キーパーソンが見るWeb業界

第14回 Webデザイン,エディトリアルデザイン

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どのように見せるかが大切

森田:今のお話を伺って,企業は本質的には広報誌に対して何を期待しているのかが気になります。というのも,Web上に広報誌のようなコンテンツを置いたとしても,そもそもそれほど見られないような気がしますが,それが品質の高い紙に置き換わったとしてどのぐらいの社員が目を通すものなのでしょうか? コンテンツを充実させることは大事だと思いますが,根本的解決につながるものなのでしょうか?

川崎:一時期,紙からWebへと移行する動きがありましたが,あまり読まれなくなってしまったということがあります。現在は,トップダウンのメッセージを伝える機能として紙の広報誌が使われるケースが多いです。その上で,雑誌のような構成にすることで継続的に見てもらう工夫はしていますね。

森田:それでも,本質的には読むシーンが拡大しないと難しいのではないでしょうか。

阿部:その疑問はわかります。社員が広報誌を読むシーンってそれほど多くないと思うんですよね。たとえば,昼休みのちょっとした時間ができたときとか。また,曜日で言えば月曜の朝イチに配られたとしても目に通しづらいだけではなく忘れてしまうこともありますし,逆に金曜の夕方頃,一息ついたときのほうが気持ちとして読む意識が高まるように思います。

川崎:お二人がおっしゃるとおり,そこが非常に大事なところです。実際に企画するときにも,中身を(どのようなシーンで読んでもらうか)明確にしたことで,読まれるようになったという声を聞きます。

森田:そう考えると,通常のWebサイトとはアプローチが異なりますね。Webの特徴の1つには,外部からの時間的制約を受けずにいつでも見られるといったことが挙げられますから。

雑誌のデザイン,広報誌のデザイン

阿部:少し話を変えて,そもそもとして(企業案件を受けて)ビジネス的な広がりは見えていますか?

川崎:正直なところ,金銭的な面では1つの雑誌を受けたほうが良いことが多いですね。ただ,そうした側面以外に,アレフ・ゼロとしてビジネス領域の幅を広げられるという意識のほうが強いです。

長谷川:私が在籍しているコンセントは川崎氏のいるアレフ・ゼロと同じ「AZグループ」に属しているのですが,編集業務という点では,これまでは数多くの雑誌があったため雑誌案件を受けていたという状況だったのが,出版不況による雑誌数の減少があり,その結果として広報誌などを受けるようになったという判断があると思っています。

ただ,そういった状況的な理由以外に,伸びしろがあるから行っているようにも思います。

森田:それは,雑誌にしても広報誌にしても一定量の負荷が変わらないという前提で?

川崎:雑誌の特性にもよると思うのですが,たとえば週刊誌の場合,かかる負荷が大きくなりますね。週刊で発行するという特性上,毎号毎号の特集が重要になり,結果として瞬発力のほうが重視され,逆に定形の部分が少なくなりますから。

他に,連載重視の雑誌やシリーズものの書籍の場合は,定形に当てはめやすくなります。

Webのデザインとコンテンツのバランス

長谷川:Webデザインで見ると,どこからどこまでをやるかが重なる部分が多くありますが,企業サイトに限って言えば,ナビゲーションとコンテンツの切り分けがしやすく,川崎氏が言う,定型なものになりやすいのかもしれません。

森田:それでも,Webマガジンのようなものは,紙の週刊誌と同じように制作サイドにかかる負荷が大きいと思います。何より実装コストが大きくなりがちです。なぜなら,Webマガジンは基本的にはサイクルで回す運用がメインになるもののはずですが,実際はコンテンツに注力しなければいけないケースが多く,毎回スペシャルコンテンツを作らなければならない状況に陥ることもあるからです。

いずれにせよ,企業サイトでもWebマガジンでも,先進的なケースを除けば,運用サイクルの中でコンテンツを作れるかどうかを考えなければいけませんよね。逆に,単一のフォーマットを汎用的に使って,ただコンテンツを流しこむだけのWebマガジンだったら,他のWebサイトと比較しても格段に見られなくなってしまうと思います。

もう1つ,Webデザインをするときに注意したいのは,一口に⁠コンテンツ⁠と言っても,それが(要素などの)内容だけを意味するコンテンツなのか,実装までを含めたコンテンツなのか,そこも明確にしなければなりません。

阿部:それから,企業から請け負うサイトに関して言えば,コーポレートでもWebマガジンでもクライアント依存度が高くなると思います。ただし,本来ならば,我々Webの制作・デザインをする立場の人間が,コンテンツそのものの企画や編集領域から入って実装していかなければいけないはずです。

現状は制作側にそこまでの体力がないのに加えて,予算が少ない,さらには,Web制作・デザインサイドに企画や編集に対する意識が弱いように思っています。

森田:おっしゃるとおり,本来ならばWeb制作・デザインをする立場も,クライアントからの原稿を待つだけではなく,⁠Webに合う)どういった原稿が欲しいのかまで伝えていくべきです。

川崎:今のお話を聞いていて感じたのが,紙の場合,ページ数という大きな制約があります。そのため,まずボリュームに対してコンテンツの配分を考える必要があり,企業から請け負う広報誌でも,市販の雑誌にしても,エディトリアルデザインをする立場の人間が全体の構成を意識することが前提になっているのかもしれません。

Webのデザインと紙のデザインは同一テーブルには乗らない?

森田:ここまでのやりとりをしてみて,僕自身はWebのデザインと紙のデザインはやはり異なると思っています。たとえば,今の全体の構成を意識する・しないに関しても,紙の場合はデザインする側が読み手に提供する一方向性のものなのに対し,Webの場合は情報は提供するにしても,デザインした結果については見る側が判断し,ユーザが決められる状態にあるわけです。極論をすればデザイン側のビジュアル的な意図はまったくなくなります。

阿部:それは,紙は情報が一方向に流れるメディアであり,Webは双方向に流れるメディアだからということになりますね。

長谷川:たしかにメディアとしてはまったく異なるのですが,実際のWeb制作の現場では「紙のままの情報を使ってほしい」⁠紙の情報をWeb用に再編集してください」といった要望を聞く場合があります。そういうときに「紙とWebではメディアが違う」という答えでいいのかどうかは考えるべきところではないでしょうか。

森田:そもそもとして,空間的な制限から,紙は情報を切り捨てやすく,Webは蓄積しやすいものなので,そういう観点も含めメディアが違うと答えることは必要かと思います。ただしもちろん原稿または素材として,紙の情報を使ってほしいというのは当然ありますし,それ自体にはとくに問題はないかと思います。

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著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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