成長するCMSで攻めのマーケティング―Webサイトの成功を約束する「柔軟」CMSの条件とは

なぜCMSが必要なのか?

マーケティング実践のためのCMS

企業サイトなりECサイトなり、商業的なWebサイトにはそれぞれ必ずビジネスゴールがあるはずですが、そのKPI(Key Performance Indicator:重要業績達成指標)は何でしょうか?企業サイトであれば、資料請求数、もしくは採用情報の応募数でしょう。ECサイトの場合はわかりやすく商品の注文数になります。つまり最終的なコンバージョン数がそれぞれのWebサイトのKPIと言えるでしょう。

コンバージョン数を高めるためには、有効な「ページビュー」PV(Page View)を増し、かつコンバージョン「率」を高める必要があります。どんなにコンバージョン率が高くてもPVそのものが少なくてはコンバージョンの絶対数は増えません。これらは下記の式で表されます。

総ページビュー

=1人当たりのPV×訪問者数(人)

この式を見れば、総PVを増やすためには、⁠1人当たりのPV」「訪問者数」の両方を高める必要があることがわかります。訪問者数を増やすためには、 SEOやリスティング広告をはじめ、さまざまなプロモーションが不可欠です。一方、⁠1人当たりのPV」はコンテンツ数を増やすことやナビゲーションの工夫で増加が期待できます。そこで活躍するのがコンテンツ管理システム(CMS)です。

CMSは従来、更新作業の「省力化」ツールとしてとらえられていましたが、コンバージョンを得るためのマーケティングの実践ツールとして重要度を増して来ているのです。

つまり、単なる省力化が目的であれば他の手法(たとえば、より安い労働力に切り替える)による対策も考えられますが、マーケティングツールとしてとらえた場合には、CMSを導入しないという選択肢はありえません。

PDCAを回すにはCMSが必須

Webサイト制作運営の現場において、⁠PDCAを回す」という言葉をよく耳にするようになりました。ここではその解説は省略させていただきますが、 Webサイトの開発から運用のフェーズにおいて、目標を設定し、その達成度を確認し、次のプランを立てる、という循環サイクルがWebの成功にも不可欠になってきています。

PDCAサイクルにより、コンバージョンを高めるために導き出された施策(アクションプラン)を実施するためには、HTMLの修正やサイト構造の変更が必要になります。CMSが導入されていないWebサイトの場合、その作業そのものが負担になることが多く、対応にコストや時間が掛かってしまい効果も期待できません。言い換えれば、PDCAサイクルを適用するためにはCMSは必須と言えるのです。

CMSによるLPO施策

コンバージョンを高めるための施策として代表的なものはLPO(Landing Page Optimization)です。リスティング広告を行わない場合でも、検索エンジンの発達とその普及により、ユーザは必ずしもサイトのトップページから入ってきてはくれません。多くの場合、検索結果一覧から該当ページにダイレクトにジャンプします。そのため、着地したページからそのまま離脱されることなく、目的のページに誘導したり、サイト内の回遊を促進するにはLPOが不可欠です。

SEO同様、LPOについてもまず仮説を立て、アクセス解析で結果を評価します。この試行錯誤を繰り返し実施することでその効果を高めていくわけです。

CMSに求められる「柔軟性」

ここまで見てきたようにKPIを達成するためのCMSの要件は、必要な施策をタイムリーかつ低コストに行えることです。つまり、運用フェーズでの「柔軟性」がCMSにとって重要な要件と言えます。

これを含めCMSには次のような柔軟性が求められます。

  1. 設計・開発フェーズの柔軟性
  2. コンテンツ入力の柔軟性
  3. 運用・保守フェーズの柔軟性
  4. 将来への柔軟性

設計・開発フェーズの柔軟性

CMSは言うまでもなくコンテンツ管理のシステムです。一般にシステムと呼ばれるITソリューションの開発には、まず要件定義を行い、仕様を決め、実装(プログラム開発)を行うというステップがあります。つまりプログラム開発を行うためにはきっちりと仕様を決めることが求められるわけです。商用CMSにも、開発基盤型と呼ばれるものもありますが、これが該当します。

一方、Webサイトの開発は、UIや動線などの最適化がサイトの成功を左右する要素になり得るため、それらの調整作業はサイト公開の直前まで続けられるケースが多いです。しかし、決められた仕様を基に開発されているシステムは、調整と言っても簡単に仕様を変更できないのが実状です。実際に仕様を変更することになると、仕様設計のフェーズに戻ることになり、いきおいスケジュールの変更(延長)さらには開発コストがアップすることになりかねません。

このような事態を避けるためにも、CMSには設計・開発フェーズでの柔軟性が求められるのです。

コンテンツ入力の柔軟性

一般にCMSを導入することでレイアウトデザインの自由度は制限されることになります。それは、ノンデザイナーでもHTMLタグを書くことなく更新作業を行えるのがCMSの最大のメリットなので、レイアウトを定型化することでそれを実現するからです。

しかし、Webサイトにおいてデザインは非常に重要な要素でもあります。ページ全体のレイアウトパターン(ヘッダやカラム構成)のみならず、各ページのコンテンツレイアウト(画像やテキストの配置)もUIの観点で少しでも良いものにしたいのが現場のニーズでしょう。

現実には、対応可能なデザインに制限があるCMSが存在します。これはナビゲーションを含むサイト構造を管理するための仕掛けとの兼ね合いによるものです。blogベースのCMSにはレイアウトパターンを柔軟に設定できないものが多いようです。一般のWebサイトにblog型CMSを使用する場合には、裏技的にレイアウトパターンの異なるblogを束ねることで実現することになります。これはサイト構造を制限することになるので、将来的に問題が発生する可能性があります。

また、コンテンツレイアウトの柔軟性を求めて「WYSIWYG型」エディタを採用するCMSもありますが、⁠X)HTML+CSSのスタイルシートコーディングが主流になった現在、WYSIWYG型エディタではスタイルをうまく設定することができないという致命的な問題があります。結果として後述する Web標準への対応が不完全になることになるため注意が必要です。

将来への柔軟性

終わりのないブラウザ戦争

ここに来てWebブラウザを巡る争いが再燃しているようです。最近の大きな話題と言えば、Googleが独自に開発した新しいブラウザ「Chrome(クローム⁠⁠」をリリースしました。現時点では、Windows版のみがリリースされていますが、将来的にMac版、Linux版も予定されています。レンダリングエンジンはSafariと同じくWebKitが採用され、JavaScriptのエンジンはGoogle自ら高速なJITを開発しました。実際、その動作は非常に高速です。

Chromeのユニークな構造として、各タブごとにプロセスが独立していることが挙げられる。これは、1つのウィンドウ内でWebアプリケーションがダウンしても、他のアプリケーションに影響を与えないというメリットがある。
Chromeのユニークな構造として、各タブごとにプロセスが独立していることが挙げられる。これは、1つのウィンドウ内でWebアプリケーションがダウンしても、他のアプリケーションに影響を与えないというメリットがある。

また、MicrosoftもInternet Explorer 8のβ版をリリースしました。ユーザ視点では、ようやくIE7が普及してきたように感じますが、すでに次のバージョンが予定されているのです。IE8はデフォルトではIE7との互換を捨てているようで、よりWeb標準に準拠した仕様となると言われています。それ自体は歓迎されるべきことですが、IE7と異なるバージョンが普及するというのはWeb制作者にとって頭の痛い問題です。

このように、Webブラウザの争いは終わりが見えません。以前に比べれば収束傾向にあるとはいえ、今後も続くでしょう。そのため、徐々に増えるさまざまなブラウザ/バージョンでの互換性を保つのはサイト運営側の使命となります。サイトリニューアル後に、新たなブラウザが出現することを考えると、その対応が柔軟に行えることもCMSに求められる大きな要素と言えるでしょう。

Web標準への柔軟な対応

Webブラウザと関連して常に注意深くウォッチしなくてはならないのがW3Cで策定される「Web標準(Web Standards⁠⁠」です。前項で述べたブラウザ戦争もこのWeb標準とは無関係ではありません。過去には各メーカがブラウザの機能競争のために独自に HTMLの仕様を拡大したため、その互換性が問題となりました。

また、当時のHTML規格ではWebページでの表現が限られていたため、制作サイドで本来の目的とは異なるタグの利用を行っていました。その代表が tableタグの利用で、表組みのためのタグがレイアウトのために使われていました。しかし、これはセマンテックWebの普及に障害となるなどの理由から、情報とレイアウトを分離したいわゆる(X)HTML+CSSを使ったレイアウト技術が求められました。

最近では、IE7をはじめこのCSSコーディングに対応した「モダンブラウザ」が普及したため、tableレイアウトではなく、(X)HTML+CSS コーディング一本にシフトすることが可能になっています。しかし、コーディング関連のWeb標準は進化を続けるので、現状でとどまるわけではありません。すでに次世代のHTML規格として「HTML5」の策定が進められていますし、一部のブラウザではすでにHTML5を先取りして実装しているため、Web サイトがHTML5に対応する必要が出てくるのも時間の問題と思われます。

ドッグイヤーと呼ばれるインターネットの進歩は速く、Web標準以外にもAjaxなどさまざまなWebテクノロジーが登場します。新しいテクノジーに適応可能なこともCMSに求められる大きな要件です。

良いCMSの条件

さて、ここまで「柔軟性」というキーワードでCMSの要件を見てきました。これらの要件を満たすCMSにはどういう製品があるでしょうか?

意外にも、⁠テンプレート&amp:リポジトリ型」の仕組みを持たないCMSが、市場には多数存在します。WYSIWIG型のページ編集機能を持つものやファイル管理型のCMSの場合、コンテンツとレイアウトが一体化しているため、仕様の変更が効率的に行えないため注意が必要です。

初期投資だけでなくTCOで判断

「柔軟性」を欠くCMSを採用した場合、どのような状況になるでしょうか。日々の更新作業をこなし、調整作業もなんとか乗り切った場合でも、何年かに1度はかならず次のサイトリニューアルを迎えることになります。そのとき、そのCMSを再度利用できるかどうかがコストの観点で大きな問題となります。

新たなリニューアルの要件に適応できず既存のCMSを捨てることになれば、投資が無駄になるだけでなく、コンテンツの再投入が必要になるため、リニューアルのコストも増大します。つまり、TCO(Total Cost of Ownership)の観点でコストを考えると、継続して利用できるCMSであることがコストを低減する最大のポイントとなります。

ときどき「使えないCMS~」⁠失敗しないCMS選び~」といったタイトルの解説記事を目にしますが、初期の要件に適合したCMSソリューションを運良く選べた場合でも、次回のリニューアル時に対応できなければそれは「使えないCMS」になり得ます。

つまり、ロングタームで見た場合に柔軟性に欠けるCMSは、たとえ当初うまく利用できたとしても、次回リニューアル時に適応可能かどうかはわかりません。

また、CMSを未導入のクライアントに理解されていないポイントとして、CMSが導入されるとページ数が加速度的に増加するということがあります。CMS がない状態では、さまざまな要因が重なってページ追加の障害になっている場合があり、それらの障害が取り除かれた瞬間、予想しないペースでページが作成されるケースが見られます。

このような場合、CMS導入後、ページ数が一気に倍増するといった状況も想定されますが、CMSがそのボリュームを処理できるかどうかというパフォーマンスの観点も忘れてはならないポイントです。

企業とともに成長するCMS

世界経済が激動する中、Webサイトのみならず、それを運営する企業自身も環境の変化に柔軟に対応し、成長を継続する必要があります。今やWebサイトは企業活動の非常に大きなポーションを占める戦略的なマーケティングツールです。そのWebサイトを管理・運営するCMSは企業の成長とともに成長できることが求められるはずです。

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