ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第3回 ユーザーにとっての福音?-「引用」ルールの可能性とその限界

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「引用」ルールのこれからの可能性

さて,ここまでお読みになって,⁠何が『福音』だ!結局,窮屈なことに変わりはないじゃないか。」とお思いになる方も多いかもしれません。

確かに,判例も含めた現在の「引用」ルールに則って第三者の「著作物」を利用しようとすると,第三者の「著作物」を用いた"パロディ"や,"比較広告"(例えばライバル会社が宣伝で使っているフレーズを逆手にとって自社の製品をPRするなど)なども,著作権侵害とされる可能性が出てくることになり,"思い切った表現ができない"状況に置かれることになります。

冒頭で取り上げた1)⁠応援記事)のようなケースと違って,"パロディ"や"比較広告"のような利用の仕方をする場合には,権利者に許諾を求めることが躊躇われることも多いでしょう(また,仮に許諾を求めたとしても,拒絶される可能性が高いでしょう)⁠

にもかかわらず,こういうときに「引用」のルールを使えない,というのでは意味がないじゃないか,ということは誰しも感じることで,そこに「フェア・ユース」条項のような包括的な権利制限規定を持たない我が国の著作権法の限界があるともいえます。

しかし,権利の行使が制限される場面が極めて限定されている著作権法の諸ルールの中では,今回ご紹介した「引用」のルールが,法律の条文上もっとも制約が少なく,⁠著作物」を利用するユーザーの表現の枠を広げる可能性を秘めた数少ないルールであるのも事実です。

「公正な慣行」が,時代とともに変わりうる概念であることを考えれば,インターネット文化の発展によって,他人の「著作物」を利用した新しい表現が認められるようになる余地もないとはいえないでしょう。

今は,ユーザーにとって,"もう少しの辛抱"というべき時期なのかもしれません。

最近では,ネットオークションの出品物を紹介するためにオークションサイト上に当該出品物の画像を掲載する行為を「引用」ルールによって正当化しようとする解釈論(学説)も出てきています。現時点ではまだ通説となるには至っていない状況ですが,⁠引用」ルールの可能性を考える上では興味深い動きといえるでしょう。

なお,最後に,応用問題として,一つの事例を挙げておきます。

(4)
「ある会社のホームページに掲載された商品の宣伝文を,自分のブログで取り上げて紹介しようと思ったのですが,その会社のホームページには,⁠当社に断りなく行われる一切の転載・複製・引用を禁じます』という記載があります。このような場合,⁠引用」のルールに則って利用したとしても,その会社の許可を得ない限り,著作権侵害になってしまうのでしょうか?」

企業や著名人のホームページなどには,⁠一切の・を禁じます」といった注意書きがよく付されていますが,このような場合には,著作権法のルールに則った「引用」を行うことさえも否定されてしまうのでしょうか?

自分の会社のホームページに,不用意にこんな注意書きを付してしまうと,上記のような問い合わせをたくさん浴びることになってしまうわけで,そこは気をつけないといけないところなのですが(苦笑)⁠結論からいえば,きちんと「引用」の要件を満たしていれば,⁠できる」といって良いのではないかと思います。

ホームページ上の記載はあくまで一方的な意思表示に過ぎないのに対し,⁠引用」のルールは,ユーザーの利便性を高めるために,法律が特別に認めた重要なルールなのですから,前者が後者に優先する,というのは常識的には考えにくいところです。

著作権法の第一人者である中山信弘・東大名誉教授も,⁠引用は著作権法が認めている重要な権利の制限であり,著作権者の一方的意思表示によりこれを禁止することはできない」として,一方的表示は「法的には意味のない記載」だと断言されています(中山信弘『著作権法』⁠有斐閣,2007年)262頁)⁠

もっとも,法的に正しいことをしたからといって世の中うまくいくとは限らないわけで,それは「引用」に関しても例外ではありません。

ここは,他人の「著作物」を利用する目的や利用することの必然性,そして,それによって「著作物」を利用される側がどのような感情を抱くか,といった点を考慮し,⁠引用」のメリットとデメリットを見比べた上で,個々のケースに即した判断を試みるほかない,ということになるでしょう(と,言うは易し,行うは難し・で,このあたりは,個々人のセンス,あるいは,実務家としての腕が試される場面となります)⁠

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。