キーパーソンが見るWeb業界

第12回ライフスタイルの中でのクリエイティブとプロセスにおけるツールの役割

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Flashをはじめさまざまなテクノロジーとともにユーザへリッチな体験を提供し続けるアドビ システムズ 株式会社(以下Adobe)は2010年4月に、次世代クリエイティブツールAdobe Creative Suite 5ファミリーを発表しました。

今回、アドビ システムズ 株式会社クリエイティブソリューション部Webグループフィールドマーケティングマネージャー西村真里子氏をゲストに迎えレギュラーメンバーの二人とともに、これからのクリエイティブの価値、そのために必要なツールの役割について熱く語っていただきました。

今回、レギュラーメンバーの1人、長谷川敦士氏はIA Summit 2010参加により欠席となります。

長谷川氏からのコメントは記事最後に!

西村 真里子(にしむら まりこ)
アドビ システムズ 株式会社クリエイティブソリューション部 Webグループフィールドマーケティングマネージャー

2005年マクロメディアにStudio 8プロダクトマネージャーとして入社。アドビ統合後はWeb Premium(Flash,Dreamweaver)マーケティング担当に。

愛するもの:人、技術、美術、宴会。

阿部 淳也(あべ じゅんや)
1PAC. INC.代表取締役 クリエイティブディレクター

自動車メーカにて電装部品のユーザインターフェース設計を8年間手がけた後、IT事業部異動。約4年間Webデザイン、Flashオーサリングなどを手がけるとともに、営業支援システムや化学物質管理システムなどのテクニカルディレクターを経験。2004年よりCosmo Interactive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサ、クリエイティブディレクターとして携わる。2008年にワンパクとして独立。

森田 雄(もりた ゆう)
株式会社ツルカメ 代表取締役社長 UXディレクター

2000年に株式会社ビジネス・アーキテクツの設立に参画し、2005年より取締役、2009年8月同社退職。読書家と称した充電期間を経て、2010年5月よりめでたく社会復帰。IAおよびUX、フロントエンド技術、アクセシビリティ、ユーザビリティのスペシャリスト。CG-ARTS協会委員。広告電通賞審議会選考委員。米IAInstitute会員。アクセス解析イニシアチブ会員。Webby Awards、New YorkFestivals、WebAwards、アックゼロヨン・アワード グランプリおよび内閣総理大臣賞、グッドデザイン賞など受賞多数。趣味は料理とカメラ。

Flashという一分野が築き上げられた

西村:私は、アドビ システムズ株式会社にてクリエイティブソリューション部でDreamweaver、Flash ProfessionalなどのWeb製品のフィールドマーケティングマネージャーをしております。さらにFlash PlayerやFlash BuilderをはじめとするFlash PlatformおよびAdobeのマルチプラットフォームの広がりのための訴求活動を担当しています。

森田:僕も自己紹介を改めてしますね。5月から株式会社ツルカメという、社会のデバイド解決を目指すデザイン会社を立ち上げました。読書家じゃなくなっちゃうのですけど、今後ともよろしくお願いします。

さて本題ですが、今、西村さんがおっしゃったようにマルチプラットフォームという観点でいうと、組込みFlashなども、以前からありますけど、市場的には新しい分野ともいえますね。

阿部:たとえば、最近はさまざまなデバイスや自動販売機などのハードウェア上でも採用されていますし、Flashが活躍できるフィールドが大きくなってきました。

森田:自販機でも、たとえば位置情報と絡めたりユーザが出した情報を使ったレコメンドまでやってくれるようになるとおもしろいですよね。

阿部:技術的に言えばすでに可能で、そういうことがやりやすくなってきました。また、案件としても増えてきているように思います。

元々、Flashはアニメーションツールという位置付けでしたが、それから⁠Flash職人⁠と呼ばれるような人が出てきて、たくさんのクリエイティブが生まれました。結果として、たとえば⁠Flashエンジニア⁠⁠Flasher⁠というように、1つの職種という認識が生まれたことが凄いと思っています。

森田:呼び名に関しては英語的な響きがちょっとあれなところもありますけど、たしかにインタラクションデザイナーではなくてFlashデザイナーなどと呼ばれるようになりましたよね。

阿部:実際問題として、名刺の肩書きにFlashという特定の製品を付けるのが良いかどうかという議論はあるとしても、製品名を名刺に付ける流れというか文化が生まれたわけです。その要因が、実際にFlashを扱う人たちの積み上げがあったからで、当時のMacromediaの押しつけではなかったことが驚嘆に値します。とくにFlashに関してはユーザグループの誕生も早かったのではないでしょうか。

西村:ベンダの立場としても、ユーザサイドから自発的に生まれたことが非常に大きかったと思っています。そして、ユーザの皆さんがインターネットで繋がって拡大していったことが、今のFlashという技術の発展と利用範囲の広がりを生みだしたと感じています。

Flashが持つ表現力と技術の関係

森田:Flashの分野が活性化したのは、ユーザのつながり以外に、案件が多数あったことも大きな要因でしょうね。何かインタラクティブなものを作るときに⁠Flashっていいよね⁠ということが多く見られましたから。

西村:実際にはどのような案件が多かったのですか?

森田:広告案件ですね。Flashを取り入れることが良い、というよりも、Flashを取り入れたいというクライアントの要望がありました。

西村:それはカンヌ国際広告祭の影響などもあったのかもしれないですね。

阿部:僕は皆さんよりも比較的遅いかもしれませんが、Flash 3から使い始めているのですが、使い始めたきっかけはアニメーションGIFの世界からつくれるもの、表現の幅が大きく変わったと感じたときです。スプラッシュアニメーションとか流行ってた時代ですね(笑⁠⁠。

森田:僕もFlash好きですよ。bA参画当時にこんなFlash作って、これから毎日作るぞとかいって、まあそれから10年経ちましたが(笑⁠⁠。

阿部:当時Flashで本当に驚いたのがモーショントゥイーンやシェイプトゥーンなど自動でアニメーションの中間を生成してくれる機能です。多くのクリエイターが皆、感じたのではないでしょうか。アニメーションの開始点と終了点のキーフレームを作成するだけで、間の処理がすべてFlashで作成できるようになったのは、アニメーションGIFからすると本当に衝撃的でした。

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森田:そうですね。アニメーションで衝撃を受けた作品もたくさんありました。それからのFlashの発展と普及は素晴らしいと思うのですが、危惧しなければいけないこともあります。それは、何をするにしてもFlashという⁠技術⁠に特化してしまっていて、とくに⁠インタラクティブデザイン=Flash⁠という認識で仕事をしてきた人たちにとっては、今、仕事の土俵的な面で問題に直面しているようにも思います。

阿部:たしかにそれを感じるケースはありますね。いわゆる、手段が目的になってしまっている状況です。

今現在、製品、仕事、技術、それぞれがFlashが出始めたころに比べて整備されてきたわけで、その結果としてAdobeが提供する製品と技術に依存してしまうことが職域を狭めたりすることがあるのかもしれません。

西村:Flashに関して言えば、表現領域に対して大きく貢献できたこと、また、今おっしゃったようなことがあるとしても、私たちとしては⁠ものを作るためにはどうするか⁠という検討をした結果として、製品や技術を提供していきたいと考えています。これはベンダ側だけではなく、ユーザ側の皆さんとも話して、もっといろいろとフィードバックを頂けると嬉しいです。

阿部:それから、Adobe製品のユーザ、つまり作り手としては技術を見るのはもちろんのこと、一番大事なのは作り出したものを使ってくれるユーザを見なければいけません。

森田:最近、Flashなどの技術に関する議論が起きているのは、成果物の品質を高めるために技術をどう扱うのかという点ですよね。傾向としては、FlashデベロッパーであればFlashに依存していて、iPhoneデベロッパーはiPhoneに依存していて、というように特定のものに対する依存度が高くなってしまい、作り手のリスクだけが大きくなっているという状況です。

継続性を考えるならば、作ることそれ自体に対するリスクを軽減することを考えるのが大事だと思うのですが、そのために必要なのがオープンなプラットフォームでしょう。

囲い込み戦略を否定はしませんが、質を高めるためにベンダ主導になるのはあまり歓迎できないですね。ユーザにも作り手にも自由な選択肢があると良いのだろうなと思います。

西村:おっしゃるとおりで、私たちとしてはもの作りをする人たちに最適な製品や技術を提供することが最大の目的です。作っている人たちが、作ったものをマルチユースできる環境というのは、私たちが目指していく世界です。それが、今取り組んでいる⁠Open Screen Project⁠のコンセプトでもあります。

阿部:話を戻すと、Flashが良い点としては、Flashを使うことで表現が高まったこと、また、プラットフォームとしてFlashPlayerが提供されたことがあります。職域を狭められていると感じている人にとっても、これからまた可能性が広がるのではないでしょうか。

森田:たしかにそういう見方もできますが、それは阿部さんがFlashを⁠1つのツール⁠として捉えてデザインできているからだと思います。⁠技術としての⁠Flashのデザインしかできなくなっているのだとしたら、もの作りをする人間としては危機感を持つべき状況です。

また、Adobeに対するコメントとして、Flashが持つ表現力について、技術的側面からアピールするだけではなく、もっと生活に密着したもの、たとえば先ほどの自動販売機の例もそうだとは思いますが、ライフスタイルの中でFlashがどう便利になるのかを、さらに見せてもらえると嬉しいですね。

西村:⁠コンテクスチュアルアプリケーション⁠の考え方ですね。それはまさにAdobeが目指しているものであり、先ほどのOpen Screen Projectの取り組みとして進められています。

コンテクスチュアル、文脈(状況)に応じて適したコンテンツを提供できるアプリケーションを提供していくことが目的です。将来的には、Flashライフスタイルセミナーというようなものも考えられますね。

阿部: そういえば、 昨年のMashup Award 5の作品に「CastOven」という、電子レンジの窓の部分にFlashを実装して、できあがるまでの時間でYouTubeを映し出すものが優秀賞を獲得されていました。これはまさにライフスタイルにFlashがとけ込んだ例と言えます。

Adobe Creative Suite 5の登場

阿部:Flashの話だけに偏ってしまいました。 ちょうど、この座談会の少し前に、新し

い製品「Adobe CreativeSuite 5」シリーズが発表されました。この製品について教えていただけますか。

西村:私の担当としては、Flash Builder 4とFlash Catalyst CS5が含まれることが大きいですね。

Flash Builder 4はこれまでFlex Builderと呼ばれていたツールで、Flexフレームワークを使用してクロスプラットフォームのRIAやコンテンツを開発できます。一方の、Flash Catalyst CS5は、Webインターフェースとコンテンツを、コードを書かずに作成するためのツールです。元々は、デザインと開発をつなぐ副産物として生まれたツールなのですが、今回のリリースにより、Flash Professional CS5とFlash Builder 4との連携が強化され、開発の生産性を向上できます。

また、Flash Catalyst CS5はワイヤーフレームの作成やプロトタイプ作りといった用途でも使えるため、このツールの登場により、CS5で制作フローのすべてを網羅できるようになりました。

プロセスにおけるツールであるべき

森田:デザインプロセスを切り分けることは、実際のプロジェクトを進めるうえでとても大切だと思いますが、ツールで切り分けられているからプロセスを分けるというのとは違うと思っています。

たとえば、SIerさんと組むような案件の場合、まず、Flexによってバックエンドを開発し、そこでできたものに合わせてフロントをデザインしてくださいというパターンになりがちなんですが、デザインとはそうことではないと思うんですよね。

本来ならば、ユーザの課題を解決するためのデザインがあるべきで、順序をいうならばUIを決めてからバックエンドを決めていくほうが正しい姿だと思っています。

また、こういう手順的なこと以外にも、現状は、Flex中心で開発を進める開発者たちと、課題解決のためのデザインを行うデザイナーとで工数感がずれるなど、ディスコミュニケーションが発生する傾向を見かけます。

阿部:今の森田さんのお話はとても重要で、フロントエンドデザインとバックエンド開発の関係性については、もっともっと積極的に話されていくべきだと思います。こうした新しいツールが出てくることは、非常に良いことでもありますが、やはり目的があってのツールであるわけですから、ツールの使い方という点については間違えないように気を付けていきたいものです。

西村:これは先ほどのライフスタイルの話にも通じるものですね。Adobe としては、デザイナーもデベロッパーもどちらも大切なパートナーとして考えています。ツールとしての切り分けによって、どちらかに比重を置くというものではありません。

森田:さらに言えば、課題を解決するには、まずプロセスを考えてからどう解決するかという考え方が大切で、プロセスを良くするにはどうすべきか、そのうえで、ツールの必然性と存在価値っていう流れなんでしょうね。

また、プロセスが見えてくることによって、どこに注力すべきかというのが見えてきますし、その結果として(いろいろなことを)考える余地が生まれてきますから。

一番大事なのはユーザに選ばれること

阿部:その点で言うと、今回発表されるCreative Suite 5というのは、プロセスをすべて網羅できる、いわば⁠全部盛り⁠のツールなわけですよね。これから、僕たちデザイナーやデベロッパーに対しては、その全部盛りの中身が、どれとどれが紐付いているのか、紐付くことによって何ができるのか、というのを説明されることが大事だと思います。

使う側にとっても、全体像をイメージしてから個別のツールの役割が見えてくるといいと思います。

森田:僕たちデザイナーはツールのユーザでもあり、また、エンドユーザから見たらサービスの提供側にもなるわけです。そのためにも、Creative Suite 5が、エンドユーザに刺さるものを生み出せるツールだというのを提示してほしいのですよね。

たとえば、製品紹介も、開発の生産性が向上する、とかだけではなくて、⁠デザイナーが思いついたものを具現化し、生活を変えることができるツール⁠というように、よりライフスタイル面から価値のある見せ方というのも良いのでないでしょうか。

西村:大変参考になるご意見、ありがとうございます。Adobeとしても、つねづね制作・開発シーンにおいて、デザイナー・デベロッパーの皆様をサポートできるツールを提供し続けたいと考えております。今回のCreative Suite 5を通じて、ようやくすべての制作フロー・プロセスを網羅できる環境が整えることができたと感じています。

また、 先ほどお話ししたOpen Screen Projectも含め、デザイナー・デベロッパー、ベンダ各社、そして、エンドユーザの皆様にとって、魅力的なコンテンツを開発するにも、体験するにも最適な環境を作ることができるように製品や技術を提供するために努力しています。我々Adobeは、制作者様、ユーザ様との密接なパートナーシップにより、新しいデジタル体験とスタイルを創っていきたいと考えています。

以上、今回は、Adobe という、Web業界ならず多くの業界にとって大事な技術と製品を提供しているベンダと、デザイナーという構図での議論が行われました。話の中にも出てきたように、革新的な技術の登場により、デザイナーの表現力を最大限に引き出す環境が出てきたと同時に、マルチプラットフォームなど、今また新たな問題にも直面しています。

今後、Adobe を含め、新しい技術を提供するベンダがどのような展開を見せるのか、また、その技術を使いデザイナーがどういったものを生み出していけるのか、大変楽しみです。

今後、西村氏が述べたように、全員がパートナーシップを作る環境が生まれ、エンドユーザのライフスタイルが向上していく世界を期待しましょう。

今回お休みの長谷川敦士氏から一言

4月の前半に、三菱電機の粕谷さん(本座談会の第7回ゲスト)とともに、アリゾナ州で開催されたIA Summitに行ってきました。僕にとって一番の收穫は、IAとして長年憧れているリチャード・ S・ワーマンに会えたことですが、参加したセッションから多くの実践的な事例なども聞いてくることができました。

都内で予定している報告会の開催後には、コンセントサイトなどでレポートを公開しますので、お楽しみに!
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