インターネット広告とテクノロジーの行方

第1回2010年への潮流

はじめに

検索エンジン大手とECサイトの巨人が合併して、グーグルゾンが出現し、世界を席巻する...仮想の話ながら、話題になったEPIC2014(Flash動画)がネットを駆け巡ったのは2004年12月頃... その後、「Web2.0」の概念があっという間に広がり、昨今では何でも○○2.0が花盛りとなっています。

グーグル社によるユーチューブ、ダブルクリック買収、セカンドライフの登場と、EPIC2014どおりではないものの、インターネットビジネスは2010年以降へ向けて新しい時代へ突入しています。マイクロソフトによる米ヤフーの買収話は記憶に新しいところです。

EPIC2014では次のようなことが示唆されていました。

合併した両社はプラットフォームを統合して、人間関係、属性、消費行動、また趣味に関する詳細なナレッジを把握するようになり、コンテンツ、そして広告の包括的なカスタマイズを実現するようになる。

あらゆる情報ソースから事実や文章を自動的に抜き出して、それらをふたたび組み合わせることで、新しいコンテンツを動的に作り出し、それらをサービス化するようになる。既存のマスメディアはこれを阻止しようとするが...

これらはあくまで、空想の世界の話ですが、事実になるかも知れないほどここ数年でインターネットビジネスとテクノロジーは変化してきています。ここで示唆されていることは近い将来、空想とは言えなくなるかもしれません。 この連載では、これらのインターネットビジネスを広告とテクノロジーの両面から追いかけてみたいと思います。

インターネット環境の変化

すでに2010年以降に向けての変化の下地はできてきているようです。キーポイントを挙げてみたいと思います。

ブロードバンドの進化

総務省の発表によれば2007年12月末のインターネット接続回線の内訳はFTTH(光ファイバー)が1,133万契約、DSLは1313万契約でFTTHは平成16年以降、一貫して純増となっています。

高速接続環境がもはや当たり前になり、Gyaoに代表される動画コンテンツサービスも普及してきています。携帯もますます高速化・高画質へと進化していっています。

検索連動型広告の出現

アドワーズ、オーバーチュアに代表される検索連動型広告の出現がインターネットの広告ビジネスに変化をもたらしました。 最も、衝撃的なのは(理屈はシンプルなのですが⁠⁠、⁠消費者の要求にマッチした広告を表示する」点です。

これまでの広告モデルは、広告主・媒体側からのメッセージ(プレゼンテーション)といった色合いが強く、消費者には選択の余地がありませんでした。

例えばポータルサイトにおいて、ローテーションでバナー広告が切り替わることはあっても、消費者の得たい情報や、嗜好にあわせた広告の配信は実現できていませんでした。また、広告を出稿する企業側からみると、広告の表示順位が価格だけではなく、キーワードやコンテンツの適合性で決定されるという方式であることから、莫大な広告費をかけることができないが、魅力的な商品を持っていれば、効果的な広告を展開できるようになりました。

「検索する」といった行動から消費者の要求を読むことができる、なおかつ「テキストリンクはクリック効果がある」ところにフォーカスを当てたところもポイントです。

ユーチューブに代表される動画配信サービスの登場

投稿画像+検索といったモデルがビジネスの可能性があることを世界中に示しました(著作権の保護という影の部分はあります⁠⁠。米国では動画広告が2011年に 1500億を超す市場にあると予想する向きもあるようです。

ユーチューブの浸透した理由はそれまでの動画配信モデルと違って、ほとんどのブラウザがサポートしているFlash(Flash Vedeo形式)を採用した点もポイントです。

iPod/iPhoneに代表される新情報端末の登場

TVがネット化するか、PCがTV化(すでに実現されているが、あくまでPCとして販売されている)か、またはiPod/iPhoneのように新しいタイプの端末か?

2008年はiPhoneの登場、5万円を切るネットPCの普及と新情報端末が登場した年でもありました。今後も新しい端末が登場すると思われますが、キーポイントは「ネットとの接続」です。

また、コンセントからネットにつながるアダプター(PLC: Power Line Communication)も実用化されてきています。

オープンソーステクノロジーの観点から見ると、Linuxに代表されるオープンソースはインターネットビジネスに最も影響を与えたといっても過言ではありません。

ここでは3点挙げてみましょう。

(1)新しいモデル
特定の企業が独占する閉じた世界ではなく、ソースコードが公開され、バグフィックスや改良が有志の手によって行われる。 Wikipediaもプログラム開発ではありませんが、同じモデルであると言えるでしょう。
(2)優れた技術が無償または安価に手に入る
ベンチャー企業にとって初期コストが低下し、優れたサービスを早期にリリースすることができるようになってきています。しかも、技術レベルは高く、安定しています。日本でもほとんどのネット系企業はLAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)に代表されるオープンソフトを利用している事実があります。
(3)優秀なコードが優秀な技術者を育てる
優秀なコードや設計思想を学べることで、機会に恵まれなかった才能が育つ土壌が広がってきています。コンピュータの世界、特に"創造的"なソフトウエアの設計や実装能力は個人の能力が大きい分野です。一部の企業や研究所に従属していないと触れることのできなかった素晴らしいソースコードにアクセスできるということは新しい才能の出現を促進するでしょう。

IPネットワークの浸透

インターネットの通信は基本的にIPネットワークの上で成り立っています。あらゆる端末がIPで相互通信できるようされることにより、サービスの連携・統合化が進むことが予想されます。通信業界ではNGN(next generation network)がキーワードになっています。 このNGNもIPがベースとなっています。 NGNを構想している事業者はこれまでばらばらだった、放送、固定端末、移動端末の通信インフラを統合して様々なサービスがIPを通じて提供することを目指しています。

Web 2.0に見る消費者参加型メディアの出現

社団法人日本広告主協会・WEB広告研究会(2007年2月のリリース)によると、主なCGMサイトの訪問者数は2006年9月時点で、3529万人で、ページビューは前年の2倍、インターネット全体(4380万人Active reach)に占める利用者数は80.5%に上り、またCGMの1人あたりの訪問頻度や平均利用時間は、企業サイトを超えており、利用者規模も超える勢いだそうです。

SNS、ブログに代表される消費者参加型のサービスにより、「ホームページを閲覧する:片方向のコミュニケーション」から「参加する:双方向のコミュニケーションへ」、誰もが発信者であり、受信者であることができる社会になってきました。

P2Pネットワークも双方向のコミュニケーションの新しいサービスを切り開くかも知れません。

インターネット広告の変化

前述のインターネットの変化は既存のマスメディアや広告会社、企業にも新しい変化を求めてきています。

実際にインターネット上のビジネスの収益源は次の3つです。

  1. 広告
  2. ECサイトに代表されるネット販売
  3. 利用料などの課金

電通総研の2007年4月の発表によると、2011年のインターネット広告費は全体で7558億円に成長する見込みだそうです。 広告はアメリカマーケティング協会によると、以下のように定義されています。

advertising - ⁠The placement of announcements and persuasive messages in time or space purchased  in any of the mass media by business firms,  nonprofit organizations, government agencies, and individuals  who seek to inform and/ or persuade members of a particular  target market or audience about their products, services, organizations, or ideas. ⁠

(特定のターゲットのマーケットまたはオーディエンスに対して製品、サービス、団体やアィディアを伝達・訴求するために企業、非営利団体、政府期間、個人によってマスメディア内のいずれかに購入されたスペースに説得力のあるメッセージを置くこと。)

広告の定義(アメリカマーケティング協会による)

前に述べたようにこの定義は広告を出稿するまたは提供する媒体側の発想に立っています。

しかし、これまで述べてきたインターネットの変化は広告においても"片方向のコミュニケーション"から"双方向のコミュニケーションへ"を求めていくように思われます。

これまでとこれからの広告モデル今後は広告モデルのあり方も片方向ではなく双方向、「視聴率重視」から「視聴者重視」への変化を迫られているのはないでしょうか。

「視聴率重視」から「視聴者重視」へ
 「視聴率重視」から「視聴者重視」へ

インターネット広告も、PC、携帯端末以外のデバイスへの広告表示や、ゲーム広告、セカンドライフのような仮想空間への広告など新しいモデルが出現、浸透していくと思われます。

次回は「インターネット広告のビジネスモデル」を考察してみたいと思います。

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