キーパーソンが見るWeb業界

第16回 ソーシャルメディアの次の展開

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Webを見なかった2010年

阿部:栗田さんというと,海外の情報に敏感で,CBCNETは,海外の新進気鋭のクリエイターやアーティストをピックアップしているイメージがあります。これって意図的に?

栗田:最初はそうでしたね。カッコイイって思うWebサイトを集めていました。その後,Webサイトの数は急激に増えて,それにまとめサイトがどんどんでてきているので,僕らの役割はそこにはないかなと思って,最近はやってないですね。

森田:Webが増えてきたって思う一方で,2010年って体感的にWebサイトを見なくなったなって感じています。

栗田:僕も同じです。これって,2010年の象徴的な出来事の1つなんじゃないでしょうか。みんな断片的にサイトを見るようになった。Twitterをはじめとする,ソーシャルメディアの台頭が大きく影響していますよね。1つのWebサイトで完結する,というのはほとんどないですよね。

森田:TwitterとかTumblrの特徴でもありますが,個別の記事やページに,誰もが直接アクセスしやすくなった。これが大きな要因ですね。

阿部:たしかに,Webに関わっている人たちでさえもWebサイトを見なくなってますね。

森田:もう1つ,情報収集の手段といえば定期巡回がありましたが,これも少なくなりました。

栗田:その点ではRSSリーダーを使っている人を一気に見なくなりましたね。代替としてソーシャルメディアが台頭してきているからでしょうが。

阿部:僕も2009年はiGoogleを使っていて,朝PCを立ち上げたらまずRSSでブログの記事をチェックしていたのが,2010年に入ってからはTwitter,そしてFacebookをチェックしていました。これらの良い点は,旬なものをすぐ見つけられるところですね。

栗田:こうした動きに関して,ポータルを運営している立場から見て面白いのが,以前のポータルサイトでは,引用元を掲載することが必須条件で,引用元がないと指摘あるいは怒られるほどでしたが,今では引用などなくとも共有されているわけです。

阿部:(情報の裏付けよりも)情報のリアルタイム性に注目が集まってきたと考えられます。

森田:情報の1つ1つにはたいした意味がなくても,⁠情報が)集まるということに意味が出てきたとも捉えられますね。

Webサイトにある“情報”の意味,メディアの使い分け

栗田:制作側の立場として,昔との比較という点で言うと,以前はWebサイトを作ることが非常に重要で,カッコイイWebサイトを作ることでコミュニケーションを生み出すなど,作ることそのものがコミュニケーションになっていました。でも,2010年はそういう考えがなくなったように思います。

長谷川:そうなった理由の1つは,⁠Webサイトは在って当たり前⁠という時代になったからでしょう。それと,昔であれば自分のサイトを作るという目的があったのが,SNSやブログポータルの登場でその目的がなくなったわけです。環境の整備により,わざわざ作る必要性がないわけです。

森田:そうですね。たとえばブログでエントリを書くという行為は,その時点で,新しい情報を作り出しているわけですが,昔のサイトの場合,自分のPCのスペックを書くだけで終わったりしていました。情報そのものの質よりも,情報を出すこと自体に意味があった時代です。

長谷川:アンダーコンストラクション(工事中)なんていうページも,まさに情報を出すためのものでした。メディアを作るだけでコミュニケーションが作れたわけです。

一方で,サイトを作る敷居が下がったことにより,多くの情報がネットに氾濫しつつあります。そこで,そのアンチテーゼとして,zine(出版物)のような紙に改めて注目が集まったりもしてきています。

あと,オンラインに情報が載る=即座に共有物になるというところも,昔と変わってきている点です。

栗田:もう1つ,日本の中に限った話で言うと,言語の問題によってメディアの意味が変わるように思っています。日本人は,ソーシャルメディアでのコミュニケーションが得意ですし,もし,⁠日本人が持っている)英語の心理的障壁が取り払えれば,新しいメディアの世界が生まれてきそうです。

思想とネット,Webの成長

長谷川:Webサイトを作ることが目的だった時代から,Webが在って当たり前の時代になってきた一方で,最近ではWebエコシステムの考え方に注目が集まっています。これは,Webサイトが運用されていると同時に,メールやソーシャルメディアなど,他のメディアが同時に動いているという考え方です。今では,それらのトラフィックのほうが大きくなってきていて,そこから訪れたときのサイトの意味がどうあるべきかということが,2008年のIA Summitで取り上げられていました。

SEOに似ているところでもありますが,この考え方では,訪れる人の期待を裏切らないようなサイト設計,ページデザインが必要になります。

森田:Webサイトを設計する場合,ついつい分類をしながらトップページから構成してしまうのが当然のものになりがちですが,今のそういう(Webエコシステムの)流れを見ると,本質的には,⁠とにかくトップページから⁠というのはこれからはどうでも良いことなのかもしれませんね。

栗田:今のお話を伺っていて,最近話題になっているインターネット時代の批評家たちを思い出しました。今までWeb制作側としてはあまり接することがなかった分野ですが,インターネットがある世界をどう捉えるか,白熱した議論を交わしていて,これからのWeb制作側にもつながる話なのかもしれません。

森田:自分たちとは違う立ち位置の,業務としてのWebから離れている人たちの動きや考え方だからこそ,新しく感じられる部分があります。