ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第6回 社員のモノは会社のモノ? -「職務著作」という考え方

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応用編~直接の雇用関係がない場合に「職務著作」ルールを適用できるか?

ここまで,会社と雇用関係にある者が著作物を作成した場合を念頭に置いて,⁠職務著作」ルールを見てきましたが,このルールが問題となるのは,会社と著作物を作成した個人との間に雇用関係が存在する場合だけではありません。

例えば,次のようなケースが考えられます。

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Y社では,ここ数年,商品パッケージのデザイン制作をフリーデザイナーであるX氏に依頼していました。 Y社はX氏との間で雇用契約等を結ぶことなく,あくまで業務請負契約に基づいて仕事を依頼していましたが,X氏がまだ駆け出しの若手だったこともあって,仕事を依頼した際には,Y社内にX氏のための作業場を設け,Y社の担当者が直接具体的な指示等を出す形で作業が進められていました。また,制作されたパッケージには,制作者としてのX氏の氏名等は記載されていませんでした。

やがて,報酬をめぐってトラブルが起きたことからX氏とY社の関係は疎遠になってしまいましたが,Y社では,業務請負契約の中に,⁠制作されたデザインの著作権はY社に帰属する」という条項を盛り込んでいたこともあって,その後も引き続きデザインをパッケージに使用し,新しい商品に合わせてデザインを一部改変するなどの利用行為を行っていました。

ところが,ある日,X氏より,⁠貴社が使用しているデザインの著作者人格権は,私個人に帰属するものであるから,私に無断でデザインを改変することは認められない。この状況が改善されないのであれば,訴訟も辞さない」という抗議が来ました。

このような状況を受け,Y社としては,今後どのように対応していくべきでしょうか。

ここで,X氏が制作した著作物に対して「職務著作」ルールが適用されず,X氏個人が「著作者」となった場合でも,契約中の「著作権はY社に帰属する」という条項により,⁠著作(財産)権」そのものはY社に移転すると考えられます。

しかし,前回の連載で説明したとおり,⁠著作者人格権」は著作者の一身に専属する権利ですから,"著作者がX氏個人"ということになれば,著作者人格権はX氏の下に残ったまま,ということになり,Y社によるその後の著作物の利用に制約が出ることは否めません。

そこで,Y社としては,X氏との関係において「職務著作」ルールを適用できるかどうかが,大きな関心事となってくるのです。

最高裁は,⁠観光ビザで滞在してアニメーション製作に従事していた外国人デザイナー」「法人等の業務に従事する者」に当たるかどうかが争われた事件で,

「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。

(最高裁平成15年4月11日判決)

と述べて,雇用契約が成立していないことを理由に「職務著作」ルールの適用を否定していた高裁の判断を覆しました。

この理屈で言えば,契約上は「請負」⁠受注者側の業務遂行上の独立性が強いため,前記の要件を満たさず,本来は「職務著作」ルールの適用が想定されない)であっても,その作業が,発注者による強度の「指揮命令・監督関係」に基づいて行われている,という実態が存在するのであれば,⁠職務著作」ルールを適用して,当初から発注者側に「著作権」「著作者人格権」がともに帰属する,という結論を導くことも可能,ということになります。

近年,⁠請負契約に基づいて作業を発注しているにもかかわらず,発注者側が請負事業者のスタッフに対して直接指揮命令・監督を行う」という行為が"偽装請負"として社会的に厳しい批判を浴びています。そのような世相を考えると,⁠違法行為によって作らせたにもかかわらず,成果物に関する権利は全て発注者に帰属する」という上記のような帰結に違和感を抱く方もいらっしゃるかもしれません。
しかし,雇用態様をめぐる労働法のルールと,著作権,著作者人格権を誰に帰属させるべきか,という著作権法のルールは,本来まったく別の次元で議論されるべき話です。特に,著作権法の「職務著作」ルールは,実際に著作物を作成した者の保護だけではなく,作成された著作物を利用する者の利益にも配慮して作られているものですから,たとえ違法・脱法行為であったとしても,外部から見て会社の直接の指揮命令下で作成された著作物については,会社を「著作者」とすることに理があるのではないでしょうか。

各種コンテンツやソフトウェアの制作・開発現場では,既に様々な雇用形態に属するスタッフが混在して作業にあたっている,というのが実態ではないかと思います。

「職務著作」ルールは,先に挙げた「請負」をはじめ,⁠派遣⁠⁠,⁠出向」といった様々な雇用形態のスタッフに適用しうるものですが,仮に適用するとしても,前記の要件だけでなく,②~④の要件についても,きちんと満たしているか,ということは当然問題になってきますから,会社の中でルールを運用する側としては,正社員の場合以上に注意を払う必要があるといえるでしょう。

なお,労働者派遣契約に基づいて派遣されているスタッフが著作物を作成した場合,"派遣先"との関係では,⁠著作物作成の対価が直接支払われていないので,最高裁の判決によれば『法人等の業務に従事する者』といえない」という問題要件①が,"派遣元"との関係では,⁠派遣元会社の名義の下での公表が予定されている著作物ではない」という問題要件④が生じてきます。
正社員か派遣社員か,によって作成したものに関する権利の所在が異なる,という帰結は明らかに不自然ですから,妥当な結論を導き出すために,現在様々な解釈が試みられていますが,実務サイドとしても,就労開始前に,派遣先会社‐派遣元会社‐派遣される社員の三者間で,著作権譲渡,著作者人格権不行使,成果に対する対価の支払い等に関する特約を契約のオプションとして盛り込んでおくなどして,後々の憂いを取り除いておくべきだといえます。

おわりに

今回は,仕事柄,もっぱら会社の側の視点から筆を進めてきましたが,冷静に考えれば,私自身も,いつ冒頭で紹介したA氏のような立場になるか分かりません(さすがに,今書いている原稿が会社の著作物になることはないと思いますが(笑⁠⁠。

公と私の別が曖昧なのが,日本の会社の良いところでもあり悪いところでもある,というのは良く言われていることですが,著作物の作成に関していえば,会社や取引先との間で不毛なトラブルを引き起こさないためには,どこまでが"会社の仕事"としての成果で,どこからが"個人のワーク"に属する成果なのか,日頃からもっと意識しておかないといけないのかなぁ・と思った次第です。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。