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2011年の電子出版ビジネスはどうなる?

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専用端末の登場(Sony Reader,SHARP GALAPAGOS)

2010年後半に入ると,iPhone/iPadや汎用Android端末以外に,電子書籍・雑誌に特化した,いわゆる電子ブックリーダー端末が登場してきました。SONY ReaderSHARP GALAPAGOSです。

ReaderはE Inkと呼ばれる可読性を意識したディスプレイを採用している点,GALAPAGOSは液晶ディスプレを利用している点など,デバイスごとの特異点はあるものの,電子ブックリーダーの大きな特徴は「読みやすさ」を意識している点です。

今紹介した2つのデバイスはいずれもXMDFに対応したコンテンツをメインに据えており,表現力を活かしたコンテンツを届けたいという狙いが見えます。また,iPhone/iPadと比較して異なるのは,物理的な操作として,あらかじめページめくりなどの動作に対応したボタンが付いていたり,ページめくりの操作(フリック)や自分だけの本棚と呼ばれる画面,しおりや目次の機能が実装されている点,著作権保護の観点からDRM(Digital Rights Management)の仕組みを実装している点なども挙げられます。

何より「電子書籍・雑誌に特化したデバイス」という説明から,読者の意識を読書に向ける効果があると言えるでしょう。

端末が整備されてきている一方で,コンテンツ不足など,読者のニーズを満たし切れていないのも,専用端末が抱える課題です。この点は2011年,大きな動きがあると思っていますし,この課題を解消できないと,今回の電子出版ビジネスを取り巻く動きが,過去と同じく一過性のものになってしまう危険性があると筆者は感じています。

Webサービスから見た電子出版の動き(パブー)

現在の電子出版ビジネスの特徴の1つとして挙げられるのが,従来の出版業界とは異なるプレーヤーが数多く参加してきている点です。その1つに,Webサービスプロバイダーの取り組みが挙げられます。

中でも,2010年最も注目を集め,数多くのユーザを獲得したのがWeb上に本棚を作るソーシャルサービス「ブクログ」を提供するpaperboy&co.がリリースしたパブーです。

パブーでは,Web上で本を読めるだけではなく,ユーザ自身が書き手として,作家としてコンテンツを配信することができます。さらに,書きながらほかの読者の反応を見て内容を調整したり,途中から複数のユーザと一緒に共著をするなど,2010年のWebの主流となった「ソーシャルメディア」の要素を多く取り入れているのが特徴です。

これまで,事業としての出版というと,出版社や印刷所が企画・制作し,取次を経由して書店で販売されるという一方向の流れだったものを,Webという技術を通じて双方向な流れに変えたという点で,パブーが果たした役割は大きいと筆者は感じています。出版社の立場としても,こうしたソーシャルが持つ良さ・可能性は参考にして,新しい出版の可能性を,電子出版に取り込んでいきたいと考えています。

海外からの動き(Google,Amazon)

すでに電子出版ビジネスが先行している米国からも,日本をはじめ世界を意識した展開が進み始めています。その最右翼は何と言ってもGoogleです。

現在,Googleは検索サービスの1つとして「Googleブックス」を提供しており,同サービスに登録された書籍についてはGoogleの検索対象になり,書籍全体内容のうち最大20%を,無料でWeb経由で閲覧できるようになっています。2010年12月6日,まず米国国内にて,Googleブックスのオプションとして「Google eBooks」が発表されました。これにより,Google eBooksの対象となるコンテンツの内容が100%検索対象となり,Webブラウザや専用アプリを通じて閲覧できるようになります。コンテンツを提供する出版社(コンテンツプロバイダー)側は,対象コンテンツに応じて有料・無料など価格設定を行うことができるというサービスです。詳細は以下の記事をご覧ください。

また,Amazonとしては2009年後半にリリースした,Amazon Kindle 2国際版の提供以降,正式な発表はなされていませんが,今後の同社の取り組みには注目していきたいところです。

以上,2010年の振り返りをしながら見えてきたのが,

  • 電子出版を行うためのプラットフォームが整備されつつあること
  • コンテンツが不足していること
  • Webを活かしたサービスが増えてきていること

です。これらの状況をきちんと認識し,課題と方針を決めることが,2011年の電子出版ビジネスの始まりとなるでしょう。

余談ですが,2010年の電子出版ビジネスとして,最も成功したのは「電子出版をテーマにしたセミナー」「電子出版を題材とした書籍・雑誌」ではないかと感じています。2011年は,主役としての「電子出版」を活かした電子出版ビジネスの普及に期待するとともに,筆者自身さらに関わっていきたいと思っています。

2011年の電子出版ビジネスの展望

最後に,電子出版ビジネスの展望について,筆者なりにまとめてみました。

コンテンツが増える

コンテンツが先かプラットフォームが先か,この議論は引き続き続いていくでしょう。ただし,2010年である程度プラットフォームの展望は見えてきました。まず,デバイスについては専用端末に加えて,各種スマートフォン(6~7インチ程度のディスプレイ)が主流になると予想できます。

2011年はこれらに向けたコンテンツの整備が進んでいくことでしょう。すでに,パブーのように従来の出版業界のプレーヤーを無視する形で出版をするための環境は整っていますので,ユーザ主導型コンテンツというのはますます増えていくと感じています。

一方,出版社をはじめ従来の出版業界のプレーヤーがコンテンツを増やしていくためには,コンテンツ企画力,制作力はもちろんのこと,それ以外に,書き手や著作権保持者との契約問題を整備していくことが必要だと感じています。

これは,関係性を契約で縛ってしまうということを意味するのではなく,どういう形でコンテンツを提供していくべきなのか,紙のモデルと電子のモデルではどう違うのかを再確認した上で,従来の出版契約や著作権契約を見直し,必要であれば修正を加えていく必要があるということです。そのためには,前述した業界横断的に組織されている各種団体の活動が重要になるでしょう。

また,その中で,電子出版における出版社や編集者の立ち位置がどこにあるのか,再確認する必要があると感じています。

そして,契約面を考える上で大事なのが販売システムの再構築です。読者にコンテンツを届けるための仕組みとして,従来の販売流通のような在庫管理・流通システムではなく,電子制作物を配信するための,サービス提供型のシステム構築が求められると感じています。そこで,ビジネスとして関係者全員に収益を再配分するための仕組みを考えなければなりません。

グリッドレイアウトとWeb化の動き

続いて,コンテンツ企画と制作に関して展望を述べてみます。個人的には,2010年の動きからフォーマット論争に1つの方向が見えてきたと感じています。それは,固定された画角(サイズ)の中での表現の自由化です。たとえば,iPhoneで小説を読んだり,GALAPAGOSで雑誌を読む際に,機能として,文字サイズを変えたり,レイアウトを縦横変化させたりすることが可能ですが,これは読者が「読む」という行為の中では頻繁に起こる動きではありません。逆に,最初にある程度自分が読みやすいサイズに固定して,あとはそのレイアウトの状態でページをめくり,読み進めていくわけです。

この動きというのは,実はWebサイトを見る動きに通ずるものがあります。つまり,異なるディスプレイサイズ,異なるWebブラウザのウィンドウサイズ上で文字サイズを固定したり,バナーをクリックしたり,ページを移動したり,あるいはスクロールして読み進めるというものです。この点は,用紙サイズの中で固定される紙のデザインレイアウト,いわゆるグリッドレイアウトとは異なる,電子出版物ならではのデジタルデザインにも当てはめられる部分と言えるでしょう。

そこで,2011年はWebサイトで作り出せるユーザ体験を,電子出版物に取り込んでいくことが1つの方針になるのではないかと考えます。また,企画面においては,紙/Webに限らず読者にとって「面白い」⁠読みたい」と思わせることはもちろんのこと,やはり,紙では表現できなかった動的な動き,あるいは検索やデジタルしおりといった利便性の向上が必須となるでしょう。

それ以外に,紙の出版物を提供しているのであれば,あえてリフローさせるコンテンツを作り出さずとも,PDFで提供するだけでも読者の利便性を満たすことは可能であると感じています。

読者が望むか望まないかの前にコンテンツを増やす

筆者が2010年の電子出版で感じたのは,今,読者が求めているのはコンテンツの数です。日本の電子出版市場の90%がケータイ向けコンテンツ(マンガやライトノベル(ラノベ⁠⁠)と言われている理由の1つは,マンガやラノベにはニーズがあるという側面のほかに,マンガ以外のコンテンツの数が絶対的に不足していることが挙げられます。とにかく,読者が望むか望まないかという議論とは別に,コンテンツの絶対数を増やすこと,これも2011年の電子出版市場が拡大するために必要な要素と感じています。

電子出版の全体的な話題に関しては,明日公開の高瀬拓史氏が書く「2011年の電子出版」でも取り上げられていますので,併せてご覧ください。

2011年のgihyo.jp

最後に,筆者が所属しているgihyo.jpの2011年度の電子出版ビジネスの展望について紹介します。

企画に関しては,gihyo.jpで取り組んできた「最新」⁠実用的」⁠面白い」というキーワードを意識したITやWebに関するコンテンツを予定しています。

さらに,ここまでも書いてきたとおり,筆者自身,電子出版ビジネスの可能性としてWebの技術や仕組みを取り組むことが重要と考えていますので,まずは新規の企画としてWebの観点から考える電子出版に取り組む予定です。具体的な展開の第一弾として,2011年春に向けてAndroid向けのアプリで読めるコンテンツの投入を予定しています。このほか,従来通りのiPhone/iPad向けのコンテンツ,PDFによるコンテンツ展開についても予定しています。

詳しくはgihyo.jpなどを通じて発表していきますのでお楽しみに。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室部長代理。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属,同誌編集長(2004年1月~2011年12月)や『Web Site Expert』編集長を歴任。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)の責任者として,イベントやWeb・オンライン企画を統括。現在は,技術評論社の電子出版事業を中心に,デジタル・オンライン事業を取りまとめる。社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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