キーパーソンが見るWeb業界

第10回 2010年がやってきた

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意識の共有と自立心を持つ

長谷川:『Web Site Expert』の読者の皆さんにも,ぜひトレンド志向・技術志向などで視野を狭めてしまうのではなく,トレンド・技術以外にも目を向けてもらいたいです。もちろん,⁠その技術については日本一というような)スーパー技術者であれば問題はないのですが,全員がそうなるのは難しいですから。

とくに,ビジネスの観点は意識してもらいたいです。私見ですが,最近Web業界を見渡したときに,ビジネスマナーを持って話せる人が少ないように思います。この点においては,広告業界から入ってくる人はとても強いですね。職業柄,つねに相手目線に立つという案件が多いため,仕事をするうえでとても重要なマナーを身につけています。この観点から,単に「Webが好きだからやりたいです」という人にとっては,ますます厳しい状況になっていくでしょうね。

阿部:ビジネスへの意識, ビジネスへのマナーについては,この連載で繰り返し発信してますよね。2009年11月に行われたFICT Tokyo 2009でのBig SpaceshipのJoshua Hirschの講演を聞いたのですが,彼はBig Spaceshipでは,ストラテジストもプランナーも,デザイナーもエンジニアもすべての業務領域・職能がクリエイティブであると言っていました。業務を分業制・縦割りにするのではなく,業務領域として横に配置するそうです。これにより,プロジェクト関係者全員が,プロジェクトの目的,スタートのきっかけなどを共有しながら,全員がクリエイティブに関わるという発想が持てるそうです。このようにビジネス的な考え方を持ちながらクリエイティブを生み出す考え方は,これからのスタイルとして定着してほしいです。

長谷川:それでも,残念ながら現実はその状況にはなっていないですね。

森田:自立心が必要なんです。とくにプロデューサーのような仕事をする場合,自分で考えて動けなければいけない。そして,こういう厳しい状況だからこそ各自が強い自立心を持ってもらいたいです。

長谷川:まさにそれです。あとは,これだけ技術が進化していろいろなことができるということは,求められることも増えるわけです。10年前であれば手探りでできていた規模だったものが,今からこの業界に入ってくる場合には,いきなり色々とキャッチアップしなければいけない。最初から知っておくべき知識が増えていることも知っておいてもらいたいです。

森田:とくに経験者として転職したり,フリーランスに転向する人にとってはそうですね。ひとつの肩書きにとらわれないで,デザイナー,ディレクター,エンジニアすべてを名乗れるようになるとか。

一方で,これから僕たちと同じ業界に入ってくる,業界新人にはどういうアドバイスがあるでしょうか?

長谷川:これまで自分たちは,時代とともに成長し,また,他の業界の人の背中を見て育ってきた部分があります。だからこそ,これからは新しい人に対してのきちんとした教育プログラムを作る必要があると感じます。

森田:そう考えると,たとえばWebディレクターという職種が実に広すぎですよね。

長谷川:はい,そう思います。この連載の最初でも言いましたが,実はWebディレクターという肩書きはないのではないかとも思います。というのも,アメリカのキャリアパスを見ると,ある職種に付くとき,ジュニア,シニア…というように段階を追ってパスが作られていきます。それは,その職種の専門家であるということの裏付けです。日本におけるWebディレクターというポジションはあまりなくて,逆に日本のWebディレクターはスーパーマンを求められてしまうように思います。

森田:Webという職種の専門家だとしたら,僕たちすべての人がそうですからね。職能で仕事をとらえていかないと,スーパーマン以外はだめとなってしまいますね。

阿部:それから,自分たちを振り返ってみて,なぜ今この仕事をやっているのか,これまでやってこれたかを考えると,とにかく楽しいことをやってやろうと仕事に熱中していたということがあるように思います。そういったものをこれから入ってくる人にも持ってもらいたいですね。

2010年に向けて

阿部:これまでWebデザイン・制作に関わる人の多くは技術的なアプローチが強かったように思います。2010年に向けて,これからは美術系や情報工学系というように,多様な分野からWeb業界に入ってくるケースが増えると思いますし,増えてほしいと期待しています。

1つの例として,大垣市にあるIAMAS(情報科学芸術大学院大学)や多摩美(多摩美術大学)情報デザイン学科,慶応義塾大学SFCなどから入ってくる人材には期待したいですね。彼らははじめからインタラクティブ・クリエイティブ領域から出てくるわけですから。

森田:ただ,そういう(インタラクティブ・クリエイティブ領域の)仕事だけではないというのは注意してもらいたいです。それでも,自分たちの10年前と比較してみると,彼らが持っているスキル,能力というのはとても高いと思います。また,状況が整っています。

長谷川:たしかに,たとえば大学であれば4年間ないしそれ以上,特定の学問に打ち込むことで,技術を突き詰めていくというアプローチが大切だと思います。これから仕事を始める前に,自分にとって1つ根ざしているものを持っているのは大切です。ただ,繰り返しになりますが,仕事はそれだけでは成り立たないということも知っておいてもらいたいです。

森田:阿部さんがおっしゃったようなインタラクティブ領域の新し担い手たちと,10年以上この領域で経験してきた僕たちが,彼らと人材のマッシュアップをはかっていきつつ,直接に同じ土俵で勝負するのではなく次の土俵へ,たとえばこれまで培ってきた経験,能力を活かして,業界の枠を広げていかなければいけないと思っています。そして,そのプロセスの中で業界のインフラを作っていけば,2010年以降もさらに先が見え,広がっていくのではないでしょうか。


今回は,久々の3人による熱いトークでした。内容をご覧いただくとわかるように,本連載で伝えたいことは第1回目からずっと変わっていません。とにかく今あるWebの力,可能性を信じて広げながら,各自が当事者としての意識を持つことによって,良い環境・良い世界を作り上げていけるのではないでしょうか。

最後のコメントにもあるように,Webが登場して時が経ち,今また次のステージに進もうとしています。これからは経験者たちが業界としての枠を安定させていく一方で,これからWeb業界に入ってくる人材たちが裾野を広げて,新しいものを取り入れていく,2010年がそういった未来の最初の年になれば良いと思います。

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撮影協力:新和食るちあ
http://www.shin-lucia.com/

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著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室部長代理。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属,同誌編集長(2004年1月~2011年12月)や『Web Site Expert』編集長を歴任。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)の責任者として,イベントやWeb・オンライン企画を統括。現在は,技術評論社の電子出版事業を中心に,デジタル・オンライン事業を取りまとめる。社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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