配ポリシーで運営されると「一番多く必要とする人々は受け取れない」という状況になりそうだと思います。

川村:現時点での最後の/8からの割り振りは0.05%ぐらいなのですが,103/8って経路の数がもの凄いです。経路テーブルのほどんどが/22か/24なので,見ていると涙が出てきます。これは痛いと。

川端:単純に計算すると,約16,000件程度の/22割り振りが可能です。最後の/8在庫からの/22割り振りが終了すると,その時点までにAPNICに返却されているIPv4アドレスからの/22割り振りが始まることになっています。

─⁠─返却されても必要な人々には渡らない可能性が高いということですね?

川村:新しい法人を立ち上げて取るというのも,IPアドレス管理指定事業者※4にならなければならないので,それにお金がかかります。法人を設立して,IPアドレス管理指定事業者になったうえで,申請が通って初めて受け取れるのが/22なので,苦労の割に受け取れるIPv4アドレスが小さいです。事業をやっていると,そのような小さいアドレスブロックでは足りないと思われます。

画像

※2)
最後の/8ブロックからの分配ポリシーに関する詳細はIANAにおけるIPv4アドレス在庫枯渇,およびJPNICの今後のアドレス分配についてをご覧ください。
※3)
/24以上のサイズであれば,⁠合計で/22」となるまで複数回に分けて分配を受けてもいいことになっています。
※4)
IPv4アドレスの割り振りを受けるには,JPNIC会員ではなくてIPアドレス管理指定事業者となる必要があります。JPNIC会員とIPアドレス管理指定事業者は別の制度で,JPNICの理念に賛同し活動に協力するのがJPNIC会員となっています。

日本だけでは解決できない問題

─⁠─ただ,最後の/8ブロックからの分配ポリシーが現状のままである限りは,これまでIPv4アドレスを多く申請してきた人々のところには,返却されたIPv4アドレスは絶対に割り振りされないことだけは保証されるわけですよね? しかも,最後の/8ブロックからの分配ポリシーは一気にIPv4アドレス在庫がなくならないためにあるものなので,それが近い将来に劇的に緩和される可能性が低いと思うと,返却されたIPv4アドレスはブラックホールに吸い込まれるようなものなんですかね?

川村:インドなどではそもそもIPv4アドレスが全く足りていません。日本一国の事情で,国内で必要だからといってポリシーを緩和するというのは難しいと思います。

─⁠─それは,JPNIC独自に何かをしてしまうと,それがAPNICやARINなど他の組織にも影響を与えるということですか?

川村:最後の/8ブロックからの分配ポリシーを改訂しようと思うと,それはJPNIC内ではできなくて,APNICでのポリシーをまず改訂しなければならなくなります。そのため,JPNICコミュニティ内でどうにかしようと思ってできる問題ではありません。

川端:IPアドレスのポリシーには,JPNIC単独で実装することの可能なポリシーと,JPNICを含むAPNIC地域全体で実装することの必要なポリシーがあります。最後の/8在庫からの分配については,APNIC地域全体で実装することの必要なポリシーに該当します。APNIC地域全体で実装することの必要なポリシーを変えるためには,APNICでの議論が必要となってきます。

奥谷:最後の/8ブロックからの分配ポリシーを改訂するのが不可能というわけではなく,制度上は改訂は可能です。仕組みとしては変えられます。ただ,問題は地域全体の合意できる内容が作れるかどうかということだと思います。

川村:最後の/8ブロックからの分配ポリシーも3年ぐらい議論しましたからね。結構かかりました。

奥谷:IANA中央在庫からRIRへの最後の分配に関するポリシー※5とセットだったので,それもあったと思います。カウントダウンポリシーが決まってからは1年ぐらいでしたかね。

─⁠─最後にひとことお願いします。

川村:最終的に移転をするのか返却をするのかの判断をするのは,IPv4アドレスを持っている組織になるので,それに関しては他者が口を出す話ではありません。しかし,返却されるとどうなるのかと,移転という選択肢があるという事に関しては,知っていただいても良いと考えています。

川端:JPNICから直接分配を受けているIPv4アドレスの管理方法を,関係する方々に広く知らせていく必要があると考えています。

IPアドレス管理指定事業者の担当者であれば,IPv4アドレス移転制度について非常に理解されているのですが,歴史的PIアドレスの割り当て先組織の担当者の方々にはまだ周知不足の部分もあります。歴史的PIアドレスの割り当て先には,インターネットに関わらない業種の組織も多く,IPアドレスの登録情報の管理については全くの初心者,という方から問い合わせをいただくことも増えてきています。

奥谷:選択肢があることを周知するのことは前提として大事ですが,その先実際にどの選択肢が選ばれるのかはまた別の課題として整理したほうがよいと思います。どのような方法が有効なのかは,今後議論が必要なテーマだと考えています。

─⁠─ありがとうございました。
※5)
カウントダウンポリシー

著者プロフィール

あきみち

「Geekなぺーじ」を運営するブロガー。

慶應義塾大学SFC研究所上席所員。全日本剣道連盟 情報小委員会委員。通信技術,プログラミング,ネットコミュニティ,熱帯魚などに興味を持っている。

近著「インターネットのカタチ - もろさが織り成す粘り強い世界」

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