キーパーソンが見るWeb業界

第15回 インタラクションデザインとWebの概念

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プロトタイプとPDCAの比較

長谷川:たしかに,そもそもとしてWebの場合,納品の後の運用や効果改善が本質だと言えます。PDCAの概念です。最近は,プロダクトやインタラクションデザインにおいてもこういう考え方は増えているように思います。プロダクトの場合でも,ユーザの声といったように,ログを取ることはできますから。

阿部:プロダクトやインタラクションデザインにもPDCAという考え方が浸透してきているということですか?

岡村:1つの開発プロセスの中でプロトタイプをPDCA的に改善していくということはありますが,ある製品が次機種さらに次と,進化していく時に,PDCA的なサイクルとして,発注者側が運用しているのかどうかは私たちにはわからないですね。私たちの仕事は部分的なのかもしれません(笑⁠⁠。

Webの場合,発注側で運用する意識が高まってきていますので,今はPDCAを前提に進めるケースが増えているのではないでしょうか。

長谷川:そういう意味では,Webのほうができあがった成果物について,ユーザ調査をしたり,リニューアルなど手を加えますし,そもそもとしてユーザ像の見直しをしながら,部分的に変えることが前提でもありますね。

阿部:これまでの話を聞くと,プロダクトデザインはつくったらつくりっぱなし,とも聞こえるのですが,実際はどうですか?

岡村:私たちの立場としては,直接ユーザの声を聞ける機会は少ないのですが,実際はメーカからユーザアンケートなどの結果を教えてもらったりします。それらをふまえて次に活かすことはありますが,ユーザフィードバックを捉え切れているかというとそうではありません。

森田:それって,Webとかプロダクトとかに限らず,おそらくデザインの本質でもあると思うのですが,デザイナー自身が直したいか直したくないかの判断は,最終的に自分の感覚で行うものであって,それを発注側やユーザに対してきちんと説明できる理由を持っているかどうかではないかと思います。

長谷川:たしかに, 長期プロジェクトの場合は,説明をしやすいように仕込んでおくことがありますね。長期でできる案件であれば,長期的なストーリーを作り込み,仮説と検証の必要性や価値,またそれぞれの結果を説明することで発注側に納得してもらえます。

森田:それができなればデザイナーではないんですよね。ただ,今のデザイナーの中には,自分はこれが好き,だけどその先の説明ができない人間がいます。本来ならばAD(アートディレクター)のスキルセットも必要です。

岡村:そうはいっても,デザイナーの意見⁠だけ⁠ありきではなくて,発注側の意見を採り入れることも大切ですね。発注側が正しいことは当然ありますから。

長谷川:正しい判断材料がない場合,主観だけがぶつかり合ってしまうことがあります。それでも,お互いの意見を尊重し合うことが大切で,実際⁠フューチャーシナリオプランニング⁠という,将来を考え,お互いがわかりあうための手法が存在します。これは,プロジェクトに関わっている人間全員でストーリーを考え,お互いの意志疎通をしていく,コラボレーション技法の1つです。

デザインプロセス

阿部:今の流れから,実際のデザインプロセスについてもお聞きしたいのですが,岡村さんはどのようなプロセスを採用しているのですか?

岡村:皆さんに公開できるように体系化はしていません(笑⁠⁠。あえて固定したプロセスを持たないようにしている,と言ったほうが良いかもしれません。

ただ,はじめの話題にも戻りますが,私の場合,プロトタイプをつくることを重視ししています。プロトタイプをつくりながらプロジェクトメンバーの理解を深め,触って体験してもらうのが最も効果的で早いと思っています。

森田:それはプロダクトやインタラクションデザインのケースですよね。Webの場合,どうされていますか?

岡村:Web の場合というか,検討段階から制作段階になるとプロセスを重視します。

検討段階では,画一的なプロセスだけではなくて,案件によって新しいアプローチを考えたりもしていて,新しい試みはメンバーのテンションも上がります。ですから,たとえば同じテーマで2回目の仕事が来たときでも,異なるアプローチを採るなど,新しいプロセスは意識しています。

たとえば,これは知人からアドバイスだったのですが,ペルソナ設定をするときに,データ上のペルソナではなくて,社内にいる人の中から想定ユーザに近い人に,ペルソナとしてチームに入ってもらい,意見を聞くことがあります。生身の人間ですから,視点が変わっておもしろいですし,思いも寄らないアイデアや実装が生まれることがあります。

阿部:そのユーザとなった人に,実際にヒアリングをしたりもするのですか?

岡村:はい,具体例として,トンマナを聞いたり,実際に使ってみて気になったことを聞いたりします。発注側にも,その人をペルソナ像であることを,きちんと説明して提案します。

ポイントとしては,⁠ペルソナとしてのユーザには)あくまで外野として入ってもらって,プロジェクトの中にはコミットしてもらわないことです。そうすると,より客観的な意見が見つけられます。

コンセプト設定とユーザバリュープロポジション

阿部:僕から質問ばかりをしてしまうのですが(笑⁠⁠,今,プロジェクトを進めるときに,コンセプトをガッチリ決めて進めるのが良いのか,あるいは後付で調整するのがよいのか,悩むケースがあるのです。こういうとき,岡村さんはどうされていました?

岡村:ケース・バイ・ケースでもありますが,私は手を動かしながらコンセプトを固めていくのが良いと思っています。そのほうがリアリティがあります。

つくりながらできあがるコンセプトというのは,実は後付ではなくて,ある方向性に向かってできあがったものだとも言えますね。デザインする人間が,いくつかの方向性の中から言語化せずに選んでいったもので,深く考えると後から言葉できれいに説明できる。最初に言葉で考えすぎる弊害もあるように思います。

長谷川:おそらく阿部さんが言っているコンセプトというのは,コンセプトのためのプロトタイプコンセプトのようなものだと思います。プロジェクトミッションとはまた違うものですね。何かをデザインをするときには,コンセプトだけではなく,ユーザバリュープロポジション(ユーザへの価値)をしっかりと決めることが重要でもあります。

阿部:プロダクトデザインの場合,それが明確ですね。

デザインの範囲,Webの概念

岡村:コンセプトにも関連することとして,以前は,サービス内容をまず固めて,その後にデザインするということが多かったのですが,最近は,サービスの設計と,コアになるインタラクションデザインを同時並行で進めることが増えています。可視化して,経験できるものがベースでないとサービスの設計が難くなっているということの裏返しなのかもしれません。

長谷川:要因の1つは,世の中が分断化,細分化されてきたからですね。

岡村:結果として,デザイン業界として,たくさんの人が入りやすくなってきたと思います。そして,個人,企業という枠がなくなっていますね。

森田:そういった細分化が進む状況の中で,たとえば,人だったり,対象領域だったり,それらをすべてつなぐインフラとしてWebがあると思います。みんなが付き合うインフラ,それがWebの概念だと思います。さらに,今はWeb自体が,単発のメディアではなくて継続的なものとして捉えられてきているので,その点をもっと活かしていけるようにしたいです。

今,Webに関わる人の課題は,⁠細分化された状況をふまえて)プロジェクトをきちんと回す能力を備えている人が少ないことですね。そこはこれから解決していきたいです。


今回は,プロダクトやインタラクションデザインの特異点から,デザインの本質,最後はWebの概念について1つのまとめが出た内容となりました。プロトタイプをつくるという意識,つねに新しいアプローチに取り組む姿勢を忘れず,そして,Webに関わる人であれば,Webの可能性を最大限に活かして,人やものを繋げていく意識を高めていくことが大切なのではないでしょうか。

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著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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