キーパーソンが見るWeb業界

第4回 キーパーソンが語るWeb業界 RIAC公開版

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ユーザエクスペリエンスへの意識

――RIAの1つのポイントは,UI,そして,その先にあるユーザエクスペリエンスです。実際にサイトやサービスをデザインするにあたって,ユーザエクスペリエンスはどのように捉えていくべきなのでしょうか。

森田:RIAを作るプロジェクトがあったときに,押さえるべきポイントというのは実は範囲が狭かったりします。あるいは,何をやるべきかが明確なことが多いです。たとえば,チケット発券システムのように,具体的な目標があって,始めの戦略やビジネスドメインの時点で最終的なビジュアルデザインまでが想像できているケースが多いかな,と思っています。

長谷川:それから印象としては,サーバ側とフロント側の開発を別々に行うことによって,サーバ側はそのままで,フロント側の見え方や効果の最適化,ブラッシュアップを行っていくというように独立して行いやすいということがあります。そこで,戦略を考えるときに1回で完結するのではなく,2年くらいかけて効果を最適化していこうというプロジェクト設計の考え方が出てきていると思います。

阿部:最近サーバ側を担当するSIerの方たちがRIAに取り組み始めたのは,これまでの最後にHTMLのユーザインターフェースをおまけ程度にのせたものでは,ユーザを満足させることができないと気がつき始めているからだと感じています。また,そのようなアプローチをしないと,各SIer間においても差別化できない状況にもなっていると思うのです。

極端に言うと,高度成長時代に作っていたようなシステムは,ユーザをあまり意識せず「こういうものを作ったので,これを使ってください」というスタンスになっていたと思います。当時は,ユーザ側もあまりわからないまま,提供された状態のものを,文句を言うことなく使うことが多かったはずです。というよりは文句を言えるスキルも環境もなかったとも言えます。

しかし,最近はユーザがさまざまなインターフェースに触れ,ユーザ自身の経験値が多くなり,ユーザ側が⁠賢く⁠なってきていると思います。だからこそSIer側もやらなければいけないと感じ,危機感を持ってRIAの開発に取り組むようになっていくと思います。

結果として,戦略レベルというか,あらかじめユーザエクスペリエンスをコアに据えて,それを差別化要因として提案する気持ちが生まれてきていると思います。

森田:作り手のビジネスという面で見た場合,SIerがサーバサイドの開発だけでは,価値を金額に変換していくのが難しくなってきていて,結果としてビジュアルデザインを含めたフロントエンドにまで興味を持ってきているということが考えられます。

たとえば,クライアントの担当者が,直接的にプロジェクトの現場に関与して進めていけるという場合であれば,どういうプロセスでプロジェクトが進んで,どこに具体的なコストが発生しているのかを,クライアント側でも理解してもらいやすくなります。しかし,購買部の方である場合のように,プロジェクトに関与しない場合はプロセスにコストが発生していることはわかりにくく,デザインというか,ごく見た目の部分,ビジュアルデザインの格好良さといった部分であれば伝わりやすいですし,説得材料として効果的でしょう。こういう思惑もありつつ,他社との差別化ということも考えつつで,結果的にはユーザにとって使い勝手の良い,デザインに配慮したものづくりというのが必要だということになってきているという感じだと思います。

阿部:ただ,そうした場合でも,すべてユーザ中心に考え,ユーザの声を事細かに取り入れてしまうという考えは危険です。ユーザからの声は参考にするのは良いのですが,すべてを聞き入れてしまうことは現実的ではありませんし,リスクでしかありません。また,プロダクトアウト自体が悪いわけではありません。プロダクトアウトでもすばらしいものは存在します。基本はクライアントと我々のようなUIデザインを行う会社,SIerが協力し合い,ユーザニーズとビジネス的な要件,システム的な要件のバランスを見ながら,デザインや開発をしていくことが重要です。

森田:デザイン会社で言えば,ユーザ調査を根拠にデザインをしていますというのではなく,僕たちデザイナーが自身の言葉できちんと説明して,それが良いからこそデザインという形になっていくんだという認識が大事でしょうね。

長谷川:僕は,人間中心設計推進機構(HCD-Netという,まさに今のお話に出てきたような利用者主体でデザインをすることを推進)で理事を務めさせていただいています。人間中心設計(Human Centered Design:HCD)はISOにも定められていることなのですが,利用者の状況を記述して,そこから要求分析をし,設計・評価して製品を作っていくという考え方です。その点で,RIAとHCDはリンクする点が多いと思います。

今のお二人の話で誤解されないようにしたいのですが,先ほど森田さんがおっしゃっていたデザイナーの考えで進めるアプローチとHCDというのは,対立する考え方ではありません。ユーザ調査を行う場合でも,ユーザが好きかどうかだけを前提にしているわけではないからです。調査についても,デザインをする際に,デザイナーがどちらに進むべきか,どこを目指すべきかを正しく理解するためのヒントを得られるのであれば調査もしましょう,という考え方でもあり,ユーザの要求だけを聞きましょう,というのとは異なります。

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目的はRIAではなく,課題解決

――続いて,具体的にRIAサイトを作るシーンになった場合,デザイナーや制作者はどのような対応をすべきなのでしょうか。また,具体的に必要なスキルセットがあるのでしょうか。

阿部:これまでの経験からRIAを作ることを考えたとき,クライアント側の担当者と我々プロデューサー,ディレクターだけではなく,デザイナーやFlash担当,バックエンド開発を担当するSEやプログラマなどが,極力早い段階から関わっていたほうが良いと思います。そうしないと,仕様を決める側と制作・開発をするメンバーの間での意識的な部分や仕様の齟齬が生まれるリスクが高くなると考えています。そうなってしまうと,途中までうまくいっていたものでも,最終的に成果物になった段階でどうしようもないものができてしまうからです。大切なのはプロジェクトに係わっているメンバー全員で合意を形成していくプロセスなのです。

2007年版のRIACが発行したシステム構築ガイドの中でRIACの三井英樹さんがラストワンマイルの重要性について触れられていました。アメリカでインフラとしてすごいケーブルを整備した一方で,最後にそれを受信する受信機がなければ,すべてが無になるというものです。この話と一緒で,システムやバックエンドに多大な費用を掛け,すごいものを作ったとしても,最終的なユーザが操作するインターフェースが脆弱なものでは,その下にあるシステムが無駄になる可能性だってあるのです。

森田:そもそもとして,RIAサイトを作るという考えから始まることは,まずないですね。まず最初に考えるのは,その課題に対する解決方法として何を選ぶか,だと思います。その結果としてRIAが最適だとなれば,RIAを作ることになります。

そのうえで,今阿部さんがお話しされたように,関係者のコミットは重要です。一方で始めからたくさんぞろぞろいるのも,ちょっとうるさすぎる気もしますが(笑⁠⁠。理想を言えば,経験値の高い人間をある程度集めて,各自が柔軟なポジションを務められるようなプロジェクトが良いですね。逆に,たとえば,阿部さんが最後の最後に呼ばれるようなプロジェクトは危険です。それって,たいていが「火消し」として呼ばれているはずだからです(笑⁠⁠。

長谷川:今の森田さんの前半のお話は,まさに同感です。RIAなのか,あるいは他の技術なのかというのは手段でしかありません。エンドユーザからすれば,自分たちが満足できる結果がを得られることが重要なのであって,技術に何が使われているかということについてはあまり気にかけているわけではないと思います。

そのうえで,RIAとなったときにユーザが期待するものは,単なるHTMLによるページ遷移とは異なった表現だと思いますし,そこできちんと⁠おもてなし⁠が感じられるユーザエクスペリエンスが構築されていることが大切です。

実際にプロジェクトを進めるにあたって,ディレクターやプロジェクトマネージャという立場の人は,ユーザに与えたいエクスペリエンスが,RIAを用いることによって十分に実現できるかどうかを,あらかじめ把握しておかなければいけないと思います。それを身に付けるには,たくさんの経験と,あとは想像力ですね。

機械的に「要求があったら実行する」というのではなく,作り手側が先を見越して率先して実行する熱意や,なによりも好きであることが大事なのかとも思います。

阿部:本連載でよく出てくる⁠マインド⁠の部分ですね(笑⁠⁠。

長谷川:ええ。でもRIAという技術を考えるうえでも,好きじゃないと先まで考える気にならないと思うのです。作ることが好きであると同時に,たくさんの経験を積んで引き出しを増やしておくことで,クライアントとの検討時に「持ち帰って検討します」と伝えるのではなく,その場で「では,こういうことをすればこういう可能性があります」という提案ができるようになり,そのスピードはクライアントへのメリットにもつながります。

森田:繰り返しになりますが,RIAは1つの手段でしかありませんから。ただ,最近はSIerと協業して進めるプロジェクトの場合,RIA前提になっていることが多いのも事実ですね。その場合は,先ほど出ていたようにユーザエクスペリエンスありきで考えてから,システムの要件や具体的なUI技術の選択をしたほうが早いです。