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未曽有の大震災に、コミュニケーションの力で対抗する

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本書は,上杉隆・内田樹・鷲田清一・岩田健太郎・藏本一也という異なる専門分野を持つプロフェッショナル5者による,災害時のコミュニケーションとリスク管理をテーマとしたチャリティシンポジウムの記録をもとに作られました。3.11の大震災と,それに続く原発事故がもたらした惨事に対し,主にコミュニケーションの不全や,報道のあり方の問題から検証しようというものです。

上杉隆さんは「自由報道協会」の代表を務め,記者クラブの閉鎖性と既存メディアの硬直した体質を徹底的に批判している独立系ジャーナリスト。内田樹先生は合気道道場「凱風館」の館長を務める武道家・思想家。鷲田清一先生は元大阪大学総長にして臨床哲学者。岩田健太郎先生は医療分野における「パニック的事態」の専門家,藏本一也先生はリスク管理の研究者。こうした面々が一堂に会して語る機会はなかなかないものであり,その組み合わせの妙が本のひとつの売りとなっています。

未曽有の大災害に見舞われたとき,生き延びられるかどうかのカギを握るのは,言葉の力,コミュニケーションの力。それぞれ「待ったなし」の現場を持つ5人が,危機の現場でもなお有効な言葉の力とは? 真偽当否定めがたい雑多な情報からどれを選択しどう判断するか? ポスト3.11の日本が進むべき道は?……などについて徹底的に討論します。

「これからの日本人はみな放射能と一緒に暮らしていくしかない」という上杉さんの重い発言も,岩田先生の非常時の現場においてなぜひとびとが寡黙になるかについての考察も,鷲田先生が提示する我々の生活をささえてきた基盤そのものに対する射程の長い疑義も,内田先生の情報の格差化・階層化に対する懸念も,藏本先生の指摘する大企業の情報公開の甘さも,みなそれぞれ説得力があります。各人の発言のなかに読者の方それぞれが自らのものとしてすくい取れる部分があれば,それを生活の現場において活かしていっていただければと思います。

3.11では何が報道され,何が報道されなかったのか? 報道されなかったことがらはなぜ報道されなかったのか? その文脈を読み取る力が,いまわたしたちには必要とされています。これから生きていくための総合的情報力のヒントがここにあります。その力を身につけるためにもぜひご一読を。