国内最大級のロックフェス『RISING SUN ROCK FESTIVAL in Ezo』Wi-Fiサービスの舞台裏 ─さくらインターネットの挑戦

第3回ネットワーク設計チームに訊いた、RSR会場Wi-Fiのすべて

「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in Ezo」⁠RSR)の会場にWi-Fiを提供したさくらインターネット。このインフラ構築を担当したコアメンバは、エンジニア3名+広報担当2名の少数精鋭部隊でした。今回はそのうちエンジニアの方々に集まっていただき、ネットワークの構築やフェス当日の運用など、お話を伺いました。

お話を伺ったRSRのコアメンバ(エンジニア)
鈴木 一哉(すずき かずや)
今回のWi-Fiネットワークの設計者。入社2年目の新人ネットワークエンジニア。
東 常行(ひがし つねゆき)
鈴木さんの先輩、ベテランネットワークエンジニア。
宮下 頼央(みやした よりお)
石狩データセンター センター長。
左から宮下さん、鈴木さん、東さん
左から宮下さん、鈴木さん、東さん

ネットワークの設計図を書いたのは、入社2年目の新人エンジニア!

――新人の鈴木さんが設計を任された経緯はどういうものだったのでしょうか?

東:今年のRSRでは、新しく「Captive Portal(認証ポータル⁠⁠」を導入するということで、ファイアウォール「PfSense」を使うことになりました。そこで、そのソフトに詳しい鈴木に話がいきました。最初の時点ではその認証部分だけをやってもらうはずだったんですけど……。

鈴木:いつの間にかネットワーク全体の設計まですることになっていました。

宮下:(笑)

RSRのWi-Fiネットワークの構成
RSRのWi-Fiネットワークの構成
――鈴木さんは、普段はどのような業務を担当されているのですか? また、学生時代は何を専攻されていたのですか?

鈴木:ネットワークの監視・障害担当のシフト勤務をしています。いわゆる⁠ネットワークのお守り⁠ですね。学生時代はどちらかというとソフトウェア寄りの勉強をしていました。ただ、所属していた研究室が立ち上げ1年目ということで、研究室のサーバの設置・設定を全部任されたことがありました。そのときのインフラの勉強が、さくらインターネット入社のきっかけにもなっていますね。

昔からいろいろと任されることが多い鈴木さん。次はWi-Fiネットワークの構築について伺います。

前日は徹夜!開催直前のトラブルシューティング

――ネットワークの構築はうまくいきましたか? 設計段階とテスト段階でギャップはありませんでしたか?

鈴木:データセンター側は、ほぼ想定どおりの動作でしたね。始めから堅牢な設計にしていたので。ただ、会場側にはFWA不達といった地理的な問題がありました第1回参照⁠⁠。あとは、前日のテスト運用で大きなトラブルが発生してしまいまして……。実際に機器をすべて設置して監視を走らせると、FWAの疎通がちょくちょく不安定になっていることがわかったんです。ログを取ろうにも、今回使った無線機器「ポジモ」とFWA装置RAD Airmux5000はどちらもレンタル品だったのでそれができず、問題の切り分けが難しかったです。最終的には間にルータをはさむことで原因を突き止められました。機器間で通信速度の不一致があったんです。片方が速度固定になっていて。

あと、私は石狩データセンターに今回初めて行ったのですが、広くて左右対称の造りになっていて、迷子になってしまいました。

――東さんはどうでしたか?

東:今回の構築は全部自分たちでやるというのがテーマだったんです。機材も、会社にもともとあるものを使うというふうに。ですので、仕事で使っていない機材を探すのがたいへんでした。また、FWAのためのアンテナを設置するのに高所作業車をレンタルして使ったのですが、これも業者に頼まず、私が今回のために免許を取得して動かしました。ただ、RSRの会場って砂地が多くて、高所作業車は重量があるので、車輪が埋まってしまったんですよね。

鈴木:次の日も埋まってましたね。

宮下:(笑)

端から端まで歩くと1時間もかかる広大な会場に、少ない人数でAPを7ヵ所も設置するのは一苦労。鈴木さんはフェス前日、Wi-Fiの速度を安定させるために「SoftEther」で会場ネットワークを再現して検証するなど、徹夜で作業にあたったそうです。

フェス当日のネットワーク運用状況は?

――Wi-Fiの利用のされ方など、当日の運用についてはいかがでしたか。

宮下:Wi-Fiのアクセスログを集計したんですが、累計の利用ユニーク端末数は2,500ほど、種類としてはiPhoneが一番よく使われていましたね。次はAndroidでした。動画サイトから大きなファイルサイズのミュージックビデオをダウンロードしたユーザがいて、一時的にトラフィックが混んだこともありました。

――去年は「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のライブ前後がもっともアクセスの多かった時間帯だったということですが、今年はどうでしたか?

宮下:2日目の「EARTH TENT⁠⁠、18時ごろにアクセスの山がありましたね。これはちょうど「聖飢魔II」のライブ中です。久しぶりの復活だったことで注目されたのではないでしょうか。

準備を入念に行ったおかげで、フェス中のWi-Fiはおおむね安定していたそうです。ただ、炎天下の中ただっ広い会場を回るのはたいへんだったとのこと。ネットワーク機器の撤収作業はつつがなく終了したということでした。

エンジニア成長の場としてのWi-Fiインフラ運営

――東さんから見て、鈴木さんの今回の仕事ぶりはいかがでしたか?

東:私と鈴木が所属する運用部は、すでにできあがったものを守るという仕事の性質上、自分でゼロから作り上げるという仕事が少ないんですよね。ですので鈴木には自分で考えて、外部と調整して、という仕事を経験してほしかったという気持ちがありました。多少無茶な部分はあったのですが、鈴木は最後まで逃げずにそれをやり遂げてくれたので、うれしかったです。

――普段の業務では鈴木さんとあまり接点がない宮下さんですが、鈴木さんの活躍はどう目に映りましたか?

宮下:2年目の新人にこんなネットワーク図が書けるのか、というのが最初の驚きでしたね。また、今回の取り組みを通じて成長しているのが見て取れました。一番印象に残ったのが、構築作業中に聞いた鈴木と東との会話です。鈴木は今回のネットワーク構築を通じて、⁠フラッディング」「ブロードキャスト」といったネットワークの動作を初めて理解できたそうなんです。物事を学ぶってこういうことなんだな、と思いました。座学だけでは限界があって、実際に手を動かすことで得られることがある。鈴木はそういう貴重な経験をしたと思います。

――鈴木さんが今回のお仕事を通じて得られたことは何ですか?

鈴木:私は普段シフト勤務で仕事にあたっているのですが、その通常業務の中で時間を割いてRSRの準備をしていたんですね。時間を確保するために、自分の部署に対して「自分はこういう仕事をするから、これくらいの時間が必要だ」と交渉する必要があり、説明能力が鍛えられました。

もう1つは、ドキュメントに関することです。自分が今やっていること、仲間にやってもらいことを、誰が読んでも理解できるドキュメントとして、見える場所に置くことの重要性を学びました。ドキュメントを読んでもらって初めて、自分のミスを正してもらう機会が得られた、ということがあったのです。あとは、機器に付属されたドキュメントを鵜呑みにし過ぎない、ということですね。メーカーに動作の保障をされていても、自分の環境で動かしてみないとわからないことが多々あるということを身をもって学びました。機器のテストに苦労した経験から、普段はお客様であるユーザ企業の気持ちも知ることができました。

今回のRSRネットワークの⁠MVP⁠といえる鈴木さん
今回のRSRネットワークの“MVP”といえる鈴木さん

たいへんなことも多かったネットワーク構築ですが、得られたことはそれ以上に多かったようです。次は、鈴木さんが勤務するさくらインターネットの印象を伺いましょう。

エンジニアの“やんちゃ心”が活かせる職場

――鈴木さんにとって、さくらインターネットはどんな会社ですか?

鈴木:不思議な会社ですね。

一同:(笑)

鈴木:さくらインターネットは、昔から日本のインフラを担ってきた企業ですので、信頼性についてはどこよりも真剣です。ただ、そこがクリアできれば、ある程度自由なんです。新しいことに挑戦しても文句を言われることがありません。⁠慎重かつ大胆⁠という言葉が似合いますね。私が思うに、エンジニアの心は誰しも⁠やんちゃ⁠で、この会社はその気持ちを邪魔しないんです。

あとは、東さんや宮下さんのようなレイヤごとの第一人者がそろっている、という安心感です。物理層から上に乗せるコンテンツまで、ITにおけるすべての分野のスペシャリストが在籍しているので、安心して仕事ができます。

――本日はありがとうございました。

まとめ

さくらインターネットはインフラ事業という性質上、エンジニアがエンドユーザを実際に見るということがほとんどありません。今回は、自分たちが作り上げたWi-Fiを利用しているユーザが目の前にいたということで、うれしさ半分緊張半分だったようです。

さくらインターネットは来年のRSRにもぜひ参加したいとのこと。今度は社外のユーザ企業も巻き込んで、SNSのタイムラインをディスプレイに表示するなど新しい試みをどんどん投入したいと、早くも来年の意気込みを聞くことができました。取材を通じて、最後まで挑戦的な姿勢を崩さない会社、という印象を強く受けました。

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