R&Dトレンドレポート

第14回Emiriパパ MA6受賞独占インタビュー

Mashup Awardsってみなさんご存じでしょうか?

Mashup Awardsは、リクルートをはじめとする数々のリーディング企業、協力企業によって開催されているプログラミング祭りです。

リーディング企業、協賛企業から提供されるさまざまなAPIを組み合わせて(マッシュアップ⁠⁠、新たなサービスを構築してみよう!というのがその趣旨となっています。2010年度で6回目ということで、それなりに歴史も感じられる賞になってきました。

2010年は提供API222個という数に、Adobe, NHK, NTTドコモ, Google, KDDI, サイボウズ、SONY, SonyEricsson, DeNA, PayPal, Yahoo!Japan, リクルートといった錚錚たるリーディング企業が名を連ねる⁠祭り⁠となっており、受賞者にとっても非常に意味のある賞となっています。

そんなMashup Awardsですが、2010年12月4日に最優秀賞の決定、および授賞式がありました。私も現在仕事をさせていただいている企業の関係で参加したのですが、なんと!私の隣で仕事をしている⁠Emiriパパさん⁠が最優秀賞に選ばれました。

最優秀賞候補に挙がっていることは知っていましたが、先にも書いたように重みのある大会である上に、応募作品が544作品!という中でのナンバーワンということで非常に興奮してしまいました。

というわけで今回は最優秀賞を獲得したEmiriパパに、開発者、研究者としてのマインドに触れてみたいと思います。

MA6最優秀賞受賞 Emiriパパ
MA6最優秀賞受賞 Emiriパパ

EmiriSystemの紹介

EmiriSystemは、Emiriパパが個人で開発・運営している日記サイトで、特に育児というキーワードに重きを置いて開発が進められています。

育児日記EmiriSystem
育児日記EmiriSystem

独占インタビュー

―本日はよろしくお願いします。まずEmriSystem開発のきっかけをおしえてください。

Emiriパパ(以下略⁠⁠:はい。よろしくお願いします。結論から言いますと必要に迫られて、というところですね。2001年に長女が生まれ、元々私がカメラ好きということもあって毎日娘の写真を撮っていたんですよ。

―毎日ですか?

はい。毎日です。日々の変化は少ないですが、数日もさかのぼると、もう、少しずつですが変わってきてるんです。子供の成長は本当に楽しいですね。で、そんな風に毎日の写真を撮りためていると、見たいときに見たい写真が見つからないという本末転倒な事態になってしまいまして。

―見たいときに見つからないというのはちょっとつらいですね。写真ですが、一体何枚ぐらいあるんですか?

写真を撮りためて今年で9年目になりますが、数えてみたら3384日で12万枚、870Gバイトもの量がありました! もちろんいきなりそんな量になるわけじゃありませんが、徐々に増えつつある写真を前に危機感を覚えました。

―870Gバイト!すさまじい量ですね。そしてEmiriSystemの誕生の瞬間を迎えたわけですか。

まず作ったのが写真をHTMLでカレンダー風に見せるプログラムです。これはコマンドラインで起動するもので、静的なデータをカレンダー形式で出力をするものだったんですが、sh、awk、sed、grepの嵐。でもたったこれだけのシステムですが、子供の成長というか変化が如実につかめるんだなあとわかったんです。そして、同じ感覚を田舎のジジババと共有したいなあ、と。

―なるほど。まず第一歩がウェブシステムではなく、コマンドラインというのが意外でした。

(ジジババに)手軽に見せてあげられる方法を考えたところ、まずはWeb化だということで、自宅サーバを外部に公開し、ISDNで外からつながるようにしました。それで田舎に帰ったときにせっせと実家のIT化を進めたわけです。

―おじいさんおばあさんも感動されたんじゃないですか?

(ジジババにとっては)孫の成長というより魔法の箱がきたんじゃないかっていう感じで驚いて…、というのは冗談ですけど。孫の成長速度に感動していましたね。それで、基本オヤバカですから、親族だけでなく友達にも見てもらいたいというおもいでURLを配ったりしてるうちに、逆に、友達の方から私も使ってみたいわぁー、と話があったわけです。

―EmiriSystemにとって初めてのオファーですね。

そうですね、初めてのお客様です。そうなってくると子供の成長や記録というのは公開したい部分もあれば、非常にセンシティブに扱わないといけない部分もありまして。この頃に今で言うSNSらしい機能を開発していきました。当時はSNSなんて言葉がなかったですけど。

―SNSを!?FaceBookやMixiよりも前に?たとえばどんなシステムですか?

当時、EmiriSystemは宣伝したことなどなく、友人や親族の口コミで広がっていったサービスだったんです。なので、リアルな人間関係のつながりだけが肝だったんですよ。究極の会員制サイトだと思います。検索エンジンにも引っかからないようにしていましたから。

―人間関係で成立している、安全で健全なサービス。

今で言うソーシャルグラフがすでにEmiriSystem上には存在していたんですよ。つまり、友達の友達の友達の・・・とたどっていけば必ずすべての人を網羅することになる、ということです。

―まさにソーシャルネットワーク!でもそれって見せるとまずいですよね?

もちろん!これには非常に神経を使いました。誰がどこまで公開を許可するか、というアクセスコントロールを当時設計したんですが、これがこのサービスの要になるな、という思いがありました。その人のリアルな人間関係が壊れてしまうかもしれないので、テストも綿密に行いましたね。この頃に作ったシステムが今のEmiriSystemの原型です。

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―アクセスコントロールの設計に、当時から今のSNSの肝となる部分を予見していたとは…。

まさにEmiriSystemの黎明期。その後はシステムを着実に進歩させながらも、オヤバカぶりを発揮していきます。

―現在、EmiriSystemはバージョン7、9年目ということですが、それだけの長期間にわたってたった一人で開発を続けられる原動力はなんでしょう?

私はもともと(今も)大企業につとめていて、チームで仕事をすることが多かったのですが、チームでの仕事と個人とではフィールドというか指向性が全然違うんですね。チームでの仕事は非常に高効率な部分もありますが、クリエイティブな部分や見せ方のセンスという部分では動きにくいと感じたりしていました。特に私はデザインや造形に非常に興味があって、ビジュアルなセンス、ゼロからものを作り出すときのクリエイティブな作業においては個人の力量に勝るものはないと思っています。

―サラリーマンになりきれなかった、ということでしょうか。

いえいえ、そんな大胆なものではありません。今もサラリーマンをしていますし。当時はまだ若かったんですね。そんな折りに子供が生まれ…という先ほど話したEmiriSystemの開発をはじめて、自分の好きなように好きなシステムを作れるぞ、という感動を味わって。プランニングから優先順位の決定、リリースというすべてが自分のコントロール下でできるということが楽しかったですね。

―でもそれだけじゃモチベーションは保てないんじゃないでしょうか?特に年を経ると最初のきっかけだけでは情熱が継続しない。

そうですね。やっぱり、使ってくれる人からの反響が一番の活力だったと思います。最初は親族や友人だけだったんですが、そのうち全くの他人から、励ましや感謝の言葉がいただける。私自身も使っていただいているユーザに感謝しています。自分の考えたシステムがユーザにこれだけ影響を与えているんだ、という気持ちですね。もちろん、忘れてはいけないのが娘の成長とともに出てくる、あったらいいなという機能。感謝の気持ちと愛、ですね。

―システムが成長していくというのはそういうことなんですね。愛が必要だと。
―システム的な話をすると、いわゆるLAMP環境ということですが?

はい。今はそうですけど、いろいろありました。ここに詳しいので是非読んでみてください。これこそEmiriSystemの変遷の記録です。

―要約すると、
  • 手作業でHTML作成
  •        ↓
  • csh(Cシェル)で静的なHTML生成
  •        ↓
  • Perlを使用して静的なHTML生成
  •        ↓
  • Perlを使用して動的にHTML生成
  •        ↓
  • DBMS(MySQL)導入(え!?DB使ってなかったんですか?)
  •        ↓
  • Perlをオブジェクト指向に書き直し
  •        ↓
  • 独自テンプレートエンジンの作成→ 1回挫折
  •        ↓
  • 独自フレームワークの作成←今ここ!

あたかも人類の進化を見てるような。。DBMS導入あたりは⁠火⁠を使い始めたぐらいですかね。リンク元はおすすめです!

―EmiriSystemはデザインも非常に洗練されてますよね。あるユーザさんは海外のおしゃれなサイトみたい、と表現していました。

ありがとうございます。デザインについてほめられるとうれしいですね。デザインにもこだわりがあって、(ま)がすべてだ、と。表示されているモノとモノの間にこそ、デザインは存在する、というのが私の持論で、いろんなアーティスティックな方とお話をさせていただくと、とやはり同じようなご意見を耳にします。こういうこだわりを突き詰められるのも一人で開発している妙といえますね。

―EmiriSystemにはユーザごとに画面デザインを設定できる“フレーバ”という機能があって、いくつかのフレーバが用意されています。これらもすべてEmiriパパさんがデザインされています。
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―“一人ですべて作成する妙“という言葉がありましたが、一人で作るというのは、なみなみならぬ努力と忍耐が必要でしょうか?

いえいえ、努力と忍耐じゃなくて、やっていない期間の方が長かったりするんですよ。システムのことを考えてガリガリとコーディングしている時間は割と少なくて、コーディングせずにシステムを傍観しているときがあるんですが、このときに意外なひらめきや鋭気を養うということができているんじゃないか、と思います。

―これも間(ま)ですか。

そうですね。うまいこといいますね。端から見てると実在していないように見える部分ですが、絶妙なバランスで成立しているのかもしれないですね。

―ずばりEmiriSystemとは何でしょう?

最初は自分のやりたいこと、やらざるを得ないことから発生したシステムですが、よくもここまで続いてきたなぁ、と思っています。徐々に口コミで広がっていったという点が、Webサービスの独特の進化という風に感じています。興味深いですね。また、SNSという言葉以前にソーシャルネットワークの概念を構築できたことも個人的には自慢したいところですね。後は徹底的に子育てにこだわったシステムなので、そこの部分での評価がパパ冥利に尽きます。

―アワードで、審査員の方からの言葉にありましたね。「マッシュアップのためのマッシュアップではなく、子育てを目的とした機能のためのマッシュアップだ」、と。

あれは本当にうれしかったです。僕の目的もそこしかなくて、言語やOSは手段でしかないというところをご理解いただけたということですから。お父さんお母さんの子育て、ひいては子供が将来自分自身で見るであろう、成長の記録をいかに楽にできるか、というポイントですね。

―今さらですが、最優秀賞とりました。

いまいち実感がわかないんですけど、今までやってきたことに対しての最大限の評価をいただけたこと、自分がよいと思って進めてきたやり方が認められたことを、素直に喜びたいです。ありがとうございます。

―エミリちゃんだけじゃなく妹さんの名前もシステムにつけて欲しいという声がtwitterで見られましたよ。

次女はゆらりと言いますが、実はゆらりも名前を冠したシステムの構想があります。まだ多くは語りませんが、育児システムの要素のひとつとして活用されるのではないかと期待しています。

―それでは最後にこれを呼んでくれているであろう、若い(?)開発者にメッセージを。

おもしろいと思ったらまず作ってしまおう、というスピード感。これにもう一盛り。いたずら心というか、スパイシーな精神があると楽しいですね。じゃじゃん!と後ろから出てくる付加価値、サプライズですね。そして、もう一手間加えること。これが一番面倒くさいんですけど、これがあるとないじゃ大違いなんですね。最近はイクメンという言葉があるようですが、IT系イクメン君を是非応援したいですね。

―実は私もマッシュアップに応募していたんですが…。

あらら。来年もがんばってください。

―……。今日は長い時間、ありがとうございました。明日からもお願いします(仕事として)。

はい。よろしくお願いします。

みなさん、いかがだったでしょうか? 私も開発者ですが、Emiriパパさんの姿勢には常に勉強させられます。

もう一手間。愛。感謝。これができるかできないかが大きな分かれ道なんですねえ…。

よーし!俺もがんばるぞ!という気になりました!Emiriパパさんありがとうございます!

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