キーパーソンが見るWeb業界

第14回 Webデザイン,エディトリアルデザイン

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Webのコンテンツをどう伝えるのか

長谷川:とは言うものの,私自身がWebのデザインをしていて気になるのは,⁠UIを使いやすくする」という意識はあっても「表現を良くする」という意識が表に出てくることはあまり見られないことです。自分たちがデザインしたWebに関して,どうすれば読みやすくなるのか,表現が豊かになるのか,よりよく伝わるのか,これからのWebのデザインはそういったところまで踏み込む必要があると感じています。

森田:僕はWebの本質として,そこまで作り手がコントロールしなくても良いというか,すべての環境に対してという意味で,できないだろうと思っています。

長谷川:非常に難しい判断ですが,どこまで表現(エディトリアルデザイン)にこだわっていけるかは,私自身とても大事だと思っています。

最近の例で言うと,先日私はアレフ・ゼロと一緒にiPad向けの電子書籍コンテンツを制作しました。そのときはUIデザインについてはコンセントが担当し,文字組み・レイアウトはアレフ・ゼロが担当するという分担で実装しました。たまたまiPadというデバイスではありましたが,実際にデザインをしてみて,UIデザイン以外の,文字サイズや文字組みなどを含めたデバイスに特化した表現のチューニングの大切さを感じました。

阿部:おそらく,今の二人の議論の要因の1つは,エディトリアルデザインとWebデザインの出自が違う点ではないでしょうか。紙はもともと,タイポグラフィの考え方など表現の部分を含めて進化してきています。そこに付随するのがエディトリアルデザインです。

一方,Webというのはハイパーリンクの考え方から生まれてきているもので,当初は情報を構造化した上で,情報と情報をどうつなぐかという考えがあり,その後,Webブラウザが登場するなど視覚的な考え方が付いてきています。最近では,FlashのクリエイティブやCSSによるデザイン,また,ベンダーからのAPI経由でのフォント提供などビジュアル面への意識が高まってきていると思います。

こうした背景の下,最近は,Webのデザインをしたい人が,エディトリアルデザインの基礎やタイポグラフィの概念を知らずにデザインに入ってくることがあります。ここはまだまだ発展途上だと感じています。

長谷川:出自の違いがあるにしても,たとえば,企業サイトで長文を掲載した場合,どうすればたくさんの人に快適に読んでもらえるか,それはデザイン側で工夫できるポイントです。そこに,Webデザインの中へエディトリアルデザインの考え方を取り入れる余地があると思っています。

川崎:紙だけをやってきた人間からすると,たとえば先ほどのiPadの事例に関して言えば,これまで自分たちは紙というメディアの上でしかデザインをしてきていなかった,いわば静的なコンテンツしか扱っていなかったわけです。そのため,インタラクションとかユーザエクスペリエンスとか,アクションとかまったく知らなく勉強になる部分が多くありました。

森田:今のコメントで誤解があると感じたのですが,Webのデザインは,インタラクションとかユーザエクスペリエンスだけを行うものではありません。情報をどう伝えるか,またはどう伝わるであろうかということも考えているわけです。

そこは単にビジュアルだけの話ではなくて,情報をビジュアルではなく音声データとして届けることもできるわけですし,将来的にはほかの感覚で伝わるような表現することができるかもしれない。つまり,ビジュアルのデザインという枠ではなく,Webのデザインの根底には「情報がどう扱われるか」があるわけです。

阿部:従来の紙との比較で言えば,体験ができるというのは大きいと思います。とくに日本の教育分野では,これまで暗記型の勉強スタイルが多く,紙はそれに最適でもありました。ただ,今後は技術の進歩により,体験型の学習ができるようにもなるはずです。

そのとき,自分たちが持っているWebのデザインの知識や技術,ユーザエクスペリエンスをいかにつくるかといった経験,インタラクティブやインタラクション領域の経験はかなり役立つと思っています。

また繰り返しになってしまうのですが(笑⁠⁠,エディトリアルデザインの知識を持っていることで,自分たちが作り出すものの表現力が高まるのではないでしょうか。

大事なのは基礎を学び,軸足をしっかりすること

森田:僕の中では,Webデザインというのは,そもそもとして今皆さんがお話したことをすべて,つまり,あらゆる体験とその実現を包含していると思っています。その上で,今後のWeb業界を考えると,Webとは何であるのか,Webで何を知っておくべきなのか,やはり本質を学んでもらいたいです。Webは未来を作れるメディアだと思っています,Webデザイナーを目指す人にもすでにやっている人にも,隣の領域に手をのばすという姿勢ではなく,Web目線での取り組みだったり学習として実践してもらいたいですね。

川崎:私はこれまで紙を中心にやってきたので,お話を伺っていて,Webというメディアの難しさを感じました。とくに,ユーザ側に一任できるということは,デザインをより注意深く行わなければいけないのですね。

長谷川:私は視覚的なデザインの先にあるのがエディトリアルデザインだと思っています。そのため,たとえばUIデザインのあとの形に落とす段階になった場合,もっとコンテンツへの意識を持って,表現を高めることを知っておくべきだと思います。

阿部:根本の部分は森田さんと同意ですが,やはり私自身もエディトリアルデザインの考え方が不足していると思いますし,その部分は取り入れていきたいと思っています。その考え方・知識を身に付けることで自分たちがやれることが増えるはずですから。

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以上,今回はエディトリアルデザインとWebデザインという切り口から,コンテンツの作り方,表現,情報の届け方など,デザインをするうえで重要なポイントについておはなしいただきました。今,電子出版がブームと言われ,Webと紙の融合と言われることもありますが,どちらのデザインをするにしても,何を意識すべきなのか,表層的なところだけではなく本質的な部分を捉えていかなければいけません。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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