ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第8回 口約束は災いのもと~著作権トラブルから身を守るための「契約」

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著作権を譲渡するための「契約」

 
(2)

Y社は,経営不振に陥ったZ社から有望なソフトウェアCの著作権を買い取るとともに,プログラムを一部修正して自ら開発したソフトウェアとセットで販売しようと考え,Z社との間で著作権譲渡契約を締結しました。当該契約の契約書には,⁠Z社はY社に対して,ソフトウェアCの著作権を全部譲渡する」と明記されていたため,Y社は安心して準備を進めていましたが,販売を開始する直前になってZ社より,⁠貴社にはソフトウェアの修正(翻案)版を作成して当社に無断で販売する権限はない」というクレームが来たため,Y社ではCの改良版の販売を中止することになり,多大な損害を被ることになりました。

「著作権を譲渡する」という契約は,ユーザー側が著作物を製作するために多額の投資を行い,それを幅広く利用することを予定している場合などに良く用いられます。

上記(2)のように「真正面から著作権の譲渡に関する契約を締結する」ケースもあれば,後述する(3)のように,⁠業務委託等の契約の中で,⁠著作権の帰属』を定めることにより,実質的に著作権譲渡の効果を発生させる」ケースなど,いくつかのパターンはありますが,いずれにしても,権利の所在そのものに変動が生じることになりますから,慎重な協議に基づき,⁠契約書」の作成等厳格な手続きを経て契約が結ばれるのが一般的です。

そして,上記(2)もそのような手続きを踏んで契約書が作成されているケースであり,しかもY社がZ社と交わした契約書の中には,⁠著作権を全部譲渡する」と明記されていますから,Y社がソフトウェアCに関する著作権をすべて取得することになり,譲り渡したZ社による改良版の販売行為は許されない,と理解するのが当然であるように思われます。

しかし,著作権法は,著作権の譲渡契約について,以下のような規定を設けています。

著作権者は,その全部又は一部を譲渡することができる。

2 著作権を譲渡する契約において,第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。

第61条(著作物の譲渡)

ここで,⁠第27条に規定する権利」とは「翻訳権,翻案権等」として括られる権利であり,⁠第28条に規定する権利」とは「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」を指しているのですが,要するに,この規定は,単に「著作権を(全部)譲渡する」と書いただけではこれらの権利は譲渡されず,契約上これらの権利も含めて譲渡することを「特別に掲げる」必要がある,とするものです。

そして,ソフトウェアCの改良版を作成する行為は,第27条に規定された「翻案権」を行使するものに他なりませんから,Y社‐Z社の間の契約書の中で,⁠翻案権」も含めて譲渡することが明記されていない上記(2)のケースでは,⁠推定」を覆すような事情(⁠莫大な対価を支払っている」といったような,⁠翻案権」も含めて譲渡されたと言えるような事情)がない限り,翻案権は依然としてZ社に留保されている,と解釈される可能性が高いといえます。

実務的には,⁠全部譲渡する」に続けて,著作権法第27条及び第28条に規定された権利を含む)⁠といった文言が入っていればクリアできる問題だとされていますが,現場レベルの契約だと,そこまで徹底するのはなかなか難しいところで,上記(2)のような話がどうしても出てきてしまいます。

また,次のようなケースも問題になります。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。