読むウェブ ~本とインタラクション

第15回 書籍をEPUBフォーマットの電子書籍にするプロセスを公開!(1)

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電子書籍の提供方法を確認する

iBooksとStanzaを対象とする場合は,EPUBもしくはPDFファイルを(出版社のサイトなどから)ダウンロードしてもらうことになります。今回は,書籍プロモーションも兼ねていますので,ファイルを直接ダウンロードする方法で問題ないという判断です。DRMフリー(複製を制御・制限する技術を適用していない)ですから,コピーも印刷も可能になりますが,プロモーション効果にはむしろ都合が良いと考えています。

もし,App Storeで提供したいという場合は,電子書籍をアプリ化して,Appleの審査をパスする必要があります。たとえば,米国のO'Reilly Mediaでは,EPUBファイル(コンテンツ)とStanza(リーダー)を一体化して,アプリ版電子書籍としてApp Storeでも販売しています。国内では,ボイジャーのT-Time touchを採用している出版社が多いようです。いずれにしても,アプリ化するための開発費がかかり,審査期間を考慮した上で計画しなければいけません。

図11 米国のO'Reilly MediaがApp Storeで提供している電子書籍は,Stanzaと一体化したアプリ版

図11 米国のO'Reilly MediaがApp Storeで提供している電子書籍は,<wbr>Stanzaと一体化したアプリ版

採用する電子書籍のフォーマット特性を理解する

電子書籍化の前に採用するフォーマットについてきちんと理解しておく必要があります。今回は,iBookとStanzaが対象ですから,フォーマットは「EPUB」「PDF」になります。

まず,PDFをチェックしてみましょう。PDFの場合は,InDesignから書き出したものをそのまま使用することができますので,追加コストはほとんどかかりません。

iPadのiBooksで表示すると下図のようになります。文字が小さく,可読性の低さが問題です。文字サイズが変更できないのは致命的で,ページ全体をズームし,隠れた部分をスクロールしながら読むという「操作」を読者に強いることになります。前述したとおり,PDFドキュメントを閲覧するためのビジネスアプリケーションであれば良いのですが,快適な「読書」環境を提供することは難しそうです。

図12 ポートレイトモード(縦向き)でなんとか読めるレベル。ランドスケープモード(横向き)にすると,ページ全体をズームするしかない

図12 ポートレイトモード(縦向き)でなんとか読めるレベル。ランドスケープモード(横向き)にすると,ページ全体をズームするしかない

では,EPUBフォーマットはどうでしょう。EPUBの特徴は「リフロー処理」です。リフローは,画面にテキストと図版が流れ込むようなイメージで捉えることができます。文字サイズを変更すると,溢れたテキスト・図版は,次のページに流れます。つまり,文字サイズの変更でページ数が増減することになります。

リフローの問題点は,ページにクレーターができてしまうことです。図版がページにおさまらない場合,次のページに流れてしまうため,大きな空きが出来てしまうのです(これを私はクレーターと表現しています⁠⁠。EPUBの現バージョンは,あくまで文字主体の本を対象としていますので,挿絵や図版が多いと,クレーターが発生しやすくなり,スカスカのページになってしまうことがあります。

図13 右側は文字サイズを大きくしたページ。挿絵がおさまらず次のページに流れてしまった(大きな空きができている)

図13 右側は文字サイズを大きくしたページ。挿絵がおさまらず次のページに流れてしまった(大きな空きができている)

PDFもEPUBも一長一短ですが,最低限の可読性保証を考えると,EPUBが有利になります。もともと,iBooksもStanzaもEPUBのリーダーアプリケーションとして設計されていますので,リフローの特性が考慮されており,ユーザビリティも高く,⁠読書⁠体験を壊す可能性は低いと判断しました。

EPUBフォーマットの電子書籍ワークフローの構築

採用するフォーマットは「EPUB」に決まりましたので,効率的に作業できるようにワークフローを構築します。下図をご覧ください。PDFの場合は,InDesignから書き出すだけで終了しますが,EPUBの場合はいくつか作業があります。InDesignには,CS3からEPUBの書き出し機能が搭載されていますが,そのままでは使用できませんので修正作業が必要になります。EPUBに書き出すとページがリニアライズ(線形化)処理されてしまうため,段組などのレイアウトは消滅してしまうのです。EPUBの現バージョンは,文字主体の文芸書などを対象としたフォーマットですから,しかたありません。どうしてもレイアウトを壊したくない場合は,他のフォーマットを選択することになります。

図14 最初に計画していたEPUB化のワークフロー図(詳細は次回の記事で解説)

図14 最初に計画していたEPUB化のワークフロー図(詳細は次回の記事で解説)

EPUBのコンテンツ部は,XHTMLとCSSのドキュメントになっており,InDesignで書き出したWebページとほぼ同じファイルになっています。つまり,修正作業の大半はWebデザインに近い作業です。ただし,Webデザインに近いからといって,Webページを作成する感覚で進めてしまうと,うまくいきません。対象アプリケーションはWebブラウザではなく電子書籍を読むためのリーダーアプリケーションだからです。

下図は,⁠Webデザイン標準テキスト』の第4章をEPUB化したものです。書籍のレイアウトとはかなり違いますが,リフローに対応し,iBooksやStanzaなどのリーダーアプリケーションで読みやすいようにリ・デザインされています。

図15 書籍のデータを使用してEPUBフォーマットの電子書籍に仕上げた

図15 書籍のデータを使用してEPUBフォーマットの電子書籍に仕上げた

ワークフローを個人で構築できたのは,EPUBがオープンなフォーマットだったからです。⁠PDFは例外ですが)他のフォーマットは企業の独自フォーマットですから,ライセンス契約が必要になり,オーサリングシステムを提供してもらう必要があるのです。EPUBの場合は,オープンソースのオーサリングソフトを無料で使用でき,電子書籍化のための有益なリソースもたくさん公開されています。プログラマーであれば,EPUBのリーダーアプリを開発することも可能です。

電子書籍フォーマットの統一は可能か?

ここまで読むと,EPUBはWebデザイナーの仕事のように思えてしまいますが,エディトリアルデザインなしでは「本」になりません。いくら表現に制約があっても,編集デザインは必要です。今後「本」の概念が変わり,Webとの差異が曖昧になっていく可能性は否定できませんが,しばらくは,ブックデザインの進化系という捉え方でよいと思います。

また,現在はフォーマットが統一されておらず,⁠購入した電子書籍が10年後も読めるかどうかわからない⁠混沌とした状況が続いています(アプリの開発元がギブアップしたら,アップデートは中断し,いずれ読めなくなるでしょう⁠⁠。EPUBの現バージョンは,あくまで文字主体の欧文のフォーマットですから,日本語の組版ルールを重視する書籍やレイアウトを保持したい雑誌,漫画や写真集などは,独自フォーマットを選択するしかありません。書籍も雑誌も漫画もすべて一つのフォーマットに収斂するのは困難かもしれませんが,読者を混乱させない仕組みは必要です。EPUBの次期バージョンには注視していきたいと思います。

さて,次回(第16回)は,構築したワークフローの作業プロセスについて紹介していきます。作成したEPUBフォーマットのサンプルファイルもダウンロードできます。

お知らせです。今月の22日(木)午後8時から電子書籍のイベントをUstream生放送します。電子書籍を作成しながら,エディトリアルとウェブについて議論するイベントです。ご興味のある方はぜひご覧ください。

イベントエディトリアルデザイナーとウェブデザイナーの協業について考える
電子出版ワークフロー・オーサリングライブ
日時7月22日 PM20:00-23:00
場所Co-Net
入場料3,000円(ワンドリンク付き)

編注:すでに定員に達した模様です。Usreamを使った中継も予定されているとのことなので,そちらも確認してみてください。

電子書籍関連の情報を電子書籍メディア論 - イーブックストラテジーと題して,音声やビデオなどで発信していますので,ご興味のある方はアクセスしてみてください。

著者プロフィール

境祐司(さかいゆうじ)

インストラクショナル・デザイナー[Instructional Designer]として学校,企業の講座プラン,教育マネジメント,講演,書籍執筆などの活動をおこなう。2000年より情報デザイン関連のオンライン学習実証実験を始める。現在,教育デザイナー育成を目的としたフォーラムを立ち上げるため準備中。著書に「速習Webデザイン Flash CS4」(技術評論社),「Webデザイン&スタイルシート逆引き実践ガイドブック」(ソシム)などがある。

URLhttp://admn.air-nifty.com/monkeyish_studio/

著書