Ubuntu Weekly Recipe

第404回2016年のデスクトップ環境

新年あけましておめでとうございます、という挨拶にはちょっと遅い時期になってしまいました。

本連載は8年目となりますが、今年はUbuntuにとって節目の年になるのではないかと考えています。それを踏まえつつ、さまざまなレシピをお届けして参りますので、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年最初の記事は昨年と同じように、Ubuntuで使用できるデスクトップ環境についての情報をまとめて取り上げます。

Unity 7/8

やはり昨年のうちにUbuntuデフォルトのデスクトップ環境をUnity 8にするというのは無理があるプランだったらしく、16.10に延期になりました。また昨年の記事で「今年中にはUnity 8がデスクトップで動作するようにはなるでしょう」と言及したものの、結局そうはなりませんでした。今回あらためて試してみましたが、タイミングの問題があるのか手元の環境では動作しませんでした。しかし、わりと簡単かつ安全に試すことができますので、挑戦してみるのも面白いでしょう。

16.04 LTSはUnity 7でリリースされるのは間違いないのですが、順調に16.10からUnity 8になったとして、Unity 7はどうなるのかというのは気になるところです。16.04 LTSリリース後5年間はメンテナンスされるのは間違いありませんが、それはそれとしてUbuntuがUnity 8になっても、中国向けのフレーバーであるUbuntu Kylinは当面Unity 7のまま行くのではないかというのが筆者の予想です。ピュアUnity 7フレーバーみたいなのもリリースされるのではないかとも予想していますが、はてさて、どうなるでしょうか。

とはいえ、Unity 8への移行は極めてチャレンジングで、実に楽しみではあります[1]⁠。

GNOME

昨年はGNOME 3.163.18 Gothenburgがリリースされました。今年は3.20と3.22がリリースされるでしょう。

ちょっと面白いのは、3.18にはコードネームがつけられたことです。由来はリンク先のリリースノートをご覧ください。そしてこの3.18 GothenburgがUbuntu GNOME 16.04 LTSとしてリリースされるでしょう。

最近はWaylandサポートに開発の比重が移っていて、もしかしたら今年中にもデフォルトに持っていけるところまで行くかもしれません[2]⁠。

GNOME FoundationのAnnual Report(PDF)を読んだところ、昨年は資金難に陥るどころか、久しぶりの黒字決算だったようです[3]⁠。

UbuntuでGNOMEを使用していて困るのはAppIndicatorのサポートがないことです。これはもともとUnityのトレイアイコンのライブラリとして開発されましたが、現在はStatusNotifierItemとして標準化され、KDEでもサポートしています。また、拡張機能はメンテナー募集中であり、GNOME Shellに実装される見込みもなしというのが現状です[4]⁠。

KDE

昨年も言及しましたが、KDEは現在KDE Frameworks、Plasma、KDE Applicationsの3つをリリースしています。それだけ細かく分かれているとリリース回数も多くなります。次の表にまとめてみました(開発版は除いています⁠⁠。

日付 分類 バージョン
1/8 Frameworks 5.6.0
1/13 Applications 14.12.1
1/27 Plasma 5.2
2/3 Applications 14.12.2
2/14 Frameworks 5.7.0
2/24 Plasma 5.2.1
3/3 Applications 14.12.3
3/13 Frameworks 5.8.0
3/24 Plasma 5.2.2
4/10 Frameworks 5.9.0
4/15 Applications 15.05
4/28 Plasma 5.3.0
5/8 Frameworks 5.10.0
5/12 Applications 15.04.1
5/26 Plasma 5.3.1
6/2 Applications 15.04.2
6/12 Frameworks 5.11.0
6/30 Plasma 5.3.2
7/1 Applications 15.04.3
7/10 Frameworks 5.12.0
8/12 Frameworks 5.13.0
8/19 Applications 15.08
8/25 Plasma 5.4.0
9/8 Plasma 5.4.1
9/12 Frameworks 5.14.0
9/15 Applications 15.08.1
10/6 Plasma 5.4.2
10/10 Frameworks 5.15.0
10/13 Applications 15.08.2
11/10 Plasma 5.4.3
11/13 Frameworks 5.16.0
12/8 Plasma 5.5.0
12/12 Frameworks 5.17.0
12/15 Plasma 5.5.1
12/16 Applications 15.12
12/22 Plasma 5.5.2

バージョン番号から察せるようにApplicationsのバージョンはUbuntuと同じく年と月なので直接の比較は難しいですが、Frameworksのバージョンの上がり方がすさまじいです。この表を見ると3つに分けてリリースするのは正解であることがよくわかります。『伽藍とバザール』「はやめのリリース、しょっちゅうリリース」を思い出しました。

KDE PlasmaもWaylandに力を入れていて、5.4ではテクノロジープレビューがリリースされました。Wikiには、なぜMirではないのかも説明されています。

KDEとは直接関係ありませんが、ついにQt 4.8.7をもって4系列が昨年いっぱいでサポート終了を迎えました。Debianから削除される予定もあり、そうなるとUbuntuからもなくなります[5]⁠。

XFCE

XFCE 4.10のリリース後3年近くの期間を経てついに昨年2月に4.12がリリースされました[6]⁠。

現在もコンポーネントレベルでの開発は進んでいます。4.14のロードマップもありますが、GTK+ 3へのポーティングも予定されていて、現在の計画のままデスクトップ環境として年内に新バージョンがリリースされるのは極めて難しいといえるでしょう。とはいえ、本当にGTK+ 3にポーティングできるのであれば、この先も安心して使用できそうです。

LXDE/LXQt

LXQtは昨年0.9.0と0.10.0がリリースされ、いよいよ開発段階から常用段階に移行しつつあります。早くても16.10からになりますが、Lubuntuとしてリリースされるのが今から楽しみです。

とはいえ、現在でも試すことはでき、図1は16.04にLXQtをインストールしたものです(厳密にいえば1つバグがあったので手元で修正しているのですが⁠⁠。

図1 16.04開発版にLXQtをインストールした
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LXQtは軽量デスクトップ環境の本命といってもいい存在であり、今後の発展が非常に楽しみです。とはいえ、16.04 LTSはLXDEのままなので、Lubuntuユーザー的にはLXDEとのお付き合いが当面続きそうです。

MATE

MATEは1.10と1.12がリリースされました。MATEの開発方針ははっきりしていて、ルック&フィールは変えないままGTK+ 3にポーティングしつつ新しいライブラリを使用するように書き換えられています。GSoCでは新機能を追加したりしているのですが、既存のアプリケーションやライブラリへの新機能の追加というのはあまりみられず、新しいアプリケーションが追加されることのほうが多い印象です。

1.8までは翻訳担当のところに「日本MATEユーザー会」という存在しない組織が表示されていましたが図2⁠、1.10からは正しく「日本GNOMEユーザー会」と表示されるようになりました[7]⁠。

図2 謎の組織、日本MATEユーザー会
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おそらく今年中にはGTK+ 3へのポーティング完了し、実際に使用できるようになるのではないでしょうか。

Cinnamon

Ubuntuではなかなか一級市民(First-Class citizen)になれないCinnamonですが、この状態はどうやら当面は続きそうです[8]⁠。

Cinnamonは昨年2.6と2.8がリリースされましたが、開発版の16.04ではまだ2.6のままです。図3は16.04にインストールしたCinnamon 2.6です。方法はおおむね第342回で説明したのと同じですが、2つのPPAは追加する必要はありません。もちろん16.04のmini.isoをダウンロードする必要はあります。

図3 16.04開発版にCinnamon 2.6をインストールした
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Cinnamonのリリースノートを読んでも、現在どのあたりにフォーカスして開発が続けられているか、その法則性を見出すことはできませんでした[9]⁠。

まとめに代えて

昨今Webサービスが充実し、Webブラウザーがあればさまざまなことができるようになりました。ということはデスクトップ環境は何でもよく、⁠自分がほしいものを作る⁠という動機が生まれています。また、GitHubの隆盛によって共同開発も行いやすくなっています。

その結果、⁠今年はさまざまなデスクトップ環境が開発され、あるいは既存のものが活発に開発されるようになり、それがUbuntuでも使用できるようになる」という極めて願望に近い予測をし、まとめに代えることとします。

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