読むウェブ ~本とインタラクション

第9回デジタル・ブックストア

雑誌の「ディスプレイ読み」

深夜、他人のブログを見て、紹介されていた本を無性に読みたくなることがある。おもわず、Amazonで買ってしまうことも少なくないが、内容によってはデジタルでも良いと思うようになってきた。デジタル化された本なら、買ってすぐにダウンロードして読めるからだ。最近、大型のPCディスプレイを購入したことも影響している。もちろん、小説など活字中心のものをディスプレイで読むのは辛いが、ビジュアル要素が含まれている雑誌などはそれほど苦にならない。

XGA(1024×768ピクセル)程度の解像度ではズームの操作が必須となり、落ち着いて読む気になれないが、UXGA(1600×1200ピクセル)くらいあれば一覧性が確保されるため印象が変わってくる。あとは「慣れ」の問題だろうか。いずれにしても、デジタル化された本や雑誌を読むことに以前ほど抵抗がなくなってきている。

人間の欲求には際限がない。利便性に満たされてくると、また新たな欲求を求める。ブロードバンドで大型ディスプレイという環境が整っているなら、⁠今、読みたい」という欲求が強いほど「ディスプレイ読み」の動機につながっていくはずだ。このようなスタイルの定着はそれほど先の話ではないような気がする。

デジタル化された雑誌の販売

富士山マガジンサービスの「Fujisan.co.jp」
販売されているデジタル雑誌
富士山マガジンサービスの「Fujisan.co.jp」で販売されているデジタル雑誌

株式会社富士山マガジンサービスは2月、デジタル化された雑誌の取り扱いを開始した。提携雑誌はダカーポ(マガジンハウス⁠ニューズウィーク日本語版(阪急コミュニケーションズ⁠FQ JAPAN(アクセスインターナショナル⁠毎日ウィークリー(毎日新聞社⁠⁠」など28誌あり、発売日に購読することが可能だ。内容は紙媒体の雑誌とまったく同じ、丸ごとデジタル化されたものである。

雑誌のページを開くと、基本情報[A⁠⁠、詳細情報[B⁠⁠、立ち読みコーナー[C⁠⁠、読者のレビュー[D]などが掲載されている。立ち読みできるのは最新号ではないが、Flash形式になっているためWindowsだけではなくMac OSでも閲覧でき、印刷も可能だ。無料の見本誌も用意されているが、閲覧には後述する「Fujsan Reader」が必要となる。

デジタル雑誌のページ(例:マガジンハウスのダカーポ)
デジタル雑誌のページ(例:マガジンハウスのダカーポ)
デジタル雑誌を閲覧するための「Fujsan Reader⁠⁠。検索機能、メモ帳機能、付箋機能、ハイライト機能などを搭載している
デジタル雑誌を閲覧するための「Fujsan Reader」

富士山マガジンサービスは2002年、雑誌の定期購読をオンラインで受け付ける総合窓口としてスタート。現在、提携雑誌は2400誌を超えている。同社の西野伸一郎社長はAmazon日本法人の創業者の一人である。

デジタル雑誌のDRM

オンラインマガジンには「Webだけで公開されるマガジン⁠⁠、⁠紙媒体の雑誌と連動したオンラインマガジン⁠⁠、そして今回ご紹介した「紙媒体のデジタル化」の3つに大別できる。出版社として動きやすいのは、コスト負担の少ない雑誌のデジタル化だ。たしかにAmazonなどのネット書店を利用する人は増えているが、米国でも小売り全体では10%程度だといわれている。多くの人はまだ書店で買っているのだ。つまり、部数が多い大手ほどネットに集中しにくいのが現実。ただし、デジタル化の流れは確実に進行しているため、ノウハウを蓄積していくにはネットで扱いやすい雑誌などから順次、動かしていくことが重要となる。

その取っ掛かりとして、出版社がクリアしたいのはコピーの問題。富士山マガジンサービスでは、米国のZinio社と提携してビュワーソフトの技術を取得。デジタル雑誌を読むために必要な「Fujsan Reader」は、⁠Zinio Reader」を日本語仕様にローカライズしたものだ。Zinio社は、400誌をデジタル化しており、この分野では90%のシェアを獲得。同社の技術は、DRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)機能に優れており、世界中の多くの企業が採用している。

Zinioのサイト
Zinioのサイト

雑誌の「検索読み」という新しいスタイル

Zinio社のサイトにアクセスして右上のSEARCH欄に「Adobe CS3」と入力してみてほしい。Adobe CS3に関する情報が、どの雑誌の何ページに掲載されているか一覧される。そして、実際に掲載ページを見ることができるのだ(対象ページは画像で表示される⁠⁠。注目すべき点はこの「検索」機能である。ネットのコンテンツとしてはもはや当たり前の機能で、サービスとしての新規性はないが「紙媒体の雑誌+キーワード検索機能」として見れば、大きな進歩である。検索しながら読む行為、いわゆる「検索読み」が可能になる。これは紙媒体の雑誌を丸ごとデジタルした場合のメリットといえる。

日本で先行している富士山マガジンサービスの「Fujisan.co.jp」でも同様の仕組みは可能だ(各雑誌内でのキーワード検索には対応している⁠⁠。ポータルサイト上での記事検索など、これからのオンラインマガジンの可能性を感じさせる新しいサービスに期待したい。

また、Googleなどの検索対象に紙媒体の雑誌を含むことで新たな課金システムも成り立つ。検索を利用した人に「雑誌の中に情報があることを知らせ⁠⁠、その情報取得に対して「課金」する方法などが可能になる。ただし、無料公開でユーザー数を確保した後、収益につなげていくマネタイズより、ユーザー・アレルギーは強いだろう。バックナンバーを古いものから無料公開して有料情報との差別化を明確にするなど、検索サービス経由の課金には何らかの吸収剤が必要になるかもしれない。さらに、価格設定では(店頭でもバックナンバーが置かれているため)書店との関わりも無視できない。

いずれにしても、既存の雑誌をデジタル化した「デジタル雑誌」を取り扱うオンライン書店の動向には注視していきたい。

参考URL:
株式会社富士山マガジンサービス
http://www.fujisan.co.jp
ダカーポ
http://dacapo.magazine.co.jp/
ニューズウィーク日本語版
http://nwj-web.jp/
FQ JAPAN
http://www.fqmagazine.jp/index.php
毎日ウィークリー
http://weekly.mainichi.co.jp/
Zinio
http://www.zinio.com/

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