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第15回 書籍をEPUBフォーマットの電子書籍にするプロセスを公開!(1)

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対象とするデバイスとリーダーアプリケーションを決める

電子書籍化するときに,まず決めなければいけないのが,対象デバイスとリーダーアプリケーションです。対象とする読者は,⁠書籍の企画段階で)すでに設定されていますので,どのようなデバイスを所有しているのか考えます。

『Webデザイン標準テキスト』は,WebデザイナーもしくはWebデザイナーを目指す人を対象としていますので,パソコンを所有し,Webサービスなどを活用しているユーザーであることは間違いなさそうです。さらに,スマートフォンやスレートデバイスを所有している可能性も高そうです。このプロセス(出版マーケティング)の詳細は割愛しますが,さまざまなデータを検証し,以下のように決めました。

  • 対象デバイス:iPhone, iPod touch, iPad
  • リーダーアプリケーション:iBooks, Stanza

「iBooks」「Stanza」は,App Storeから無料でダウンロードできますので,電子書籍を読むためのリーダーアプリケーションに費用はかかりません。また,Stanzaの場合はiOS 4にアップデートをしていないiPhoneユーザーでも使用できますので,OSのバージョンで利用できる人を制限しません。

読者のダウンロード負荷もそれほど問題にはなりません。

  • iBooks 1.0.1のデータサイズ(6.7MB)
  • Stanza 3.0.3のデータサイズ(9.6MB)

図6 iBooksStanzaは,App Storeから無料で提供されている

図6 iBooksとStanzaは,App Storeから無料で提供されている

現在はフォーマットよりリーダーのユーザビリティが重要

対象デバイスとリーダーアプリケーションが決定すると,採用するフォーマットも限定されます。iBooksとStanzaを対象とした場合,フォーマットは「EPUB」もしくは「PDF」です(EPUBについては第13回第14回の記事を参照してください⁠⁠。iBooksやStanzaで書籍を読んでもらうには,EPUBかPDFのフォーマットで作成するしかありません。

なぜ,フォーマットよりも対象デバイスやリーダーアプリケーションを先に決めなければいけないのでしょう。電子書籍というのは,必ず何らかのハードウェアが必要です。ここが,紙の本との大きな違いだと言ってよいでしょう。さらに,ハードウェアには読書するためのアプリケーションソフトウェアが必要です。読者は,本を読むためにハードウェアもしくはアプリケーションソフトウェアを「操作」しなければいけません。ページをめくるだけでも,ボタンを押したり,画面をタップするといった「操作」を強いられます。つまり,本を読むための装置(ソフトウェア含む)のユーザビリティを最優先する必要があるのです。使いづらいリーダーは,読書体験にマイナスの影響を与え,読む意欲を減退させてしまう場合があります。

「電子書籍」というパッケージに興味のある人たちが,試し買いしている間は,それほど問題になりませんが,純粋に「読書」を目的として買う人が増えてくると,以下の点について無視できなくなります。

  • ユーザビリティ(リーダーの使いやすさ)
  • アクセシビリティ(読者の多様なニーズに対応できているか。文字サイズ変更や反転モードなど)
  • リーダビリティ(ページの読みやすさ)

既存の読書体験を踏襲するのなら,たとえ文字主体の電子書籍であってもWebページとは異なるという意識が必要になるでしょう。ただし,Webブラウザがリーダーアプリケーションの機能を備えた場合は,同化していく可能性が高くなります。Googleが予定している電子書籍プラットフォーム「Google Editions(グーグル・エディション⁠⁠」は,ブラウザでアクセス可能な仕組みなので,注目したいと思います。

筆者は,パソコンでEPUBフォーマットの電子書籍を読むとき「ibis reader」を使用していますが,まだ可読性に問題があるのではないかと感じています。日本語の場合,CSSで整形したWebページのほうが読みやすいのです。ibis readerは,HTML5ベースのリーダーアプリケーションで,オフラインの読書も可能ですが,ブラウザ上で使用するため,もっさりとした動作も気になってしまいます。むしろ,画面は小さくても軽快に動作し,きれいなフォントで読めるアプリ版の電子書籍のほうが快適に読書できます。国産のリーダーであれば,日本語で読みやすいデフォルトスタイルを用意してくれると思いますが,欧文仕様のリーダーしかない現状ではしかたないのかもしれません。

図7 ibis reader

図7 ibis reader

図8 EPUB化した『Webデザイン標準テキスト』をibis Readerで読む。パソコンのリーダーはまだWebページと変わらないレベル。アプリ版の電子書籍よりユーザビリティもリーダビリティも低い

図8 EPUB化した「Webデザイン標準テキスト」をibis Readerで読む。パソコンのリーダーはまだWebページと変わらないレベル。アプリ版の電子書籍よりユーザビリティもリーダビリティも低い

コラム

今回は対象にしていませんが,AmazonのKindle Storeで提供する場合は,フォーマット,リーダーアプリケーションに選択肢はありません。デバイスは読書専用端末の「Kindle⁠⁠,フォーマットは「AZW」⁠Kindle向けの専用フォーマット)です。Kindle Storeで買った電子書籍をiPhoneで読む場合はApp Storeから専用リーダーアプリケーションKindle for iPhoneをダウンロードします。iPadで読む場合も同様です。Kindle以外のデバイスで読みたいときは必ずAmazonから提供されている専用のリーダーアプリケーションをインストールしなければいけません。現在は,iPhone, iPod touch, iPad, Windows, Mac, BlackBerry, Androidに各アプリケーションを提供しています。

使いやすいリーダーアプリケーションを選択する

繰り返しになりますが,電子書籍の場合は,まず書籍の内容に適したリーダーアプリケーションを選択しなければいけません(潤沢な制作費があれば,一からリーダーアプリを開発してもよいでしょう⁠⁠。⁠PDFのドキュメントが読めます」といったビジネスアプリケーションの延長線ではなく,⁠読書⁠のためのユーザビリティ・アクセシビリティ・リーダビリティとは何かをじっくり考えておく必要があります。

図9 書籍(および雑誌,漫画など)の内容に適したリーダーアプリケーションを選択することが重要。制作費によって,カスタマイズのレベルは変わる

図9 書籍(および雑誌,漫画など)の内容に適したリーダーアプリケーションを選択することが重要。制作費によって,カスタマイズのレベルは変わる

たとえば,本書のような解説書はiBooksやStanzaで十分表現可能ですが,複雑なレイアウト構造のファッション雑誌などは適していません。つまり,iBooksやStanzaではなく別のリーダーアプリケーションを選択しなければいけません。もちろん,PDFに変換すれば読めますが,あくまで「表示できる」だけで,ユーザビリティもリーダビリティも低下し,商品としては成立しません。現在,雑誌の分野ではヤッパボイジャーアクセスなどが提供しているリーダーアプリケーションが普及しています。

漫画の場合も同様で,文字主体の本を読むためのiBooksやStanzaでは,仕様がまったく異なり,商品にはなりません。漫画を快適に読むためのリーダーアプリケーションを選択する必要があります。国内では,セルシス「BookSurfing」⁠携帯電話では圧倒的なシェア⁠⁠, eBookJapan「ebi.BookReader」などがあります。

個人レベルであれば、JPEGファイルをまとめて圧縮するZIPやCBZ,CBRフォーマットで作成し,iPadのアプリCloud Readersなどをコミックリーダーとして利用することができます。

図10 筆者も利用しているGraphic.lyは,ソーシャルストリームを取り込んだコミックリーダー&ストアのアプリケーション。インディーズ系の出版社から提供されているコミックを購入し,クリッピングおよびコメントを加えてFacebookで共有することができる

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著者プロフィール

境祐司(さかいゆうじ)

インストラクショナル・デザイナー[Instructional Designer]として学校,企業の講座プラン,教育マネジメント,講演,書籍執筆などの活動をおこなう。2000年より情報デザイン関連のオンライン学習実証実験を始める。現在,教育デザイナー育成を目的としたフォーラムを立ち上げるため準備中。著書に「速習Webデザイン Flash CS4」(技術評論社),「Webデザイン&スタイルシート逆引き実践ガイドブック」(ソシム)などがある。

URLhttp://admn.air-nifty.com/monkeyish_studio/

著書