ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第3回 ユーザーにとっての福音?-「引用」ルールの可能性とその限界

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適法な「引用」と違法な「複製」の境界

(2)
「自分の研究のための資料収集と,興味関心を同じくするネットユーザーへの情報提供を兼ねて,特定の話題を扱った各種メディアの記事を自分のホームページに全文転載し,必要に応じてコメントを入れたりしているのですが,これも「引用」だからセーフですよね?」
(3)
「若者に対する過激な言動で知られる著名経営者A氏を批判する目的で,その人物が経営する会社のホームページからA氏の写真をコピーし,"角を生やす""鞭を持たせる"といった加工をして自分のブログの記事の中に取り込んでいるのですが,これは批評目的の「引用」として許されるのではありませんか?」

他人の「著作物」を利用する目的は人それぞれで,中には上に挙げたような目的で「著作物」⁠上の例でいえば,⁠記事の文章」「写真⁠⁠)を利用したい,という人もいることでしょう。

目的は異なりますが,いずれも,他人の「著作物」があったほうが,自分の表現を効果的に伝えるには好都合であることに変わりはありません。

しかし,このような行為は,⁠引用」に関する著作権法の条文や,これまでの判例で示された基準に照らすと,適法なものといえるか極めて疑わしいものであるといえます。

「他人の写真集等に掲載されたカラー写真を改変した(一部をカットし,白黒とした上でタイヤの写真を合成した)作品を自己の写真として週刊誌等に複製掲載した行為」が問題になった事例について,最高裁は,

「引用にあたるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ,かつ,右両著作物の間に前者が主,後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」

(最高裁昭和55年3月28日判決)

と述べて,上記利用行為の「引用」該当性を否定しました。

ここで示されている,「明瞭に区別できること⁠⁠,「利用する側の著作物と利用される側の著作物が主従関係にあること」という要件は,先に挙げた著作権法32条(引用)の条文から直ちに導きだされるものではありませんが,著作権法の条文に記された曖昧な要件(⁠⁠公正な慣行に合致」等)に比べるとわかりやすいルールであること,そして,最高裁が示した重みのあるルールであることから,その後の裁判例の中でも繰り返し用いられています。

また,著作権法の条文上,⁠引用」の際に認められる著作物の利用態様として「変形」「翻案」といった行為が明記されておらず(著作権法43条2号⁠⁠,元の「著作物」をそのまま「複製」する場合の他には,著作権法43条2号に明記されている「翻訳」しか認められない,という解釈が有力であることや,

次の各号に掲げる場合には,当該各号に規定する著作物の出所を,その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により,明示しなければならない。

  1. 第32条(注:引用に関する規定⁠⁠,(以下略)

著作権法第48条(出所の明示)

この款の規定(注:引用に関する第32条の規定を含む)は,著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

著作権法第50条(著作者人格権との関係)

といった規定があることから,仮に①,②の要件を満たす場合であっても,③著作者の氏名を表示しなかったり,他人の「著作物」を無断で改変して取り込んだりしたような場合には,適法な「引用」と認められない,あるいは,同一性保持権,氏名表示権といった著作者人格権侵害(広義の著作権侵害)となるという解釈が導かれることになります。

「著作物」に関する権利としては,これまでご説明してきた「⁠⁠狭義の)著作権」のほかに,⁠著作者人格権」⁠公表権,氏名表示権,同一性保持権⁠⁠,というものが存在します。前者が「著作物」の財産的価値を保護するものであるのに対し,⁠著作者人格権」「著作物」を創作した人の"人格"にかかわる利益(⁠⁠著作物」に対する一種の"こだわり")を保護するものである,という点に違いがあるのですが,⁠著作者人格権」を侵害した場合でも,利用の差し止めや損害賠償といった制裁が科されることに変わりはありませんので,⁠著作物」を利用する場合には,⁠狭義の)著作権」だけでなく「著作者人格権」にも注意する必要があります(⁠⁠著作者人格権」については,別の回であらためてご説明する予定です⁠⁠。

したがって,上に挙げた例の中のうち,(2)については,利用する側の「著作物」⁠自分のホームページ及び引用記事に対するコメント)と利用される側の「著作物」⁠各種メディアの記事)が,質的・量的に主従関係にあるかが問題になりますし,(3)についても,利用された「著作物」⁠A氏の写真)との関係で,利用する側の「著作物」⁠ブログの記事)「主」といえるか,さらに,A氏の写真に対して行った「加工」「著作物」「翻案」や同一性保持権を侵害する「改変」にあたらないか,といったことが問題になってきます(また,いずれの場合においても,利用される側の「著作物」の出典や著作者名を明示していなければ,氏名表示権侵害が成立する可能性があります⁠⁠。

どの程度手を加えれば,翻案や改変にあたるのか,というのは微妙な問題です。教科書準拠教材の作成に際して,原作の文章に傍線や波線を付加したり,一部を太字にして強調する程度であれば「改変」にあたらないとした裁判例(東京地裁平成18年3月31日判決)などもありますので,軽微な修正であれば,大丈夫と言いたいところではありますが・

実際にも,ある宗教団体を批判する目的で,その団体の名誉会長の写真(第三者によって改変されてインターネット上に出回っていたもの)を自分のホームページに掲載した行為が,⁠引用」にはあたらない,とされ,宗教団体側の損害賠償請求が認められた例(東京地裁平成19年4月12日判決)もありますので,注意が必要です。

このように見てくると,無用なトラブルを避ける,といった観点からは,

(1)取り込んだ他人の「著作物」を,自分自身の作成した文章・図画等と明確に区別できるか(⁠⁠囲み」「カギカッコ」等が適切に付されているか⁠⁠。

(2)他人の「著作物」を必要以上に取り込み過ぎていないか(一部に言及すれば足りるのに,面倒だからといって全文丸々取り込んだりしていないか⁠⁠。

(3)取り込んだ他人の「著作物」について,著作者の氏名や出典元の表記を適切に行っているか。

(4)取り込んだ他人の「著作物」を,勝手気ままにいじっていないか(文章の表現を変えたり,画像を加工したり,原文の面影を残したまま要約したりしていないか⁠⁠。

といった点に配慮し,これら(1)(4)をクリアできない場合には,原則に立ち返って,利用しようとしている「著作物」の権利者にきちんと確認を取るのが望ましいといえます。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。