YouTube、Huluに代わる動画プラットフォームを目指すBoxee

Boxeeベータ版登場

2009年12月7日にニューヨーク、ブルックリンにある音楽ホールでBoxeeのベータ版発表会が行われた。Boxeeはネット上の動画やPC内の動画コンテンツを手軽にWindows Media CenterやApple Remoteのように一元管理、操作を可能にするソフトフェア。この一サービスのベータ版の発表会に600人を超える参加者が集まり、会場は驚くほど混雑していた。動画プラットフォームというポジションを目指すBoxeeのサービス、当日発表されたBoxee独自のセットトップボックス、そしてBoxeeの持つ可能性について紹介したい。

図1 Boxee
図1 Boxee

動画プラットフォームを狙うBoxee

Webの記事にアクセスするにはブラウザを利用する。では、ネットの動画コンテンツにアクセスするには?ネット上の動画をブラウザ経由ではなく、パソコンにインストールされた独自のクライアントソフトからアクセスしてしまおうというのがBoxeeの試みだ。 リモコンなどの単純な操作で動画コンテンツをGUIで楽しめるソフトとしてWindows Media CenterやApple Remoteといったサービスがある。しかしどちらもPC内に保存されたコンテンツの再生を主目的としており、ネット上のコンテンツを自由に扱えるわけではない。

Boxeeではネット上の動画コンテンツ、たとえばYouTube、Huluで視聴できる映画、テレビ番組コンテンツ、CNNのニュースなどに手軽にアクセスできる。各サービスごとにお気に入りを管理する必要もなく、画面がハイビジョンテレビ用にも最適されているため、PCをテレビに接続してセットトップボックス代わりに利用することも簡単だ。

図2 写真閲覧
図2 写真閲覧
図3 動画閲覧
図3 動画閲覧
図4 テレビ番組閲覧
図4 テレビ番組閲覧

Boxee経由でこうしたネット上の動画コンテンツにアクセスすることができるようになると、動画サービスが持つプラットフォームとしての力が削がれることになる。動画内で再生される広告はそのままBoxee経由でも再生されるが、動画以外のベージ内に設置されているバナーやコンテンツマッチ広告はユーザーの目に触れることなく素通りされてしまう。またYouTubeやHuluが持っている編成権、ランキングの表示だったり、コメントの表示、関連動画の一覧表示などによるサイト内の回遊性を保つ努力がBoxee経由では無効となってしまう。

BoxeeはYouTubeやHuluが持つ動画プラットフォームとしての力を削ぎ、YouTubeやHuluが単なるBoxeeへのコンテンツの提供者となってしまい、代わりにBoxeeが動画プラットフォームとしての地位を得ることになる。

そのため今年の2月、HuluがBoxeeからのアクセスを遮断するという出来事が起こった。これに対抗して、BoxeeはブラウザをBoxee内で立ち上げ、そのブラウザ経由でHuluのコンテンツを再生してしまうという荒技で回避を行っている。

コンテンツホルダーが演出できるBoxee用アプリ

Boxeeが持つおもしろい特徴にコンテンツホルダーがBoxee用のアプリを作れるというものがある。Boxee用アプリは、コンテンツホルダーが自由にデザインできるBoxee内のメニュー画面。DVDのメニュー画面のように自分たちが持つコンテンツの世界観に合わせてデザインができる。検索ボックスやカテゴリメニューを用意したり、コンテンツホルダーがユーザに見せたいコンテンツをトップ画面に配置することもできる。アプリ内での編成権をコンテンツホルダーが持つことができるのだ。

Boxeeサンプルアプリいろいろ
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YouTubeの公式チャンネルやニコニコチャンネルもコンテンツホルダーがある程度公式チャンネルトップページ内をデザインをすることが可能だがレイアウトが固定されており、デザインの自由度はBoxeeアプリのほうが遥かに高い。またYouTubeやニコニコ動画と大きく異なるのはBoxee自体がそうであるようにブラウザでの視聴を前提としたデザインではなく、パソコンでの全画面表示、あるいはテレビでの視聴を前提としたデザインとなっていることである。

Apple TVとの対立から生まれたセットトップボックス

BoxeeをPCにインストールしてテレビにつなげればミニノートパソコンをセットトップボックスとして扱うことができる。また既にApple TVを持っていればハックしてインストールすることも可能だ。インストール方法はBoxeeのSupportページの中でも紹介されている。

Apple TVへハッキングしてインストールする方法は公式的なものではないし、AppleTVのソフトウェアが自動アップデートされるとインストールされていたBoxeeが上書きされてしまい扱えなくなる。そうなると改めてBoxeeをインストールしなくてはいけない。AppleにとってもBoxeeは動画プラットフォームを目指す上で排除したいプレーヤの1つと言えるかもしれない。

そこでBoxeeがベータ版発表イベントで公開したのがBoxee独自のセットトップボックス、Boxee Boxだ。スクウェアなデザインとなっており、コンパクトな筐体にHDMI端子、光デジタル、音声出力端子、HDDなどを接続するためのUSB端子が用意されており、LAN経由だけでなくWi-Fiでの接続も可能となっている。価格は$200を想定しているようだ。セットトップボックスに載せられないのなら、自分たち独自のセットトップボックスをリリースしてしまおうという訳だ。

Boxee Box(前面)
Boxee Box(前面)
Boxee Box(背面)
Boxee Box(背面)

クライアントソフトの未来は?

このBoxeeやChumbyのように、ハードウェアをリリースするIT系スタートアップが出てきている。こうした動きが増えてくればIT業界がどんどんとおもしろくなっていきそうだ。Androidが登場したことにより、携帯端末だけでなくAndroidを搭載した独自端末のリリースという選択肢も考えられるようになってきている。日本でもCerevoのようなネット家電を手がけるベンチャーが出てきており、今後が期待される。

しかしBoxeeというサービスが広がるためには、クライアントソフトであるというのが大きな障害となるかもしれない。ブラウザだけで動作するサービスと比べて、インストールしなくてはいけないというのは大きなデメリットだ。DropboxやEvernoteのように知名度が高いクライアントアプリを利用するサービスもあるが、いずれもブラウザからでもそのアプリと同様のことができるようになっている。

逆にGoogleの登場後に加速していたクライアントソフトからWebサービスへという流れが、今後クライアントソフトを利用していく流れへと揺り戻しが起こっていくのかもしれない。iPhoneやAndroid端末など、ローカルにアプリを気軽にインストールする機会が増えてきている。またクライアントソフトのほうがユーザーのマシンパワーがより活かしやすいため、肥大化したコンテンツをストレスなく扱うために優位な点も多い。

Boxeeがメディアセンターというサービスを今後クライアントソフトだけで追求していくのか、あるいはブラウザ上でも同様の体験ができるようにしていくのかは気になるところだ。

Boxeeのベータ版は一部招待されたユーザーのみに配布されており、アルファ版がホームページから現在ダウンロードできる。

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