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コンテンツの数と発売タイミングが大切になる1年――電子書籍と電子出版ビジネスの2013年→2014年

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読者を意識した電子書籍づくり

ここまで,2013年の動きを項目ごとに振り返ってきました。これからは,2014年に向けて,出版社として意識すべきこと,読者のニーズに関しての考察をしてみます。

コンテンツ数を増やすにはどうするか?

固定レイアウト型EPUBとリフロー型EPUB

冒頭で,EPUB(EPUB3)の普及について触れました。各書店がサポートし始めたことで,出版社としては今まで以上にEPUB(EPUB3)制作へ注力しやすい状況になったと言えます。しかし,ここで1つの課題があります。それは,複雑なレイアウトの表現です。

ご存知の方も多いと思いますが,EPUBというのは,International Digital Publishing Forum(IDPF)が制定する,電子書籍特化した標準フォーマットです。マークアップ形式で記述を行い,CSSを利用することでさまざまな表現を行えます。見た目以外にも,音声や動画を掲載することも可能です。

しかし,EPUB自体の特性,また,それを表現するためのビューワの限界から,表現できるレイアウトが制限されてしまうのが現状です。たとえば,筆者が所属する技術評論社が刊行する入門書のように,版面(ページレイアウト)が紙のサイズを意識しているものについては,固定されていることが前提になっており,電子書籍のように見るデバイスや環境によってレイアウトが異なる場合には不向きです。

これを解決する方法の1つが「固定レイアウト型」と呼ばれるEPUB形式です。これは,紙のレイアウトデザインをそのまま活かし,1ページ(または見開き2ページ)を1つの画像として扱うものになります。楽天Koboは,リリース直後からこの固定レイアウト型EPUBに対応しており,Amazon Kindleも2013年夏以降,固定レイアウト型EPUBをベースにしたフォーマットをサポートするようになりました。

その結果,出版社がすでに持っている書籍のデータを,EPUB形式に変換しやすくなり,とくに専門書・実用書を扱う出版社にとってはコンテンツ数を増やしやすくなったのです。これはコンテンツ数増という観点では大変良いことですが,1つだけ気をつけなければならないことがあります。それは,視認性・可読性の問題です。

つまり,レイアウトが固定されているため,スマートフォンで見る場合でも,10インチのタブレットで見る場合でも,レイアウトが一定となります。その結果,あまりに小さい文字や複雑なレイアウトに関しては,ディスプレイサイズが小さいデバイスでは非常に見えづらくなってしまうからです(この点については各電子書店で制作仕様を策定していますが,現状完全に守られているとは言えない状況です⁠⁠。

また,制作の仕方次第で検索機能に対応することができますが,現在,市場に出ている固定レイアウト型EPUBの多くは,検索機能に対応しておらず,せっかくの電子書籍のメリットを殺してしまっているとも言えます。

ですから,可能な範囲では,固定レイアウト型ではない,⁠リフロー型」と呼ばれるEPUBを制作することを筆者は勧めたいです。制作コストや技術的な難関は多くありますが,読者から見た読みやすさ・利便性の観点では,リフロー型EPUBが増えることが,電子書籍普及につながると考えているからです。

この点は,どちらか一方という話ではないと思いますし,ビジネス的な要因が大きく関係するため,非常に判断が難しいところですが,筆者としては電子書籍を制作する人たちが,⁠ただ楽だから固定レイアウト型EPUBをつくる」ではなく,コンテンツの特性をふまえて,固定レイアウト型/リフロー型EPUBを選択できる状況を目指したいですし,2014年はその基礎づくりの年を心がけていきたいと思います。

EPUB3派生問題

もう1つ,リフロー型EPUBに関して起きているのが,EPUB3派生問題です。

問題と表現すると大げさで,ちょっとネガティブに感じられるかもしれませんが,先に書いたとおり,EPUB,とくにEPUB3の電子書籍を作ることはまだまだ障壁が大きい状況です。これを解決すべく,各種団体や出版社が,⁠出版社が作りやすく,かつ,読者にメリットのあるEPUB3仕様」を制定する動きが出てきています。

たとえば,日本電子書籍出版社協会が2012年から提供している,通称電書協フォーマットや,KADOKAWAがKADOKAWA-EPUB PORTAL内で公開した仕様です。こうした動きは大変好ましいと思います。それでも,たとえば,電書協フォーマットの場合,IDPFが策定しているEPUB3仕様と比較すると,画像周囲をテキストが回り込むようなデザインや凝った見出しのレイアウトおよび固定型のレイアウト等が異なっているのが現状です。

このあたりについて,さまざまな意見が出ていますが,大手電子書店の電子書籍リーダーがIDPF準拠となっているあいだは,あまり独自仕様を派生させすぎずIDPF準拠の仕様に則ることが,読者にとっての読みやすさに加えて出版社としてのメンテナンス面ではメリットが大きいと筆者は考えています。

端末のハイスペック化への対応

コンテンツ制作に関して,もう1つ意識しておきたいのは,端末のハイスペック化です。2013年は,Kindle Fire HDX 8.9のようにディスプレイ解像度が非常に大きな端末が増えたり,また,楽天Koboからカラー端末Kobo Arc 7HDが登場してきています。

Kindle Fire HDX 8.9

Kindle Fire HDX 8.9

この動きは,端末で読む電子書籍の表現力が高まることにつながりますが,そのためには,とくに電子書籍内に含まれる画像データを,より高解像度にしていかなければいけなくなることも意味しています。現在は,まだデバイスの過渡期で,今挙げた2つのようなハイスペックな端末以外の,一世代,二世代前の端末が利用されているので,どの部分に焦点を当て,コンテンツを作っていくかというのは,出版社を含めた電子書籍制作・提供者側の課題といえるでしょう。

2014年は読みやすさとコンテンツ数が求められる年に

最後に,2014年に向けた電子出版・電子書籍の展望を述べたいと思います。

まず,先のBookLiveの調査報告から,アンケート回答者からの電子書籍に対する要望トップ3を紹介します。

  1. 安さ
  2. タイトルの増加
  3. 読みやすさ
この結果に挙げられた3点というのは,まさに今回の記事でここまで紹介してきたことであるのですが,これらをきちんと捉え,かつ,ビジネスとして展開していくことが電子出版・電子書籍を扱う出版社の次の命題になると,筆者は考えています。

まず,安さに関してですが,ここが実は一番難しい課題です。先ほど紹介した電子書籍100万人から教わったウェブサービスの極意―「モバツイ」開発1268日の知恵と視点 [Kindle版]Vagrant入門ガイド [Kindle版]は,前者はキャンペーン価格で320円,後者は通常価格で400円と,専門書の価格帯としては安い設定の上で売れたという見方ができるわけです。しかし,この点に関しては,コンテンツの価値として高価格帯のもの,2,000円,3,000円の商品も販売し,読んでいただけると信じていますし,実際,技術評論社から出ている3,000円以上の電子書籍も売れています。ですから,提供する側としては単に安さで勝負するのではなく,コンテンツの内容に見合った値付けを意識していきたいです。また,紙の書籍では出版制度上行えない,価格変動型キャンペーンというのを有効に活かすことも大切だと考えています。

2つ目のタイトルの増加,読みやすさについては,先ほど「読者を意識した電子書籍づくり」の項で述べたとおりで,とにかく読者が読みたいコンテンツを,読みやすい形で,数多く提供していくことが求められているわけです。出版社だけではなく,執筆者や制作者との協力により,これらを満たしていくことが2014年の最重要課題として認識しています。そのためには,技術評論社としてはもちろん,現在筆者が所属する「電子書籍を考える出版社の会」を通じて出版社間で協力しながら必要な情報をアウトプットするなど,市場形成・熟成の動きに少しでも寄与できる活動を行いたいと考えています。

もう1つ付け加えるとすれば,⁠発売のタイミング」です。これは2つの意味で考えていて,1つは紙の書籍がある場合,電子書籍をどのタイミングで出すかということです。電子書籍が普及すればするほど,なるべく同じタイミングで出すことが求められますし,そのためには制作面・ビジネス面両方で改めて出版戦略を考える必要があります。

もう1つは,電子書籍のみで展開する場合です。とくに,技術的な内容を扱うものの場合,技術の移り変わりを捉え,良いタイミングで発行することが必要となりますし,電子書籍であれば,紙の書籍よりもタイミングが合わせやすいという強みがあります。この,発売のタイミング,いわゆる電子書籍の鮮度は,電子出版ビジネスのカギを握っていくのではないでしょうか。

この新春コラムは今回で4回目となるのですが,過去3回と比べて具体的な話に触れられたと思っています。来年は,2014年の成果をきちんと振り返って,その次の5年後,10年後につなげられる内容をお届けしたいです。

2014年も技術評論社ならびにGihyo Digital Publishingをご愛顧のほど,よろしくお願いいたします。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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