ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第5回 「著作物」は生き物である-「著作者人格権」という不思議な権利

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著作権法の条文をよく読むと,それぞれの権利を規定した項の後ろに,例外として権利が制限される場合も同時に規定していることがわかります。

例えば,氏名表示権に関しては,

著作者は,その著作物の原作品に,又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し,その実名若しくは変名を著作者名として表示し,又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても,同様とする。

2 著作物を利用する者は,その著作者の別段の意思表示がない限り,その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示することができる。

3 著作者名の表示は,著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは,公正な慣行に反しない限り,省略することができる。

(以下略)

第19条(氏名表示権)

といったように,⁠著作者の明示的な意思がなくても一定の著作者名の表示方法を推定する」規定や,⁠著作者名表示の省略」を一定の場合に認める規定を設けていますし,同一性保持権に関しても,

著作者は,その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けないものとする(第1項)⁠

2 前項の規定は,次の各号のいずれかに該当する改変については,適用しない。

  • 1.第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)⁠第33条の2第1項又は第34条第1項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で,学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
  • 2.建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変
  • 3.特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため,又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
  • 4.前3号に掲げるもののほか,著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

第20条(同一性保持権)

といったように,第2項が著作物の利用者サイドで改変することが許される場合について規定しています。

(2)で問題となっているような,⁠イメージ画像」としての写真の使用に際しては,撮影者たる著作者の氏名を表示しない方が一般的であるように思われますし(もっともそれが「公正な慣行」とはいえない,と言われてしまえばそれまでですが)⁠写真に加えられた「改変」の中で,デジタル化するという行為の性質上「やむを得ないと認められる」⁠例えば解像度の関係で元の色が十分に再現できない等)ものについては,上記のような条文上の制限規定を活用できるようにも思えます。

もっとも,著作者個人の「人格的利益」を保護するもの,という著作者人格権の性格ゆえ,上記のような条文上の制限規定は,どうしても「例外的なもの」として謙抑的に解釈される傾向があります。

「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」について「同一性保持権」の行使を制限する第20条2項4号の規定などは,広く解釈しようと思えばいくらでも使い道はありそうなものですが,一般的には,

「やむを得ない」といえるのは第1号から第3号に列挙されている事由と同程度の(高度の)必要性がある場合に限られる」

という解釈が採られています。

そうなると,⁠レイアウト上の都合」といった程度の理由では,著作者による「同一性保持権」の行使を免れることはできそうもありません。

では,(2)で写真の改変を行ったB社は,必ず著作者の要求に応じなければならないのでしょうか。

実は,B社による写真の改変が適法なものとされる余地も,ほんの少しだけ残されています。次章では,著作物の円滑な流通を支える「実務の知恵」の一端をご紹介したいと思います。

「著作者人格権の強さ」を知らしめてくれる一例として,国語教科書副教材(教科書準拠解説書や準拠テスト等)をめぐる一連の訴訟があります。副教材を作成する以上,原文の一部を空欄にしたり,問題の解答に必要がない部分を削除する等の改変は不可避だと思われますが,裁判所は,⁠このような改変は,第20条2項1号にも4号にもあたらない(列挙事由と同程度の必要性がある場合とはいえない)⁠として,同一性保持権侵害を否定しています(東京地裁平成18年3月31日判決)⁠元々著作物の利用そのものについて著作権者の許諾を得ていないケースであり,しかも,それ以前の判決に比べれば同一性保持権侵害が認められる範囲は狭くなっている(挿絵を挿入したり,傍線等を付したりする行為については同一性保持権侵害を否定している)⁠といった事情はありますが,もう少し柔軟な解釈はできないものか,と思わずにはいられません。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。